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女三の宮と源氏の結婚が決まり、破れた男たちはガッカリ。おまけに「冷泉帝も密かに後宮入りを期待していたが源氏に決まって諦めた」とまで語られます。まさに”ポスト玉鬘”だったプリンセスとの結婚も、実際はあまり嬉しくない感じですが……。結婚は年明け2月(旧暦)と決まり、源氏40歳の記念イヤーが幕を開けます。
公のイベントなどが色々と企画されますが、大仰なことが嫌いな源氏はこれらを辞退。そんな中、養女の玉鬘が子供(年子で二人目も誕生)を連れて、サプライズでお祝いに登場。玉鬘にとって、養父の源氏は実父以上の特別な存在でした。
彼女らしいセンスの光る素敵なお祝いに、源氏も大喜び。更に「自分ではいつまでも若いつもりでいるが、こうして孫を見ると年を取ったんだなあと思うねえ。夕霧も子どもができたらしいが、私にはまだ見せてくれないよ」としみじみ。
そういう源氏は40歳には見えないほど若々しい、と表現されていますが、見た目がどうあれ40歳は40歳。自分の年齢をつぶさに感じながら、久しぶりに来た玉鬘が早々に帰っていくのを、未練たっぷりで見送ります。
2月に入り、いよいよ女三の宮のお輿入れ当日。それも源氏が准太上天皇なので、普通の結婚とは違い、後宮入りに近い格式で行われる異例のものです。お偉い方々が花嫁に付き従う中に、宮との結婚を希望していた藤大納言も不満そうについていきます。
六条院に到着すると、源氏は宮を車寄せからお姫様抱っこで抱きおろします。こうした対応も異例中の異例。まさしくこれがホントのお姫様抱っこ。何にしてもとにかく源氏もものすごく気を使っています。
派手な祝宴が続く中、源氏は”三日夜ルール”に従い、宮と夜を共にします。最終日の3日目、紫の上は源氏の衣装にお香を焚きしめながら、その辛さに耐えていました。思い悩む彼女の姿はとても美しい。このあたりは髭黒と前妻の描写にそっくりです。
源氏は改めて「どうしてこの人以外の妻が必要だったろう。ふとした気の迷いで思わず承諾してしまったが……」と思いながら「今晩だけは許して欲しい。今後も宮の方に通うようなら私は自分を許せない。でも、そうなったら兄上(朱雀院)がどう思いになることか」。
紫の上は少し笑って「ご自分の気持ちですらおわかりになっていないのに、私が何を言えるの?」。源氏は困って、すぐには立ち上がらずグズグズ。その横で彼女は「目に近くうつれば変わる世の中を 行く末遠く頼みけるかな」と書いていました。いったい自分は何を末永くなどと思っていたのか……と。
源氏はますますかわいそうになって、命には限りがあるけれども、私達の仲は永遠だと返します。最後はちっとも宮の方へ行こうとしない源氏を、紫の上が逆に「早くあちらに」と追い立てる始末でした。やれやれ。
複雑な気持ちで源氏を見送った紫の上に、女房たちのひそひそ話が聞こえて来ます。「思いがけない事態になったわね。今までは誰もが紫の上さまに遠慮して来たのに、今後はどうなるかしら……」「面倒なことが起こらないといいけど」。
紫の上はこれを見過ごせず、自分から「私は宮さまがおいで下さってよかったと思っているの。まだ童心が抜けないせいか、あの方と一緒に遊びたいくらいよ。宮さまも事情があってお輿入れなさったのだから、私も何とか気持ちよく、お付き合いしていただければと思うの」。
協調姿勢を見せる主人に、源氏のお手つきになった古女房たちは「思いやりがすぎますよ」とブーブー。お互いの女房同士でトラブルになると大変なので、先にリーダーとして意思表明をしたわけですが、どっちにも気を使いますね。
更に紫の上にはお見舞いメールが届きます。「心中お察し致します。私達は最初から諦めている立場ですから、かえって気にもなりませんが」。これは……どう見てもイヤミ!誰が、とはハッキリ書いていないのですが、どうやら送り主は花散里や明石の上などの他の妻らしい。
本当に彼女たちがこんなこと書いてくるのか疑問ですが、どうも夫に新しい妻が出来た場合、妻妾の間では慰めのやり取りがあるものだったそうです。今なら「彼(夫)に裏切られたのー?えーかわいそうー」みたいなことだと思いますが、ウザいだけの残念な社交辞令ですね。
これにはさすがの紫の上もゲンナリ。「みんな勝手なことばかり。もうほっといて」。本当に頼むからそっとしといてあげて下さい。
いろいろあった夜でしたが、さすがにいつまでも起きているのもおかしいと、紫の上は帳台(ベッド)へ。3日間も独りで寝るのは久しぶり。外の風の音も冷え冷えと聞こえます。
(独りで寝るのは須磨時代以来だわ。あの時は殿がご無事でいてさえくれればよかった。もう生きて会えないかもと思ったけど、無事で再会できたからこそ、今まで幸せな時間を過ごせて……)。こんなことがぐるぐるめぐり、冴えて眠れません。
