- 週間ランキング
ジェラルド・バトラー主演の最新アクションと聞けば、「また向かうところ敵無しのジェラルド・バトラーが、鍛え上げた肉体を武器に敵と派手な銃撃戦を見せるんだろうなあ」と思ったそこのあなた! 4月12日(金)公開の映画『ハンターキラー 潜航せよ』は、全然違うんです!
今回のバトラーの役どころはアメリカの最新鋭攻撃型原子力潜水艦<アーカンソー>の艦長、ジョー・グラス。現場あがりのたたきあげの軍人で、実践での優れた経歴にもかかわらず、正義感の強さゆえの暴走に昇進が見送られていました。そんな彼が艦長として初めて与えらえた任務は、ロシア近郊で消息を絶ったアメリカ海軍の原潜<タンパ・ベイ>の捜索。現場に向かった彼らが見つけたのは、撃沈された<タンパ・ベイ>と艦体が無残に損傷したロシアの原潜でした。アーカンソーの乗員は、艦内でからくも生存していた艦長のアンドロポフ(ミカエル・ニクヴィスト)を救出します。一方ワシントンではロシア国内で起きている不穏な動きを察知しますが、それが真実だとしたら米露間での戦争開始は不可避。地獄の火ぶたが切って落とされる前に、アメリカ大統領は<アーカンソー>に前代未聞の禁断の作戦を命じます。
実はこの映画、原作のジョージ・ウォーレス&ドン・キース『ハンターキラー 潜航せよ』(山中朝晶訳/ハヤカワ文庫)を無視して語るわけにはいきません。なぜならウォーレスはアメリカ合衆国海軍退役中佐で、本作と同型の原子力潜水艦USS<ヒューストン>の元艦長。実践経験の豊富な作者の手による原作は、艦内のリアルな描写や緊張感あふれる戦闘シーン、驚くべき作戦の数々など、魅力的な要素がふんだんに盛り込まれたスケールの大きな長編エンタメです。
そのため映画化に際して内容がかなり改変されているのですが、まず驚くのは原作の金融関係の陰謀エピソードが丸ごとなくなっていること。これで登場人物の数が絞られ、軍事アクション要素が凝縮されました。他にも原潜の名前が<トレド>から<アーカンソー>に変わっていたり、艦長と乗組員たちの関係や事件の首謀者であるロシアの軍人の設定など、細かいところも多く脚色されていますが、なんといっても最大の違いはクライマックス! 予想外の大胆な改変に、先に原作を読んでいた筆者は鑑賞後に思わず読み直してしまったほどです。映画と原作との違いはしばしば問題になりますが、この脚色は原作ファンも納得のいく大技ではないでしょうか。原作では映画版に無い恐るべき陰謀や冒険エピソードが満載で、中でもダイナミックな見せ場である米軍特殊部隊シールズの活躍場面は大興奮! 絶体絶命の危機に直面した彼らが取った驚愕の作戦には、思わずガッツポーズしたくなるほどのカタルシスが味わえます。
海軍顧問の詳細なアドバイスのもと、内部を忠実に再現した原潜の大がかりなセットも見逃せませんが、役作りのために実際に原潜に乗船して海に出たというジェラルド・バトラーが演じる冷静沈着な艦長が、乗組員全員の命と祖国の平和を守るため、いかにして未曾有の危機を乗り越えるのか。得意のアクションを封じた彼の凄みのある演技はファンならずとも必見です。そのほか昨年のオスカー主演男優賞を受賞したゲイリー・オールドマンや、スウェーデン本国版の『ミレニアム』で主人公ミカエルを演じ、惜しくも2年前に亡くなったミカエル・ニクヴィストなど演技派が脇を固めています。
『U・ボート』の絶望的な閉塞感、『レッド・オクトーバーを追え!』の手に汗握る軍事スリラー的要素、『クリムゾン・タイド』の指揮権争いにおける心理戦など、”潜水艦モノに外れなし”と言われるぐらい名作ぞろいの潜水艦フィクションに、新たな一作が加わりました。映画と小説の異なるクライマックス、あなたはどちらがお好みでしょうか。ぜひご自分でお確かめください。
『ハンターキラー 潜航せよ』4月12日公開
https://gaga.ne.jp/hunterkiller/
(C) 2018 Hunter Killer Productions, Inc.
【書いた人:♪akira】
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。