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森に捨てられたピアノをおもちゃがわりにして育った主人公の一ノ瀬海が、かつて天才ピアニストと呼ばれた阿字野壮介や、父が偉大なピアニストな雨宮修平たちと出会うことにより、才能を開花させてショパン・コンクールで世界に挑む姿を描いた一色まことさん原作『ピアノの森』。NHK総合で2018年4月8日よりアニメが放送開始となります。
今回、特筆すべきなのが各キャラクターが奏でる演奏のためにピアニストを起用していること。阿字野には反田恭平さん、修平には髙木竜馬さん、パン・ウェイには牛牛さん、レフ・シマノフスキにはシモン・ネーリングさん、ソフィ・オルメッソンにはジュリエット・ジョルノーさんと、既に実績を残している気鋭のピアニストが担当することが発表されています。
TVアニメ「ピアノの森」ピアニスト紹介VTR –YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ectfeIMuQTg [リンク]
ここでは、モスクワ音楽院に首席で入学し、2017年出光音楽賞受賞、CDショップ大賞「クラシック賞」受賞するなどデビュー2年にして最も勢いのあるピアニストと目されている反田さんにインタビュー。『ピアノの森』の魅力から自身の演奏へのスタンスまでお伺いすることができました。
ーー今回、『ピアノの森』で阿字野壮介の担当ピアニストに起用されました。まずはオファーを受けた時の感想からお願いします。
反田恭平(以下、反田):純粋に心の底から嬉しかったです。原作も、中学生の頃から読んでいて、大学生の時に全巻読み終わっていました。主人公のカイを除けば、僕は阿字野が一番好きだったんですよ。
ーーもともと『ピアノの森』をご覧になっていて、しかも阿字野が好きだったと。
反田:3年くらい前に『Twitter』で「『ピアノの森』でいつか何らかの形で放送されるのであれば絶対に出たい!」と言っていたんです。だから、夢が現実になったという感じですね。カイではなくて阿字野ということなので教育者目線であるということも重要なキーワードなのかな、と感じています。僕は現在23歳なので、彼の気持ちには到底及ばないところもたくさんあると思うんですけれど、僕自身も将来子どもたちにピアノを教えたいという気持ちもあるので、そういった意味では難しいところもありましたが、すんなり阿字野に入り込めました。彼は全盛期の時に事故に遭ってしまったために、陰と陽が混じり合う複雑な人生を歩んでいたわけです。今回そんな阿字野のピアノを担当させて頂いて、彼の内面が持つ陰と陽ということも表現しつつレコーディングに臨みました。
ーーご自身、阿字野のどういったところに魅力を感じますか。
反田:阿字野はカイとは違って、人生で一番最悪な出来事を経験している人物。そういったどん底で主人公のカイに出会って、どんどん顔の表情も変わってくる。マンガの後半では、閉ざされた人格がカイに出会い解放されていく、その描写がすごく素敵だなって。ピアニストだけでなく音楽家は、いろいろな人生経験を経て音楽が新しくなっていき、自分の表現の幅が広がっていくと思うんですよ。そういった経験を多くしている阿字野が僕にとっては魅力的な人でした。また、原作の中ではピアノをどういうふうに弾いていたといった描写があって、イメージするのが楽しかったです。
ーー阿字野役を演じる諏訪部順一さんの印象は?
反田:諏訪部さんの担当されていたアニメを、じつは観ていたことがありました。『テニスの王子様』の跡部景吾や、僕が大好きな『ジョジョの奇妙な冒険』のテレンス・T・ダービー役を演じていらっしゃったので、ほんとうに阿字野にぴったりの声優さんだなって思います。
ーーもともと、マンガやアニメが好きだとお伺いしています。お気に入りの作品を教えてください。
反田:おそらく一般の方と比べれば、読んだり見たりしてないと思います。音楽高校に入って、クラッシックも聞いていたので。ただ今は一周回って『ONE PIECE』にハマってます。昔から『ONE PIECE』は好きで、小さい頃から観ていたのですが、留学をして読めなくなっちゃったところがあったので「もう一回読み直してみよう」と思いたちまして。音楽系のアニメだと『のだめカンタービレ』と『ピアノの森』ですね。あとは『ジョジョ』はかなり大好きです。テレビアニメ1期は全部見たんです。マンガだと5部を今も読んでいます。周りにアニメやマンガが好きな子もいるので、「何観ればいい?」とよく友だちに聞いています。『ジョジョ』『デュラララ!!』もそうですし、あと『DEATH NOTE』も好きです。
ーー現在はポーランドにお住まいで、ロシアに滞在されていたこともあったと思います。日本のアニメやマンガは現地ではどのように見ていたのでしょう?