しかもすぐ側に女房が控えているので、必死で寝たふりを貫かねばならないのも辛いところ。こんな風に悩んで眠れないなんて知られたくないと思うあまり、いろいろ気を使います。こういう時、一人きりになれない身分ってしんどいです。
一方、新婦の女三の宮は、とにかく小柄であどけなく、少女というより幼女に近い感じ。年頃の娘らしい恥じらいなどもなく、無邪気でぼんやりしています。『あさきゆめみし』では、宮の物心つかない様子を、”ハイライトの入らない黒目のみ”で表現しているのですが、ものすごくハマっています。
打てば響くようなところもなく、なにか考えているのか、いないのか……。心のどこかで藤壺の宮の面影に期待していた源氏は、まったく期待を裏切られた格好です。ついつい紫の上の子供時代との比較が始まります。
(あの頃の紫の上は10歳くらいだったが、一緒に遊んでも張り合いがあって本当に楽しかった。しかし、この宮はなんだろう。でもまあ、威張ってマウントを取ったりはしてこないだろうから、その点は安心か)。こうなったらせいぜい、良いところを見つけて、なるべくポジティブに捉えるしかありませんね。あーあ。
紫の上のモヤモヤした気持ちが通じたのか、源氏は彼女の夢を見て飛び起き、気になって早々に春の御殿に引き上げます。やっと一番鶏が鳴いた冬の早朝で、まだ寒くて暗い時間です。
女房たちは源氏が帰って来たのに気が付きますが、不愉快なのでなかなか戸を開けてやりません。しばらく廊下に立ってなさい!源氏は寒い中廊下に立たされる刑に処されます。一応、准太上天皇なのに。ようやく戸が開いた時には、体がすっかり冷え切っていました。
「女房たちに意地悪されて凍えそうだったよ。やっぱり罪悪感があるからかな」などと言いながら布団に入ってきた源氏に、紫の上は涙で濡れた袖をそっと隠しながら、優しく接します。でもやっぱり今まで通りではなく、心の距離がある感じ。
源氏は紫の上の慎ましい美しさに感動すら覚え、惚れ直す思いなのですが、彼女の気持ちは閉じたまま。源氏はご機嫌取りのため、翌日は紫の上にべったりです。
「今朝の雪で少し風邪気味です。気楽なところで休んでいます」と、源氏は宮に手紙で言い訳します。ところが、「乳母がそのようにお伝えしました」とだけ口頭で連絡され、源氏は素っ気なさにまたガッカリ。一体どうなってるんだ?
兄・朱雀院の手前、せめて今しばらくだけでも宮を大事にしているアピールをしたいところですが、肝心の本人がこんな調子じゃどうしようもない。今までにいないタイプだけに、源氏もかなり面食らいます。
紫の上は紫の上で(これじゃまるで私が引き止めているみたい。殿も、もう少し私の立場を察してくれればいいのに)。全体的なバランスを考えてほしいところですが、結局この日は宮の方へは行かずじまい。翌朝源氏はまた言い訳の手紙を書きます。
宮は返事を書くのも遅め。ふたりが梅の花を見ていると、ようやく返事が届きました。源氏はそれを見てギョッとします。濃いピンクの紅梅色の紙に、幼稚な字で「来てくれなくて寂しいです」。しかも、どうも文面は乳母がゴーストしたっぽい。
末摘花などのおかしな手紙なら「ほら見て」と、見せて笑ったりもしますが、今度はプリンセスが相手。さすがにそれはマズいでしょう。でも色が派手すぎて、隠すことも出来ない。紫の上は横目で見て「まあ、本当に皇女様の筆跡?」と首を傾げます。ど、どんだけ下手よ……。
源氏は「心配することはないよ」と言い残し、昼の間に宮のもとへ。立派に飾り立てられた豪華なお部屋に、これまた素晴らしいお召し物を来て、華奢な御本人はその中に埋もれて、お人形さんのように座っています。
言われたことは素直に聞きますが、思ったことも素直に口にするので、それは時に無神経だったり、天然だったり。とはいえアーティスト系の独創性があるというわけでもない。フツーの(?)天然系の不思議ちゃんというところでしょうか。
見れば見るほどわからなくなる源氏は(兄上がどうしてこんなセンスのない子を育てたのか謎だ。芸術方面には明るい方なのに。若い頃だったらとっくに飽きただろうが、まあ、世間的にはこんなもんなのだろう。可愛い所もあるし……)。
源氏は事あるごとに「親が大事に育てて世間でも注目の的になっている姫が、フタを開けてみたら実はどうしようもない代物だった」というシャレにならん話をしていましたが、今まさにそれが現実のものとなったわけですね。今までの女性達にはない属性を備えた新キャラプリンセス、波乱必至です。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか