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どうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
あなたは借金まみれになった人間がどこに送り込まれるかを知っていますか?
女性であれば、風俗やタコ部屋の性欲処理嬢、温泉旅館の住み込み仲居。
男性であれば、闇職要員や危険薬品の治験者、原発労働者、新聞拡張員、そして危険な場所での警備員。
そう、あの警備員という職業、実は借金まみれの人々が借りた金を返すために利用されている職業でもあるんです。
もちろん、すべてがすべてそうとは言いませんが、ヤクザまがいの恐ろしい警備会社も存在しているようで……。
今回は、極悪警備会社に送り込まれた借金まみれのフリーターくんの“リアルカイジ”なお話を聞いていただきましょう!
告白者/友田勝男(仮名) 大阪府 フリーター 33才
※証言を元に再構成しています
また負けた……。オレが通っていた闇スロットの店からは、害虫でも叩き出すように追い出された。
稀代のギャンブル好きだったオレの借金は、嵩みに嵩んで、計600万円。
精密機器の工場で1ヶ月働いた給料のほとんどは、振り込みからたった2日でほとんどなくなった。
アパートの家賃も3ヶ月滞っているし、どうしよう……。
そこにやってきたのは、自分が住んでいる街の片隅にあるサラリーローンの借金取り・田中。巧妙な取り立てで恐れられている男だった。
これはヤバい……と身を隠そうとしたとき、背中を射抜くドスの利いた声。
「おーい! 友田! おまえ、借金どないするんじゃ! ちょっと顔貸せやぁ!」
「は、いや、い、いや……」
180センチ、90キロを超える巨躯がのしのしとやってきて、太く力強い腕がオレの首に巻きつく。ぐぐぐ……く、ぐ、ぐるしい!
そのままの状態で近くの喫茶店で聞いたのは、借金を全額返済できるチャンスがあるという話だった。差し出される一枚の求人広告。
「おお、これや。」
《夜勤高給優遇! あなたのやる気、待ってます! Y警備保障》
「これって、普通の警備員の仕事じゃないんですか?」
「まぁ、働いてみたらわかるわ。しかも、寮と3食賄い付きや。おまえ、家賃も払ってないやろ? な、ええ条件やろ?」
「は、はぁ……」
オレはこうして、田中に勧められた警備会社で働くことになった。
向かったのは、市内の薄汚い雑居ビル。いかにも怪しげな雰囲気が漂っている。底が抜けそうな薄暗く狭い階段を昇った2階。
「失礼します」
擦りガラスのドアをノックし入室した。デスクにはとがり気味のフレームのサングラスを掛けたガラの悪い男が座っていた。
「おう、おまえか。若いな。健康状態も良さそうやな。最近は年寄りばっかりで若いのがおらん。採用やから、今から新任研修や」
「は、はぁ……」
佐藤という男は、黙ったまま、警備員の研修用ビデオをだらだらと流しはじめた。それが、計4日間。1日6千円を握らせてくれる。
正規採用され、初出勤当日。オレは、深夜勤務の巡回警備にまわされた。
5人でパーティーを組み、何軒かの施設をまわるのだ。新人では施設警備はなかなかないらしいのだが、佐藤が推してくれたようだった。
寮は警備会社事務所の奥。8畳ほどの寮には、ジジイが4人と60代のババアが1人、川の字になって寝る。プライベートもクソもあったもんじゃない。ただの男女混合のタコ部屋じゃないか。そして、壁には顔写真付きのWANTEDのポスター。
【玉川春彦 56歳 身元引受人である当警備会社より、250万円の借金を踏み倒して逃亡中】
しかも、マジックで殴り書きされた標語まで壁一面に貼りだしてある。
【相保証の保証人に死ぬほどの迷惑がかかりますから、逃げたりするのは絶対にやめましょう】
【ホウ(報告)レン(連絡)ソウ(相談)を欠かさないように! おかしい動きがある人がいれば、教育長に報告してください】
なんなんや、ここ! オレは、社長の佐藤に寮の貼り紙のことを訊ねた。