反田:純粋に日本のニュースは遮断されがちになりますよね。留学先で僕はテレビを持っていませんでしたし、当時寮にいた頃はネット環境もそれほどよくなかったので。ロシアでの最後の1年間はマンションを借りて普通に住んでいたんですが、日本のチャンネルがないから、もうスマホに頼るしかなかった。でもロシアでもポーランドでも、やっぱり日本のアニメが人気なんですよね。友だちと仲良くなって「君はどこ出身?」と聞かれて、日本だと答えると「ナルト」ってあだ名を付けられますし。そういうことがあると「アニメってすごいな」と、日本独自のカルチャーだなと思います。フランスなんかもコスプレ大会がすごいですし。ロシアでも初音ミクのコスプレがものすごい人気です。僕もご縁があって日本語をロシア人に教える塾のアルバイトもしていたんですけど、みんなアニメ好きでしたね。日本のアニメとかマンガに、僕より詳しいという(笑)。
ーーまるでアニメを観るがために日本語を勉強しているような感じですね。
反田:ほんとうにそうですよね。彼らはアニメを観て日本語を勉強するところもあるのですが、逆に僕らはポーランドのアニメなど知らないですし、ロシアも『チェブラーシカ』ぐらい。ロシアでは日本のアニメを観ているとロシア語の字幕があるので、それを見てロシア語の勉強をしていたりしましたね。
ーー『ピアノの森』を中学生の頃からお読みになっていたとのことですが、実際のコンクールなどでの心理描写がご自身のご経験と重なる部分があれば教えてください。
反田:例えば、原作で小学生時代のコンクールでカイと雨宮修平が対決するというシーンがあります。より正確に弾いたほうが評価される、実際にあるんですよね。やっぱりコンクールは減点方式っていうのが基本ですし、自分の個性を出して演奏しようと思って逆にそれが悪いほうになってしまうというのはよくあります。カイと雨宮を教訓にしながらコンクールを自分で受けていたりしたこともあり、僕の場合は間を狙って、正確すぎず自分の個性も失われないように演奏していたりしました。そういうところはリアルですし、良く描かれているな、と思います。
ーー実際、他のピアニストに対する嫉妬みたいな負の感情も描かれていますね。
反田:これはピアニストに限らないと思うんですけど、きっとねたみもあるだろうし、うらやましいという感情もあると思います。僕の人生も音楽を基準に生きていましたから、嬉しいことや悲しいことも音楽でまかなってきましたし、逆に音楽によってマイナスな感情になってしまったこともあります。
ーーアニメのキャラクターに担当ピアニストが起用されることの意義について、どうお考えですか?
反田:今回のアニメーションと音楽のコラボ、普段ならキャラクターがセリフを言って、効果音やBGMがありますけど、音楽がセリフをも超えてしまう時間があるわけですよね。こういったことは僕自身はじめての経験で、自分の演奏が世の中に広まっていくわけでもあることを嬉しく思います。クラッシックに興味なかった人も、阿字野役の諏訪部さんや、カイ役の斉藤さんのファンや、原作が好きだったという方も見ると思うのですが、いろいろな方にクラッシックを聴いていただけるんじゃないかなと思います。
ーークラシックに縁がなかった人にも親しんでもらえるきっかけにもなると。
反田:はい。このアニメを通して、音楽というものは言語と関係なく通じ合えるというのが魅力でもあると伝えていけると考えています。ピアニストは基本的に一人で活動しています。でもオーケストラや室内楽などに呼ばれて複数で演奏する時があります。オーケストラだと真ん中に指揮者がいて、その人を経由して一つの音楽を作っていくわけですけれど、アイコンタクトで通じ合うということもありますし、音楽は本当に言葉を超越した何かがあると感じています。
ーー実際、ピアニストがどういった教育環境なのか、というところを反田さんのご経験されてきたことからお聞かせ頂けると嬉しいです。
反田:高校で音楽学校に入ってみて分かったのは、破天荒な人か真面目な人かどちらかで、中間がいないんですよ。僕は前者だったと思うので、基本的に珍しがられていました。僕の考えでは、休暇も音楽につながることもありますし、純粋に身体のことを見れば、毎日筋トレをしていても筋肉はつかないわけですよ。一回自分の筋肉を壊して、修復される時間があって筋肉になっていくわけですから、基礎練習という面では、毎日ピアノをずっと弾いていても腱鞘炎になるだけです。例えば3日弾いたら1日休むみたいな、僕はそういうスタンスでやっていました。
