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今回は『Kaien社長ブログ』より鈴木慶太さんの記事からご寄稿いただきました。
Kaienの創業から9月18日で9年が経ちました。9年を迎えた今、思うことを書きます。このシリーズやや過激です。ごめんなさい。
雇用問題。ニュースになって1ヶ月がたちました。
そんな中、麻生大臣(※)がTV番組(『報道ステーション』2018年8月28日)で「障害者の数も限られていますから、この数を取り合うみたいな形になると、また別の意味での障害、弊害が起きる」と発言したそうです。
前後の流れを知らないので、発言の真意を批評することは避けますが、この切り取った部分だけで見ると、残念ながら「麻生さんのおっしゃる通り」なのです。
実際、障害者雇用は(個人的な印象では)悪い意味で、取り合いになっています。例えば…
地方で農園を経営。周辺に住む農家を障害者雇用のリーダーとして雇い、かつ障害のある人達をたくさん雇う。本社は東京など都会にあり、本業とは関係のない場所、関係のない内容を行っている。仲介業者はこの枠組を運営する料金として管理手数料を徴収する。
という制度の趣旨を履き違えているのでは? というものも出てきています。法律上は問題ありません。ただ、障害のある人を普通には雇いづらいから、こういう手段に訴えているというわけです。手間暇無く雇うということです。なんだか気持ちが悪い印象があります。
一方で普通に雇える障害者は半年1年で転職を繰り返してより良いところ移っていきます。そしてそれを支援するビジネスもあります。特に身体障害の方は人気です。当社の電話での回答でも9割ぐらいは精神・発達障害の方への雇用は後ろ向きでした。
つまり、「雇いやすい人」への人気は高まり取り合いになり、そこで雇えない事業者は「雇いにくい人」を手間なく雇える仕組みにお金を出すような感じです。これって障害者雇用が本来したかったことなのでしょうか?
官公庁の障害者雇用の不足分は2019年度末(2020年3月)までの1年半で、概ね未達成の状態を解消すると聞いています。その場合3000人が新たに雇用されることになります。ここ数年、民間企業の障害者雇用の雇用増加数は1年間に2万人程度です。公的セクターで新たに3000人が雇用されるとなると、例年よりも10%程度も枠が広がることになります。
【参考】厚労省 平成29年 障害者雇用状況の集計結果(PDF)『厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000187725.pdf
その場合、前出の不思議なビジネスが跋扈することにもなるかもしれません。障害者の取り合いは決して嘘ではないということです。
(※そもそも麻生大臣のファミリービジネス「麻生グループ」には障害者支援をしているアソウ・ヒューマニーセンターがあります。西日本で就労移行支援や雇用促進のイベントを行っています。もしかしたらそういう話はグループ経営の中で話に聞くのかもしれません。)
そもそも障害のある人に労働の機会が与えられるのはとても大事です。でも法律はかなり息苦しく、法律に当てはまりづらい人は働きづらいのです。まずは「基礎知識」「傾向」をお読みください。
障害者雇用の「基礎知識」
・週20時間以上の勤務で 0.5人分の換算
・週30時間以上の勤務で 1人分の換算
基礎知識から考えられる「傾向」
・企業は20時間は働かせたい。また多くの企業は(戦力化出来ない場合は)賃金を抑えるため30時間以上働かせたくない。
・個人は20時間働く体力がない人は障害者雇用の制度に乗れない。一方で30時間働いても戦力になりづらい人は障害年金がないと生活しづらい。
僕も、もちろん、ご本人も就職できて、企業も法定雇用率を達成できているので、いろいろな意味で民間の創意工夫で雇えれば障害者雇用として良いじゃないか、という考えも理解できます。
しかし、実は働きたくても週20時間の障害者雇用としてカウントされる時間すら働けない人もたくさんいます。体力が無いからです。あるいは通う力が弱いからです。こういう人が今とても増えています。無理して20時間・30時間働いて、かえって体調を壊す例をたくさん見ています。東大の近藤先生が短時間労働の社会実験をすでにされています。数年前にお会いしたときは「鈴木さん、こういう人達が多いんですよ」という言葉に、どこか半信半疑でしたが、本当に多いのだなぁという印象です。どうにか20時間未満の人を障害者雇用にカウントできないものでしょうか?
また、先の不思議なビジネスは、多くは週30時間、かつ最低賃金の勤務です。では、どうして暮らしていけるのか?ご家族と同居の場合もあるかもしれませんが、多くの場合は障害年金という月6万円程度もらえるものが底上げしています。つまり給与+年金=16万円、というような形で暮らしているのです。障害年金が前提になっている賃金形態。障害があれば障害年金を貰えると思っている人もいるかも知れませんが、身体障害や知的障害に比べて、今増えている精神障害(含発達障害)は年金の受給条件が厳しいです。当社を利用している発達障害の方で障害年金がもらえているのは5%もいないでしょう。つまり給与だけで暮らしていく必要があるので、先の不思議なビジネスに繋がれるのはごく一部の障害のある人になります。障害年金の運用をもう少し弾力化出来ないでしょうか?
30時間以上働ける体力がある人が、作業遂行能力が高いかというとまたこれも違います。元気だけれども、最低賃金だけの経済合理性のある仕事ができないため、雇われているだけという人もいます。「あなたは障害者手帳を持っていることが戦力なんだよ」ということですが、そんな戦力ってあるのでしょうか? 見たわけではありませんが、仕事が与えられない障害者を、勤務時間にランニングさせている事業所もあるのです。仕事のための体力づくりという建前ですが、とても信じることが出来ません。
障害者雇用の達成=善であるわけではありません。むしろ制度の趣旨を歪め、ちょうどよく働くことを否定する可能性すらあります。そして障害者の悪い意味での取り合いにつながることすらあるのです。
もし官公庁がいびつな障害者雇用をしたら、その戦力化出来ていない部分に支払うお金も税金で賄われるわけです。そんなことをするのならば、むしろ、障害者雇用を官公庁は達成しなくても良いから、以下のことにお金を使ったほうが良いのではと思います。
・週20時間未満の労働者の取扱
・障害年金の拡充
・働くこと以外の人生の楽しみ方の充実策(働けない人が働かない時間にという意味でも、働いている人が健康を保つという意味でも)
文責: 鈴木慶太 (株)Kaien代表取締役
執筆: この記事は『Kaien社長ブログ』より鈴木慶太さんの記事からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年12月26日時点のものです。