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今回はブナガヤさんのブログ『農と島のありんくりん』からご寄稿いただきました。
驚くべきニュースが飛び込んできました。
トランプがジョン・ボルトンを解任したそうです。まだ飛び込んできたばかりですので、私も情報を収拾している段階で、速報としてアップしておきます。
「米国側、トランプ-ポンペオ-ボルトンの合作で首脳会談の1週間前からハードル上げた」2019年3月13日『hankyoreh japan』
http://japan.hani.co.kr/arti/international/33006.html
「【ワシントン時事】トランプ米大統領は10日、ツイッターで、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を更迭したと明らかにした。
「ボルトン氏の多くの提案について意見が異なった」と指摘。「彼の任務はホワイトハウスで不要になった」と述べた。後任は来週指名する。トランプ氏は9日、ボルトン氏に更迭を通告したという。トランプ氏と強硬派のボルトン氏は、北朝鮮やイランとの対話やアフガニスタンからの米軍撤退などをめぐって意見対立が表面化していた」(時事9月10日)
ボルトンとポンペオの間には確執が伝えられていました。
「公式な会議を除いてほとんど口もきかない状態が続いているといい、政権の今後に影響が出る可能性がある。
2人はこれまでも摩擦が指摘されることがあったが、最近は「全面的な対立」に発展しているという」(時事9月8日)
今回のボルトン更迭には国務省が動いたと言われています。
ボンペオとボルトンは閣内で完全な対立関係となっていて、この間ボルトンは重要な会議からはずされていたようです。
その理由がふるっていて、ボルトンが機密情報を漏らしているだろうという疑惑を言う者が「ホワイトハウス高官」にいたからだと言われています。
この「高官」とはたぶんポンペオでしょう。
「ボルトン氏はこのところ、政策決定の蚊帳の外に置かれる場面が目立つ。ワシントン・ポスト紙によると、8月16日に政権幹部がアフガニスタン和平への対応を話し合った際、出席者のリストには当初、ボルトン氏の名前はなかった。「和平案に反対し中身をリークする」(高官)ことが懸念されたためとされる。
CNNによれば、この動きを主導したのは国務省だった。政権の要のマルバニー大統領首席補佐官代行も、自身のチームに安全保障の専門家を置くなど「ボルトン外し」に加担している。これに対しボルトン氏は巻き返しを図り、アフガン和平などで大統領に対し、批判的な意見具申を続けているという」(時事9月8日)
トランプのツイートです。
….I asked John for his resignation, which was given to me this morning. I thank John very much for his service. I will be naming a new National Security Advisor next week.
私は昨夜、ジョン・ボルトンに対し、もうホワイトハウスには不要だと伝達した。私は彼のアドバイスの多くに強く反対しており、政権内外にもそのように考える人が多い。私はジョンに辞任を求めたところ、今朝、辞表を受け取った。ジョンが職務で尽力してくれたことを感謝したい。国家安全保障アドバイザーは来週指名するつもりだ。
巷間言われてきたことは、ボルトンが直言タイプだということです。
彼は諫言を厭いません。
トランプはかつてこれ以上の国防長官は望めないと思われるジェームス・マティスを解任した原因は、トランプに同盟の重要さを直言したことによって軋轢が生じたからだと言われています。
マティスは米国は自由主義陣営のリーダーとしての責任の上に米国の利害があると見ますが、トランプは米国の一国的利害こそが大事で、同盟諸国はもっと応分の負担をするべきだと主張しました。
「狂犬マティスが「悪魔の化身」と呼ぶ男ジョン・ボルトンとは」2018年3月30日『Yahoo!ニュース』
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20180330-00083353/
ちなみに、就任したボルトンがマティスに挨拶に行ったところ、「あなたのことは悪魔の化身だと聞いている。あなたのことをお待ちしていた」というブラックユーモアでもてなされたそうです。
このふたりの路線もそうとうに異なっていましたから、マスィスにとってなんでよりによって、という心理があったのでしょうね。
それはさておき、ポンペオが柔らかにトランプと接して軋轢を回避し、側近の地位を確保していったのに対して、ワンマン社長タイプのトランプから見ればボルトンはうるさいご意見番として煙たがられていたようです。
こういうキャラ的な問題がそのまま政権内の確執になってしまうのが、トランプ政権のウィークポイントです。
トランプはかつてと較べればそうとうに練れてきてはいますが、いまだ共和党を支配しきったとはいえず(再選候補にはなるでしょうが)、ワシントンのオーソドックスな既成官界、政界からは激しく遊離した存在であることにはかわりありません。
ですから、彼は既成概念を打ち破った思い切った外交交渉が出来る代わりに、いつまでたっても一匹狼的な性格から自由ではありませんでした。
それがトランプ政権の強みであり、同じ理由で弱点なのです。
さてこのボルトンとポンペオ両者の軋轢は、ボルトンの強硬策に常に反対してきた国務省派にとってすこぶる好都合なことでした。
国務省が進める軍事的オプションを回避してスティタスクォ(現状維持)を図ろうとする方針にとって、すぐにダンビラを抜きたがる(と国務省には見える)ボルトンは一刻も早く排除したい存在でした。
