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今回はふーさんのブログ『生活の中に医療を』からご寄稿いただきました。
こんにちは、ふー(@dr_fooooo)です。
https://twitter.com/dr_fooooo
よくドラマや映画では、飛行機内でCA(キャビンアテンダント)さんが「お医者様はいませんか?」というフレーズがあります。
僕は呼ばれたことはありませんが、友人の医師は呼ばれたことあるそうです。
今回、日本医師会とJAL(日本航空)が提携して、このフレーズがなくなるかもしれないというニュースを見つけたので、医師目線で記事にしてみました。
今回ニュースになった提携はこちら。(2016年の記事です。)
「「お客さまの中に…」はもう不要?医師の座席情報を把握 国内初、JALと医師会が新制度」2016年2月4日『産経ニュース』
https://www.sankei.com/life/news/160203/lif1602030051-n1.html
日本航空と日本医師会は3日、医師が飛行機に搭乗する際、日航側が座席情報などを把握できる「医師の事前登録制度」を導入すると発表した。機内で急病人が出た際、迅速な手当てができるという。
この提携自体はいいこともあると思います。
急に飛行機の中で、「お客様の中にお医者様か看護師様はいませんか」なんてアナウンスがあったら、一般の方も「何事だ!?」っと思って、緊張感が走りますしね。
医師や看護師側も人の視線がある中で処置をやるのはちょっと嫌ですしね…
記事にあるように迅速な手当ができることもメリットです。
しかし、今回の提携は、個人的には疑問です。
この提携では何も変わらないと考えています。
日本医師会は医師を会員とする公益法人ですが、医師全員が加入しているわけではないです。
日本医師会の会員数は、2017年時点で170,199人います。
内訳は開業医が83,534人、残りが勤務医等となっており、ほぼ半数です。
じゃあ、医師の数は?
2012年時点での医師数は30万人を超えています。(実は結構な人数がいます)
開業医が10万人いて、勤務医(病院と大学病院を合わせた数)は19万人程度となっています。(2016年のも確認しましたが大きく変わっていませんでした。)
なので、日本医師会数はグラフにするとこんな感じです。
開業医の医師会に加入している率は85%程度ありますが、勤務医は50%弱しかありません。
ぼくは日本医師会には入っていません。
なぜなら医師会に入る額が高いし、勤務医の若手にとっては何のメリットも感じられないからです。
ちなみに2018年4月から安くなったみたいですが、それでも高い気がします。
ここで医師資格証というカードです。
この発行を行っているのが先ほどの日本医師会です。
調べてみるとこんなカードです。
http://www.jmaca.med.or.jp/download/file/howto.pdf
これ、ぱっと見は免許証みたいですが、医師免許証ではありません。
医師免許証って賞状みたいなやつです。
ちなみにこれは僕の医師免許証。
JALは医師免許証ではなく、日本医師会が発行する医師資格証で医師を登録しています。
この医師資格証は、非会員で年間費6,000円かかります(医師会員は無料になっていました)。
2017/12段階で10,479件の申請となっています。
少しずつ増えているんですね。2016年に調べた時は半分以下だったと思います。
(https://www.medis.or.jp/8_hpki/pdf/20180120yano_s.pdfより引用)
ここにJAL DOCTOR登録制度を利用している人数も記載されていました。
総数はたったの658人。
対応事例は重篤5件、軽微5件となっています。
対応事例が10件って多いのでしょうか?
これはあるアンケート結果です。
残念な結果ですね。
医師は以下のような応召義務を全員知っているにもかかわらずです。
診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。(医師法第19条第1項)
なぜこんなに名乗り出ないのかには理由があります。
答えは簡単。訴えられたくないからです。
飛行機の中は、限られた医療資源で治療を行わなければならない(しかも仕事中でもない)にも関わらず、治療を行って救えなければ、遺族が訴える可能性があるからです。
本当に訴えられるのか?
実際に訴えられたケースはないようですが、医学雑誌にはいろいろな記載があります。
wikipediaにも載っている代表的な記事を1つだけご紹介。
「ある夏の夜の深夜に、日本にある自宅クリニック前の路上で急病人が発生した。クリニックの医師が診察したところ、上気道閉塞を疑われる所見で挿管は不可能と判断された。救急車を手配して、転送のため近所の大学の救急救命センターに電話中、患者は吸気のまま呼吸が停止し呼びかけにも反応がなくなった。(首が腫れた状態で、喉仏の隆起もなく、気管切開が困難な状態であったが、一刻の猶予も許されないまま、)緊急で気管切開を行い、気管切開自体は成功したが、血管を傷つけてしまい、出血多量で死亡した。その医師を待っていたのは、警察による業務上過失致死罪の容疑による取り調べであり、さらには、当夜、あれだけ「助けてください」とその医師にとりすがった患者の妻からの弁護士を介しての損害賠償請求の通知であった。」
(平沼高明「良きサマリア人法は必要か」週刊医学のあゆみ第170号pp953-955、1994年)
現在の日本の司法では善意で行った救命処置でも遺族は訴えることが可能となっています。
勤務外にも関わらず、善意で行った処置で訴えられるのであれば、その場を何もせずにやり過ごす医師がいてもおかしくないと思います。
海外では法整備はどうなっているのか?
善きサマリア人の法という概念があります。先進国では導入が進んでいますが、日本の法律には明文化されていません。
善きサマリア人の法とは
急病になったりした人などを救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われないという概念です。
これがあることによって、誤った対応をして訴えられたり処罰を受ける恐れをなくして、その場に居合わせた人による傷病者の救護を促進するとも言われています。
日本でも法整備の必要性が言われているのですが、なかなか前に進まないのが現状です。
今回の日本医師会とJALの提携ですが、発表されて2年以上経過しても650人しか登録していないため、飛行機内での急病患者の対応は大きく変わっていないと思います。
それよりも善きサマリア人の法を制定することが大事です。
この法整備が進めば飛行機だけではなく、道端での急病患者の対応がスムーズになると考えられます。
まあ、いつ制定されることやら…
執筆: この記事はふーさんのブログ『生活の中に医療を』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年1月17日時点のものです。