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今回は弁護士業務と法律ネタ帳(弁護士大西洋一)さんの『note』からご寄稿いただきました。
秘密録音(無断録音)データの証拠能力について、民事的な扱いを整理しました。
なお、「証拠能力」という用語と使い方ですが、
「証拠能力=証拠として用いて良い資格」
「証拠能力がある=それを証拠としてOK」
「証拠能力がない=それを証拠とすることは許されない」
ということは理解しておいて下さい。
紛らわしい用語として、「証拠力」というのもあります。
これは、「証拠の証明する強さ、裁判官の心証にどれだけ影響を与えるか、どの程度決定的な証拠なのか」という意味です。「証拠能力」とは全く違う意味なので注意して下さい。
さて本題。
以下、書きますが、長い文章は読むのも書くのもキライなので短く書きます。
原則:
民事事件では、証拠能力は制限されない。
だから秘密録音データも民事事件では証拠としてOK。
例外:
反社会的な手段で証拠を収集した場合は、証拠能力が否定される可能性がある。※そのような裁判例アリ。
以上です。おわり
※ちなみに上記はあくまでも、録音に証拠能力があるかどうかの結論を書いただけであり、録音行為が問題あるかどうかという話とは別次元の話です。録音行為により就業規則上の処分を受けたり、予備校や講演会の講義や会社の会議、コンサートのようなところで見つかって追い出されたりする可能性はあります。
・・え?これじゃ分からないって?(笑)
では、上記を前提として秘密録音データの証拠能力を検討します。
※以下は私見です。うっかり民事訴訟で違う扱いをされても文句言わないで下さいね。異論・反論を受けて私の意見が変わったときは書き換えます。
ではどうぞ。
・会話当事者がした無断録音の証拠能力は、まず問題なくOK。
→反社会的な手段じゃないですからね。メモをとるのと同じですし、記憶に基づくより正確ですし、あとで脅されたとかだまされたとか難癖つけられた際の反論材料として自分の身を守る証拠ともなり得るものです。
・会話当事者の一部から頼まれて録音した場合も、問題なし。
→自分で録音するか、誰かに頼んで録音してもらったかの違いがあるだけですし、反社会的な手段とは言えないでしょう。
・録音していることが知れたところでとれた録音データの証拠能力も問題なし。
→典型は車のドライブレコーダーに入ってた録音や防犯カメラでとれた音声などですね。反社会的な手段で集めた証拠ではないです。
・会話当事者誰からの承諾もないが、第三者にも聞こえてきてしまう声をそのまま録音した場合も、問題なし。
→聞こえちゃってることを録音しちゃってるのも、反社会的な手段とは言えないでしょう。
・雇用条件の説明などがなされている会社説明会で、録音禁止といわれていたけれどそれに反して勝手に録音して得た録音データも、たぶん問題なし。
→「録音ダメ」と言われていたとしても、口頭で知らせている内容のメモ的な録音ですから反社会的な証拠収集とは言えないですし、入社後に「事前に説明のあった雇用条件は実態が違う」という紛争になった際に、会社説明会でどんな話があったのかを裏付ける証拠として使うことは問題なく認められるのではないかと思います。
・自分の職場デスクにスイッチの入った録音機を置いて席を外し、そのときの周囲の会話を録音した場合も、たぶん問題なし。
→そこに録音機を置いて録音したデータが、反社会的な手段によって収集された証拠とまでは言えないでしょう。
・自宅内に録音機置きっぱなしにして、不在時の自分以外の誰かの様子を録音していた場合も、問題なし。
→自宅ですからね。自分の管理権内の場所です。自分の自動車内なんかも同様でしょうね。破綻していない同居の夫婦で妻が夫の車にスイッチの入った録音機を忍ばせたような場合なんかも、妻(夫)が自分の荷物をその車に入れてもいい関係だったら大丈夫な気がします。
以上が「問題なし」「問題なさそう」なケースです。
以下、「問題ありそう」なケースです。
・別居中の配偶者の家に無断で忍び込んで録音機を置いて収集した録音データは、証拠能力を否定される可能性がある。
→住居侵入して録音機を仕込んで盗聴録音するのは、反社会的な手段によって収集した証拠とされる可能性があると思います。
・会社員が、自分の部署外or自分の権限外の事柄を非公表で検討する秘密会議の会議室に録音機を置いて収集した録音データも、証拠能力を否定される可能性がある。
→例えば、内部の不正を公益通報した後、自分が人事的に不利益な取り扱いをされたんじゃないかと思って、人事部の会議内容を盗聴録音するようなケースですね。人事事項は秘密を保持する必要性が高いのに、それを盗聴という手段で証拠収集してしまうのはやりすぎだということで、証拠能力を否定される可能性があると思います。
※今後、気まぐれに追記するかもしれません。また、「こういう類型はどう思う?」というのがあれば、私の私見でいいのなら聞いてください。きまぐれに回答するかもしれません。
おわり
執筆: この記事は弁護士業務と法律ネタ帳(弁護士大西洋一)さんの『note』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年4月5日時点のものです。