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女に改造されても“弾丸(タマ)”はある――
漢(おとこ)の世界で生きてきた殺し屋が、復讐によって性転換させられ、目が覚めたら女になっていた! そんな衝撃的な役柄を、オトコっぽさと女性らしさを兼ね備えたミシェル・ロドリゲスが演じ、復讐のために手術を施す狂った女ドクターをシガニー・ウィーバーが演じることで話題となったリベンジ・アクション・スリラー『レディ・ガイ』。1月6日よりいよいよ日本公開です。
監督は、ハードボイルドなアクション映画を多数手がけてきた名匠ウォルター・ヒル。公開決定の記事を出した当初、読者から「こういうマンガあるよね」と多数コメントをいただいた今作ですが、原案がなんと35年も前に存在していたというのだから驚きです。この物語の映画化を長らく考えてきたというウォルター・ヒル監督にお話を伺いました。
<ストーリー>
凄腕の殺し屋フランク・キッチン(ミシェル・ロドリゲス)は、「お前は敵を作りすぎた」とボスに抹殺されそうになる。銃撃戦で意識を失ったフランクは、見知らぬ安ホテルのベッドで目覚める。全身に巻かれた包帯を取って鏡の前に立った瞬間、彼は驚愕する。そこにいたのは、まぎれもない女。フランクは性転換手術を施されていたのだ。ベッドの脇に置かれたテープレコーダーを再生すると、女の声が。声の主は医者で、手術はフランクへの復讐を意味しているという。大切な《もの》を奪われ、女となった殺し屋は、銃と色気を武器に、復讐に立ち上がる――!
――デニス・ハミルによる原案が35年も前にあったことに驚きました。原案からかなりアレンジは加えているのでしょうか?
ヒル監督:ストーリーは少しアレンジしていますね。でも男性が女性の体にさせられてしまうこと、そして“復讐”という大きなテーマは一緒です。主人公は殺人を犯した青年で、出所したところで外科医と出会う。原案での外科医は男性で、その奥さんを青年が殺したという設定だったんです。
――日本では男性が女性の体に変わってしまうというコミックがいくつかあるんですが、基本的にコメディの要素が大きいのです。『レディ・ガイ』はコメディよりもハードボイルドなテイストですね。
ヒル監督:好みの問題だと思うんだけれど、僕はやはりそっちのストーリーテラーなんですよね。今回目指したものはコメディではなく“コミックブック・ノワール”です。だけれども、この物語の根底に流れるのはアイロニックなユーモアでもあります。観客の反応を誘導するようにストーリーテリングしていますから、キャラクターの受ける天罰を見て、やはりみんなフフッとほくそ笑むんじゃないかな?(笑)
――「この主人公はミシェル・ロドリゲスのために書かれた役では?」と思ってしまうくらいにハマり役だと感じました。
ヒル監督:俳優はあとから決めたのです。脚本を読んだ彼女とランチをして、どうやら彼女は脚本を気に入っているらしいと。で、あとは彼女を起用するかどうかですよね。これはクルマの映画(※おそらく『ワイルド・スピード』)とはかなり違う演技を要求する役ですから、慎重に決めないといけない。
でも彼女からは非常に意気込みを感じましたね。「どんな女優やどんな男優よりも銃の扱いは上手いよ!」と言ってくれましたから! キャラクターのマインドをとてもよく理解してくれていると思いましたし、この役に対して大胆にチャレンジしてくれそうだなと思い彼女に決めたんです。結果的に素晴らしい演技をしてくれましたよね。それに彼女との仕事は笑いも多くてとても楽しかった。自意識過剰な女優ではなくて、とても気さくな人なんですよ。
――ミシェルは特殊メイクを施して男性のときのフランク・キッチンも演じています。メイクで男性になったミシェルはいかがでしたか?
ヒル監督:いいメイクに仕上がったと思います。本人も非常に楽しんでくれたみたいですよ! 外見だけでは彼女だと気付かないくらいの変身ぶりで、後ろから来て「だーれだ!」なんて言ってふざけたりして。ま、声が独特すぎてすぐ分かっちゃうんだけど(笑)。
――ミシェルは男性としての役作りをどうやって行ったのでしょうか? 監督から、男性の立場で何かアドバイスは?
ヒル監督:いやあ彼女はよく研究していますね! 男性の仕草や身のこなしをよく見ていて、それを身に着けてきていました。“ちゃんと宿題をやってきたなあ”と思いましたよね。僕からアドバイスしたことと言えば、「まあオレみたいに振る舞えばいいんだよ」ってことくらい。ハハハ!
――シガニー・ウィーバー演じるレイチェルというキャラクターもかなり強烈ですよね。芸術家を自称する整形外科医という役のヒントになったものは何かあるのでしょうか。
ヒル監督:「これだけはやりたくない」という指標がありました。それはいわゆる“マッドサイエンティスト”と言われるような、型にはまった悪役ですね。コミックやグラフィックノベル的な悪役だけれども、通り一遍のものにはしたくなかった。彼女のバックストーリーを描くことで、“やっていることは間違ってはいるけども気持ちはどこか理解できる”、そういった共感できるキャラクターにしたかったのです。
――コミックのような奇抜な世界観を実写映画に落とし込む難しさってやはりあるんでしょうか。
ヒル監督:スーパーヒーローものでもない限り、やはりリアリズムというか、自然な物語の流れをつくるというのは考慮することですよね。でも今回はそんなものは飛び越えたものを見せたかった。ただし、ぶっ飛んではいるけど観客がきちんと納得できるものです。今回の物語は映画化する前にグラフィックノベルを作って、イギリスやフランスでリリースしているんです。そして映画化にあたっては、グラフィックノベルで使われるストーリーテリングの手法を映画の中に落とし込むという、興味本位の実験でもあったんです。結局ですね、映画って自分のために作るものなんですよ(笑)。自分本位で作って、そこに賛同したり楽しんでくれる人がいる。映画ってのはそういう作り方をしないとダメなんですよ。
――監督が思う“復讐劇”の魅力とは?
ヒル監督:復讐って、文化背景や民族を問わず共感を生む、普遍的な物語なんですよ。みんな日常生活でも「復讐してやりたい!」なんて思うことはあって、それを映画を観て発散するわけです。あと、自分の好みの話をさせてもらえば、長年脚本を書いて映画を作ってきているわけだけど、「こういうストーリーっていいよな」と思うものが10代のときから変わらないんですよね。まあ大人になりきれなかったんですよ(笑)。昔から子どもっぽいものには全然惹かれなくて、生々しいロマンスとアクションを描き、上質に仕上げているもの。そういったものが僕の長年の好みなんです。
映画『レディ・ガイ』公式サイト:http://gaga.ne.jp/lady-guy/