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山田宏一さんと濱田高志さんの共著になる書籍『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ』(立東舎 刊)が、キネマ旬報映画本大賞2017で第四位に選出された。本書は、映画評論家の山田さんがジャック・ドゥミのことを掘り下げ、アンソロジストの濱田さんがミシェル・ルグランのことを掘り下げるという、「ドゥミ+ルグラン」コンビを踏襲したかのような共同作業により成り立っているのがまずは大きな特徴だ。また、ふんだんに使用されている映画スチルに加え、ポスターやレコード、雑誌などの濱田コレクションが大量に掲載されているので、見ているだけでも楽しくなるビジュアルブックでもある。前回に引き続き濱田さんに、本書制作時の話や、昨今のミュージカル事情などについて聞いてみた。
<インタビュー前編 公開中>http://getnews.jp/archives/2044372 [リンク]
ーーー『シネマ・アンシャンテ』では濱田さん所有の大量のポスターやレコード、雑誌などがこれでもかと掲載されています。こういった品々は、どのようにして集めたのでしょうか?
濱田 学生時代からこつこつ集めたもので、気付いたら膨大な数になっていました。関西出身なので、大阪や京都の古書店や中古盤店で集めたものがベースになっていて、上京してからは、年長の知り合いがコレクションを処分するから、あるいはダブっているものがあるからということで、譲っていただいたり。ここ20年はパリに行った際に、蚤の市やシネ・ショップで探しています。なかにはミシェル(・ルグラン)やアニエス(・ヴァルダ)からもらったものもありますね。各国版を集めているので、正直全貌がわからなくて、『シェルブール』なんて何度もリバイバルされているので、その都度、ポスターやチラシが異なるため、きりがないんですよ。全貌がわからないから、いまだに新発見があります。
ジャック・ドゥミ映画のアイテムに関しては、ミシェルがほとんどの音楽を手がけているので、おのずとミシェル関連の資料の範疇に入ってくるんです。『シネマ・アンシャンテ』では、彼らコンビの作品資料として掲載し、一方の『ミシェル・ルグラン クロニクル』では、ミシェル関連の資料としてドゥミ映画の資料も多数掲載しています。ダブりもあれば、そうでないものも。ですから、それぞれで補完し合うよう振り分けて掲載しました。
『ミシェル・ルグラン クロニクル』はミシェルのオリジナル・アルバムを全作掲載したほか、主な提供曲や参加曲なども紹介しました。元になった拙著『ミシェル・ルグラン 風のささやき』を大幅に増補した格好で、ジャケットを全点カラー掲載できたのは嬉しかったですね。なお、紙幅の関係で掲載できなかった全楽曲リストは、さすがにマニアックなので、いずれ私家版で制作しようと思っています。未発表曲を含めデータはすべて揃っているので、なんとか本の形にしたいですね。
ーーーコレクションの中で、特に注目の逸品がありましたら教えてください。
濱田 ポスターは各国の特色が表れますから、面白いですよね。大判なので、スペースの問題もあり、自宅に飾れる数に限界がありますから、こうやって誌面で一望できるのは僕自身嬉しいです。
注目の逸品としては、やはり各種プロモ盤でしょうか。『シェルブール』だったら、片面のみに音源が収録された10吋盤(25CM盤LP)、『ロシュフォール』だったら、開くと花のような形になるジャケットに収まったフォノシートとか。これは一時期20枚くらい持っていたんですが、ミシェルをはじめ、作品の関係者が持っていない、譲って欲しいというので進呈して、今は手元に数枚しか残っていません。最初に見つけたのは90年代半ばで、それこそクリニャンクールの蚤の市で見つけたんです。確か日本円にして4、5千円だったと思います。友人でミシェルの自伝の共同執筆者でもあるステファン・ルルージュと一緒の時で、彼はコレクターではないので、その場で僕に譲ってくれました。その時まで二人ともこのフォノシートの存在は知らなくて、その翌日にアニエスを訪ねて「昨日、クリニャンクールでこんなの見つけたよ!」と見せたんですね。すると、こともなげに、「ああ、フラワーね。そのジャケットはジャックがデザインしたのよ」と教えてくれて。以来、我々の間でこの盤は通称「フラワー」と呼ばれています(笑)。
ーーー映画『ラ・ラ・ランド』(2016年)は「ドゥミ+ルグラン」コンビの大きな影響のもとに作られたと監督が公言し、大ヒットしました。また、そのチームによる『グレイテスト・ショーマン』(2017年)もヒットしたと聞いています。そして、2017年に限定公開された『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』にも、多くの若者が押しかけました。なぜいま、いわゆるリバイバルという形ではなくミュージカル映画が受けているのだと思いますか?
