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今回はタビトラさんのブログ『tabitoraのブログ』からご寄稿いただきました。
「陣痛時、妊婦の救急車不正利用、タクシーがわりの利用が救急医療を圧迫している!」という意見をツイッターで見て、「ずいぶん治安の悪い地域で勤務されてる先生なのかな…」とまず思ってしまった。
赤ちゃんを産んですぐに赤ちゃん捨てようとした産婦が、股からへその緒ぶら下げてダッシュして逃げた話とか、母乳好きのための風俗で働くおねえちゃんが常に母乳を出す必要があるため、妊娠しては子どもを捨てる話を聞いたことがあったので、そういう地域なのかなと。
そういう、一般的に考えてクレイジーな世界じゃないと、陣痛が来たらイージーに救急車呼んで産院に到着する妊婦というのは想像し難かったわけです。
通常、妊婦はかかりつけの産院があって、初期は4週ごと、最後は毎週通います。その中で、陣痛が来たら?破水の時は?救急車を呼ぶ時はどんな時?といったことについて妊婦と話し合います。夫が出張や夜勤でいないこともありますし、すでにお子さんのいる方では誰に預けるのかといった個別の事情にどう対応するのかは、結果的に安全なお産を守ることにつながるからです。つまり妊婦がどう産院にアクセスするかを把握するのも業務のうちと考えています。
そもそも、タクシーがわりというか、陣痛が来るまでになーんも対策をせず「陣痛きたんで救急車呼びます」といって来院した人を私は見たことがない。外来で「陣痛来たら救急車呼んでいいんですか」ときかれることはあるけど。
いや、そういう妊婦がゼロなわけじゃないだろうけど、救急医療を圧迫するほどの人数はいないと思うわ…。
どこの病院にも受診したことのない妊婦が陣痛きて動けなくなり、どこに行けばいいのかわからなくなって救急車呼ぶパターンはあるけど。タクシーがわりでもないし、不正利用でもないわな…。
念のため、ながらく周産期センターで働く助産師にもきいてみたけど、タクシーがわりに救急車使う妊婦の経験なし。友人の産婦人科医も複数の病院勤務経験あるけど、そんな妊婦はいないと。
当該の先生はよほどそのような妊婦に当たっていたのかもしれないのですが、あたかも妊婦の大勢に何も考えてない、対策も講じない方が多いかのような煽りで大炎上してしまった感があります。生活保護受給者や高齢者にも範囲を広げたのもあまりいただけなかったですね。
私は今、ド僻地の周産期センターでも働いているわけですが、ド僻地というのは過疎化が進んで産婦人科がどんどん減って、結果的に妊婦が通院する産婦人科がクッソ遠くなっています。近くに産める産院がない。そんで片道2時間とかかけて外来に来てる。
じゃあ、そういう地域でなにが起こってるかというと、車中分娩や、間に合わずその辺でお産になる事例の多発です。救急隊とスタッフで電話で指示しながら到着を待ち、新生児科医が蘇生キットを持って駆けつけるというのも稀ではなくなってしまいました。
ゆえに、問診で「これは間に合わないな」という妊婦は前もって計画分娩にしたり、近隣の施設で待機してもらって陣痛を待ったりしています。早産になりそうな妊婦は満期になっても退院せず陣痛くるまで入院とかもあり。車中分娩になった事例に対しては、担当医が「ちゃんとリスク説明したのか」「病院に来るまで何分かかるか確認しとったんか」とカンファレンスでつっこまれます。そこまでちゃんと仕事せいと。
今後、そういった救急車の利用は増えるだろうと個人的には思っています。そして、呼ぶのをためらうようになってはいけないとも思っています。
それが救急医療を圧迫するというのなら、救急のインフラ整備をするべきじゃないでしょうか。
ただし、この話、ガンガン炎上し、「陣痛で救急車呼んだっていいじゃん!」論も多く目にしました。とりあえず、妊婦はかかりつけときちんと相談しておきましょう。現場からは以上です。
執筆: この記事はタビトラさんのブログ『tabitoraのブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年9月19日時点のものです。