「ああ、あれな。ウチで働いてる連中は、借金つくったヤツばっかりなんや。おまえももちろんそうやけどな。そんなヤツらが組の金融部門からまわってくる。この警備会社が借金ともども買い取って、満額返済できるまで、ボロ雑巾みたいに働かせるんや」
く、組? オレは、このとき、借金をつくった以上に人生最大の後悔をした。
朝6時。オレは怒声でたたき起こされた。
「ごおおらぁぁぁ! 立哨(※警戒・監視)だけの仕事で調子悪ぃて、通用せんぞぉぉ!」
一緒に寝起きを共にしているくたびれたオヤジが、井上という屈強な教育長に、朝一番から引き摺り回されている。
「ワシぃぃぃ、熱あってぇぇぇ」
「はぁ、熱? 殴り倒してもっと熱あげたろか、ごらぁぁ!」
「ひぃぃぃ! 行きますぅぅぅ」
人生で最悪の朝を迎えたオレは、寮が用意した小汚い握り飯を平らげ仕事に出かけた。昨晩、チンチロリンをやって過ごした同じ寮の住人に話を聞くと、この警備会社では危険な交通量の交通整備に回された老人が轢かれたり、高所の警備で転落したり、強盗に刺されたりする現場を進んで請け負っているというのだ。いつ死んでもおかしくないが、もう後戻りできないし、乗り切るしかなかった。
昼の勤務は、リストにある各企業やクラブ、神社仏閣など十数ヶ所を、佐藤と井上、オレの3人で巡回。
午後10時。佐藤たちとのに連れて行かれたのは、閉店後のディスカウントスーパー『K』だった。
車から降りた佐藤は、警報機付きの基盤を解除し、わからないように蓋を閉める。佐藤は再び車に戻り、走り出した。
「おい、友田。オレらは、ずっと3人で巡回してた。異常はまったくなかった。ええな?」
「は?」
「ええな!」
佐藤と井上の顔が鬼のようになると、オレは小動物のように小さくなり、「はい」と返事をした。その日は、無事寮に帰りつけたのだが、何だったんだろうか、あのディスカウントスーパーは?
しかし、次の日この警備会社がやっていることの事実を知ることになる。なんと、深夜『K』に窃盗団が入ったというニュースが飛び込んできたのだ。ひょっとして、この会社は窃盗の手助けをしているのか?
その後仕事をこなし、オレは初めての夜間常駐警備に連れて行かれた。場所は経営が危ぶまれている百貨店。杲々(こうこう)と明るい警備室にはカメラが数台設置され、店内の模様が遠目で確認できる。
仕事は閉店後の館内パトロールと、メンテナンス業者の入出リストの管理。オレと井上は、ポーカーをやりながら警備室で過ごした。続々とポリッシュやワックスなどの器材を持ち歩く業者が入れ替わる。床のクリーニングなどがあるのだろうが、赤字続きではそう頻繁には行われないらしいのだ。
5人の業者が入ってきた。3人は当たり前のようにリストに名を記入したが、残りは何も書かずに入場しようとしている。
「あなた、ちょっと……」
2人に声を掛けようとしたとき、隣の井上がオレを制止した。続いて2人に目配せしている。なにをやっているのかまったくわからない。それが、2回続いた。4人の男が、入場証も持たないまま、店舗のどこかに潜んでいる。メンテナンス業者は、仕事を終えて、午前3時半には全員が退出。辛抱できないオレは、井上に声をかけた。
「なんなんですか、これ?」
「ええんや、屋上におるわ。おまえも借金返さなアカンのやろ? 小遣いやる。おまえが黙っとけ。潰れかかったこんな百貨店の仕事がなくなってもええと上からのお達しや」
しかし、オレはトイレに行くフリをして、従業員専用の階段を駆けあがる。簡易シャッターがこじ開けられ、3階の貴金属コーナーにある高級時計が並んだショーケースの前に蠢く人影が……。オレは怖くなり、警備室に戻って、ガタガタと震えながら黙っていた。
■
後日の警察の事情聴取にも、オレは「知らない」で通した。貴金属3千万円相当が盗まれた窃盗事件。井上は、手馴れたものでうまくかわしていた。手渡された封筒には20万円。それからオレは、借金を全額返済するまで、3年間をこの警備会社で働いた。
あれから4年。あの会社で働いていたことを悔やまない日はない。今ではギャンブルも一切やめて、身を隠して静かに暮らしている。
※画像はイメージです
(C)写真AC
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