ーー音楽漬けの生活が必ずしもプラスになるとは限らないというお話ですね。
反田:海外に出てよく思ったのは、より多趣味な人ほど演奏の引き出しが多いということ。僕はピアノだけ演奏しているという人生は嫌なので。もちろんピアノや音楽は大好きですけど、それだけをやっていて自分を生きるという一番大事なことを見失ってしまうのは本末転倒だなって思っています。
ーーご自身、小学生まではサッカーもなさっていますが、そういったことが考え方に影響されているのでは、と感じました。
反田:それは絶対あると思います。例えば中学生の時に小学生で弾けないような筋力の使い方が求められる作品も普通に弾けていました。ピアノでは瞬発力も大事なんですよ。鍵盤の真ん中の音と一番上の音を移動するのに1秒に満たない速さで移動しなきゃいけない時もあるんです。それでミスタッチをしないためには法則があって、まず目で位置を確認してから弾くと絶対に外さない。単純なことですが、それが苦手な人もいるわけです。基本的には先に全部鍵盤を見渡してからその場所に移動するという行為をやっているわけですから、サッカーをやっていてよかったな、と思うことはありました。あとフィジカルでもう一つ言うとするならば体幹ですね。
ーー体幹?
反田:何事にも体幹と言葉がつきものですけれど、ましてや我々は座る職業なので、中心の軸をちゃんと持っていなければ、深い音や強弱を出すのが難しくなってきます。この作品を通してカイが実践していることを取り入れていただければと思います。こういう性格のピアニストもいると知ってほしいですね。
ーー『ピアノの森』で出てきた曲で、「これは難しい」というものはありますか?
反田:僕は家で弾いたり新しい曲を譜読みする段階で、弾こうと思えば弾けるので、弾けないという苦しみはあまり経験したことがないんです。でも、『ピアノの森』では後半はもうほとんどショパンにフォーカスが当たっていますが、「マズルカ」はほんとうに難しいです。技術的にはもちろん弾けるのですが、ポーランドの国民性だったり民族性を表す独特な雰囲気を醸し出すためには、やっぱりその土地に行って、そこにいる人たちとしゃべって、食べ物を食べる、そういったことが必要だと思うんですよ。
ーーショパンが生きていた当時のポーランドの歴史や、国の置かれた状況を感じるなど、バックボーンを知る必要があるということでしょうか。
反田:もちろん。それはショパン問わず、全部の作品を通してそうなんですけれど、なかでも「マズルカ」は日本人にとっての盆踊りのようなもので。日本人が味わえない踊りというものが彼らにもあって、逆に言えば彼らにとっては日本の踊りはむずかしいわけです。それを実際に踊ってみなくては分からないこともあるということです。だからレッスン中に先生が踊ったりしますし、「早く踊れ」と言われることもあります。ポーランド人も認めるような「マズルカ」というのは難しいです。
ーー最後に、『ピアノの森』の演奏のどこに着目して聴いてもらいたいのか、お聞かせ頂ければと思います。
反田:僕は今回、交通事故に遭っているというバックボーンを踏まえてピアノで阿字野のキャラクターを表現させていただいたので、そういうところも聴いて頂けると嬉しいですね。あとは本作に登場する各国のピアニストに、フランス人、中国人、日本人、ポーランド人が今回演奏を担当しています。彼ら独自の文化や流派があり、今回のアニメでキャラクターが弾いているシーンに我々が演奏を吹き込んでいって、そういった各国の違いがより分かりやすくなっていると思います。フランスの方たちはほんとうにお洒落にそして、どこかツンとした感じでさらっと弾いたりする一方で、中国の場合はもっと情熱的なんです。そういうところが一つの聴きどころであり、アニメと奏者がコラボする面白さではないかなと思いますね。
ーーありがとうございました!
TVアニメ「ピアノの森」PV(3月5日公開) –YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=fRVj2zFlpyM [リンク]
TVアニメ『ピアノの森』公式サイト
http://piano-anime.jp/ [リンク]
SORITA KYOHEI OFFICIAL SITE
http://soritakyohei.com/ [リンク]
(c)一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