濱田 ミュージカル映画というよりも、以前よりは、ミュージカルやダンスというジャンルそのものに対する関心が高まっている気がします。当初、出演俳優への憧れからファンになった人たちが、やがて楽曲やダンスに目を向けるようになって、次第に演出や舞台装置など作品そのものに興味を持つ人が増えていった。観客の目が肥えて、徐々に市場が成熟しているんだと思いますよ。当然、意欲作がどんどん上演されるようになって、今は海外で人気の作品をそのまま日本にもってくるケースが以前より増えましたよね。
劇団四季はディズニーアニメの舞台版を積極的に日本に紹介していますし、東宝の『レ・ミセラブル』も根強い人気を保っています。現在、大ヒット中のホリプロによる『メリー・ポピンズ』なんかを観ると、楽曲はもちろんのこと、振り付けや衣装、演出の素晴らしさに圧倒されます。時代を経てなお観客の心を揺さぶる作品というのは、確実にあるんですよね。
以前は、ミュージカルに対して、どこか偏見があったと思うんですよ。劇中で、突然、歌い、踊ることに対して。あからさまに違和感を口にする人もいたでしょう。今だって、「ミュージカルは苦手」という人はいますが、それ以上に「ミュージカルが大好き」という人々の層がどんどん厚くなっている気がします。
そうしたミュージカル人気の下地が固まりつつあったところで、『ラ・ラ・ランド』が、その人気を不動のものにする起爆剤の役割を果たしたのではないでしょうか。しかも、その『ラ・ラ・ランド』が『シェルブール』や『ロシュフォール』の影響下にあるという情報が若い世代にも伝わって、過去のミュージカル映画への関心が高まった。これは嬉しい連鎖反応ですね。もっとも僕自身は『ラ・ラ・ランド』に対して非常に点が辛いんですが(笑)。
ーーー素晴らしい好循環ですよね。そういえば、とても良いタイミングでミシェル・ルグランさんの来日公演が決まったそうですね。これは、どのような内容になりそうでしょう?
濱田 今回が5年ぶりの来日なんです。この5年間は、本国を拠点に世界中を巡って演奏活動を行なっていましたが、日本公演はタイミングが合わず実現しませんでした。他国には遠征していたんですけどね。でも、演奏活動以上に映画音楽やオペラ、バレエ、舞台ミュージカル、それにスタジオ録音によるオリジナル・アルバムの録音で忙しくて、おまけに2013年に上梓した自伝の続編の執筆にも時間を費やしていました。同書は本国では今秋発売の予定ですが、日本版の発売は決まっていません。
今年86歳になったミシェル、5年前よりも背中は丸くなりましたが、運指技術は衰えておらず、まだまだ現役です。今回はこれまで同伴してきたメンバーとは異なるミュージシャンを帯同しての公演なので、その点でも興味深いですね。
5年前にブルーノート東京の楽屋で彼と二人きりになった時、「また必ず来日するよ。ここは日本における私のホームグラウンドだからね」と言っていましたから、必ず良い演奏を聴かせてくれると思います。
<インタビュー前編 公開中>http://getnews.jp/archives/2044372
Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents
MICHEL LEGRAND TRIO
ミシェル・ルグラン・トリオ7.6 fri., 7.9 mon.
[1st] Open5:30pm Start6:30pm
[2nd] Open8:20pm Start9:00pm7.7 sat., 7.8 sun.
[1st] Open4:00pm Start5:00pm
[2nd] Open7:00pm Start8:00pmMember
Michel Legrand(p)
Geoff Gascoyne(b)
Sebastiaan De Krom(ds)Music Charge
¥8,800(税込)会場
ブルーノート東京
東京都港区南青山6-3-16
ご予約/お問合せ : 03-5485-0088Tour
7.11 wed.【愛知 名古屋】名古屋ブルーノート
『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ』
著者:山田宏一、濱田髙志
定価:本体2,500円+税
立東舎発行/リットーミュージック発売PROFILE
山田宏一(やまだ こういち)
1938年ジャカルタ生まれ。東京外国語大学フランス語科卒。1964-67年パリ在住、その間「カイエ・デュ・シネマ」誌同人。著書に「友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌」「トリュフォー、ある映画的人生」「トリュフォーの手紙」「ヒッチコック映画読本」(以上平凡社)「映画千夜一夜」(淀川長治・蓮實重彦と共著、中央公論社)「ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代」「「映画的な、あまりに映画的な 日本映画について私が学んだ二、三の事柄I・II」(以上ワイズ出版)「トリュフォー、最後のインタビュー」(蓮實重彦と共著、平凡社)「ヒッチコックに進路を取れ」(和田誠と共著、草思社)、訳書にローレン・バコール「私一人」(文藝春秋)「定本映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(蓮實重彦と共訳、晶文社)スーザン・ストラスバーグ「マリリン・モンローとともに」(草思社)、写真集に「ヌーヴェル・ヴァーグ」(平凡社)などがある。濱田高志(はまだ たかゆき)
アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは500タイトルを数える。ミシェル・ルグランからの信頼が厚く、日本の窓口を務めている。ほかに宇野亜喜良や和田誠、柳原良平といったイラストレーターの画集の編集や手塚治虫作品の復刻、BSフジ『HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説』、文化放送『鴻上尚史のことばの寺子屋』はじめ NHK-FMや USENの番組構成など、書籍、テレビ・ラジオの分野で活躍。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト、以降、アルバム・プロデュースも手掛けている。
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