国務省やリベラルメディアはボルトンを「壊し屋」と呼んでいました。
このように見ると今回の更迭劇のシナリオを書いたのは、ポンペオと国務省だろうと推察されます。
もうひとつは、トランプ社長との微妙な路線対立です。
ボルトンは原則派に属します。
口から出した言葉は、なんらかの形で実行しようと考えるタイプです。
これはトランプがえてして、ボルトンのよう強硬策を口にしても、それは必ずしも本心ではなく、相手の妥協を引き出すためのただのブラフ、あるいはディール(取引)であることと対照的です。
たとえば、先日のイランによる無人機撃墜事件の時にも、ボルトンはイランの軍事施設を報復すべきだと主張したようです。
「米紙ワシントン・ポスト(電子版)は15日、中東への空母派遣など対イラン強硬策を進めるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)らに対し、「トランプ大統領が不満を抱いている」と報じた。米・イラン間の緊張の高まりが軍事衝突につながると危惧する声も出ており、トランプ氏は外交解決を望み、イラン指導部と直接交渉したいと考えているという」(時事5月19日)
トランプにとってイランに対する軍事カードはあくまでもカードにすぎず、イランにかぎらず中東には深入りしたくないというのが本心でした。
それはトランプが中東かへの介入を批判して当選したからで、彼からすれば公約の一丁目一番地だったからです。
「トランプ氏は、泥沼化したイラク戦争(2003年開戦)を「避けられた大失策」と批判し、中東の米軍撤収を目指してきた経緯がある。ポスト紙は「トランプ氏は新たな戦争に巻き込まれるのを懸念しており、より好戦的な補佐官らの姿勢に対する強力な重しになっている」と指摘した」(時事5月16日)
「(ボルトンは)イラク戦争を支持した張本人でもある。イラクが大量破壊兵器を製造し国際テロ組織「アルカイダ」系の武装勢力を匿っているという疑惑が誤りだったと判明しても、戦闘継続を主張した。トランプ政権で大統領補佐官に就任して以降は、冷戦下の米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄や、イラン核合意からの離脱を促進した」
(ニューズウィーク2月1日トム・オコーナー)
「米朝会談 中身のないショー、再び「トランプ政権下、北朝鮮は核保有国として正常化」米専門家」2019年7月1日『Yahoo!ニュース』
https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20190701-00132376/
北朝鮮に関しても同様で、トランプは大向こう受けする派手なディールを好み、正恩との直接交渉をやってのけました。
これは是非が別れるところで、北朝鮮のようにトップに権力が集中した独裁国家相手だとひょっとしてひょっとするかもしれませんが、正攻法ならありえないような場の雰囲気で動かされかねない危うさもあります。
私は2回の直接会談は薄氷の上の綱渡りだったと思っています。
トランプは手柄欲しさに「北朝鮮の非核化」とすべきところを、「朝鮮半島の非核化」で合意してしまいました。
危ない、危ない。「朝鮮半島非核化」って、北朝鮮にとって在韓米軍の撤退を意味しているんですぜ。
このように米国が譲ったにも関わらず、北朝鮮は完全非核化はおろか、なにひとつお土産を持ってきませんでした。
オンボロの核施設ともう使っていない核実験場の廃棄では話になりません。
この失敗に終わりかねない直接会談に歯止めをかけたのがボルトンでした。
会談に出席したボルトンがうんにゃと言ったと言われています。
しかしこのボルトンは既に板門店における正恩との会談において同席を許されていませんでした。
こいつがいるかぎり北朝鮮はオレのディールに乗ってこない、こいつをクビにすことは北への次回会談へのシグナルになる、たぶんトランプはそう考えたのでしょう。
ボルトンを毛虫のように嫌っていた正恩は、このボルトン解任のニュースをさぞかし手放しで喜んでいることでしょう。
たぶん次回会談は年内に開かれるでしょうが、ボルトンなき会談がどのようなものとなるか、ゾッとしません。
今後の最悪なケースを考えると、ボルトンが主体となって進めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)は神棚に祭られてしまう可能性がでてきました。
米国にとって、米本土に届く長距離核さえ封印すれば、このままズルズルと短距離弾道ミサイルを容認し続け、日本を目標とした中距離核については事実上の容認をする可能性が濃厚となりました。
また黒井文太郎氏によれば、アフガニスタン問題で、トランプがタリバン代表を呼んで直接会談をするという計画があり、ボルトンは強く抵抗しその際に激しい口論となったようです。
結局タリバンとの会談は流れましたが、これが直接に辞任のきっかけとなったそうです。
トランプは直接会談が好きだねぇ、あの男、よほどディール力に自信があるのか、みさかいなくやりたがりますが、裏方の長期間のきちんとした積み上げがないところでボス交渉をしても結果は得られません。
かえってつまらない妥協を呑むだけの結果に終わり、ひいては同盟国の不信をよぶだけに終わります。
最後にボルトンは拉致被害者の家族と親身に接してきた人であり、ホワイトハウスで拉致についての日本の立場を代弁できる数少ない理解者だったことから、大変に残念なことです。
執筆: この記事はブナガヤさんのブログ『農と島のありんくりん』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年9月14日時点のものです。