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新嘗祭も終わり、いよいよ年末。夕霧はちょっと目移りはしたものの、やっぱり本命の彼女に逢いたくてたまりません。(日が経つに連れて雲居雁が恋しい。でももう、二度と逢えないんじゃないだろうか。)そんな悲観的な気持ちに支配され、すっかり引きこもりになってしまいました。
雲居雁がいる時は足繁く通った祖母・大宮の所へも、今は全く行かなくなりました。彼女と一緒に過ごした懐かしい部屋を見たらいろんなことを思い出してしまうし、おばあちゃんに慰められるのも辛いだけです。
源氏は夕霧の様子を見て(大宮さまもお年だ。万が一のこともあるだろう。将来のことを考えて、今のうちから妻達ともコミュニケーションを取らせよう。)早速、花散里に母代わりをしてもらうことにして、2人を引き合わせました。
善良な花散里は夕霧にも優しく接し、夕霧も穏やかで親切な継母に心を開きます。でも一方では(うーん、どう見ても美人ではいらっしゃらないなあ。おばあ様はもうお年で尼になっているけど、とても綺麗だし、雲居雁も、周りの女の人は全員美人だったから、”女の人=美人”だとずっと思ってきたけど。父上はよくこの人を奥さんの1人にしているなあ)。
老年の大宮が美人だという話は朝顔の話にも少し出てきましたが、孫も認めるこの美貌。それにしても夕霧が生まれてこの方、美人しか見たことがないと言うのはスゴイの一言です。
(父上も直接お顔を見ないようにしてるみたいだ。でも、父上はこの方の心の美しさを高く評価して、とても大切にしていらっしゃるのだろう。確かに、僕も結婚するならこんな優しい人と結婚したい。でも、長年連れ添うわけだし、あんまり見た目が良くないのもなぁ。父上みたいに割り切れるようになるには、僕はまだまだだな……)
若い頃から美人ではないと表現されてきた花散里ですが、すでに女ざかりを過ぎ、年ごとに痩せて髪も薄くなっている。さすがの源氏も直視するのは辛いらしく、わざと几帳を隔てて話すようにしているのを、夕霧は鋭くチェックしていました。すでに2人がセックスレスであることは以前に少し触れられています。
注目なのが、夕霧の継母が紫の上ではなく花散里だということ。ちい姫は紫の上に育てさせ、源氏と一緒に暮らしているのに何故でしょう。
源氏は夕霧と紫の上が親しくなるのを警戒していたのです。若い頃の自分のように、美しい義母に想いをかけでもしたら大変だと。この段階ではまだ「取り越し苦労では?」とも思いたくなるのですが、この源氏の男のカンは間違いではなかったことがのちのち明らかになります。
年の暮れに、夕霧は久しぶりにおばあちゃんの元へ。大宮は、素晴らしいお正月の晴れ着をいくつも作って待っていました。もちろんそれは、あの浅葱色なのですが……。
夕霧は忌々しい浅葱色を見て「どうしてこんなに作ったの。お正月だって、僕は宮中のお年賀に行かないかもしれないのに」。
大宮は「まあ、なんてこと言うの。若い子がそんな年寄りみたいなことを言うんじゃありません」。夕霧は「年は取ってないけど、最近はなんにもやる気がしないんだ」。相当ふてくされています。
おばあちゃんはそんな孫を叱咤激励。「たとえどんな身分でも、心は誇り高くなくちゃダメじゃない!だいたい、そんなにクヨクヨ悩むようなことでもないんだから」。
「わかってるよ。僕だってずっと六位じゃないってことくらい。それでも、今の間だけでもバカにされるのは辛いんだ。もしおじい様(左大臣)がいてくれたら、こんなことにならなかっただろうなって……。
父上は、本当の親なのにすごくよそよそしい。普段は家族として接してくれることはなくて、花散里のお母さまのところにいらした時だけ会うんだ。花散里さまは優しくて親切にしてくださるけど、でも……やっぱり、本当の母上が生きていて下さったらって」。たまらず涙が出てきます。
大宮ももらい泣きし、「母を亡くした子は、身分に関係なく皆つらい思いをするものだけど、本当におじいちゃんだけでももう少し長生きしてくれたらね……」。実父に引き取られても幸せそうでない孫が気がかりで、長生きしても世の中が嫌になるばかりです。
この会話から、源氏は紫の上に近づけまいとするあまり、夕霧を孤立させてしまっていたことがはっきりします。源氏・紫の上・ちい姫はともに暮らしているのに、夕霧は大宮や雲居雁と引き離され、勉強部屋に閉じ込められ、今の今まで二条院では誰とも接点を持つことが許されなかったのです。
そんな夕霧はとにかく寂しい。特に家族的な、親密な関係に飢えているといってもいいかもしれません。藤典侍(惟光の娘)に想いを寄せたのも、恋がしたいというよりは、寂しい気持ちを埋めたい思いの強い表れでしょう。
新しい年が明け、源氏34歳の正月。源氏は太政大臣なので面倒な年賀イベント等もすべてパス。誰にもへいこらしない、のんびりしたお正月を過ごしました。
早咲きの桜が咲き始めた頃、朱雀院への行幸がありました。帝に源氏以下、頭の中将(内大臣)等の要人が顔を揃えての訪問です。隠居後の朱雀院は元気そう、源氏と帝は同じ赤い色を着ているので、ますますそっくりに見えます。
今回の行幸に際し、源氏はあるイベントを用意していました。広い池に船を浮かべ、その上で優秀な学生10人にお題に沿った漢詩を作らせるというものです。本来ならプロの専門家がすることですが、わざわざ源氏が夕霧の腕試しとして企画したのです。こんな所でも容赦なく息子を鞭打つ父、源氏。
学生たちは晴れ舞台でガチガチに緊張。すっかり浮足立って、乗る舟を間違える子もいます。源氏達は学生の苦労する姿を見ながらお酒を飲み、昔話に花を咲かせ、楽器を演奏して早春の日を満喫。
夕霧はその様子を遠目に見ながら(僕だって本当は、あっちでみんなと楽しく過ごせるはずなのに……)。一緒に暮らしたこともない希薄な親子関係だったのに、突然引き取られて厳しい仕打ちをされ、父への不信や不満がますます募り葛藤する。これ、どこかで見たことあるなと思ったら、エヴァのゲンドウ氏とシンジ君でした。まあ、「どうして舟に乗らなきゃいけないんだ」ってところでしょうか。
源氏には父としての愛情が根底にあるのですが、ベースになる信頼関係がきちんと育っていないだけに、夕霧にとっては父の与える事が理不尽に思えます。あとで「親子のふれあいをしておけばよかった」と後悔しなければいいんですけどね。
夜も更け、宴が果てた頃、帝は太后にご挨拶に行きました。そんなに会いたい人でもありませんが、無視するわけにもいきません。なかなかこんな機会もないので、源氏達もお供しました。
皇太后、すでに57~8歳。ずいぶん老け込みましたが、久々の来客を喜びます。2人から丁寧な挨拶を受け、宮中へ戻っていく姿を見送りながら、太后は過去の因縁を思うのでした。(結局、源氏と冷泉帝の運が勝ったのだ。私がどんなに画策しても、あの2人を抹殺することはできなかった……)。この歳になって彼女も、ようやくかつての行いを振り返り、後悔を覚えるようになっています。
しかし、すっかり反省しているというわけでもない。太后の性格の悪さはどんどんひどくなるばかりで、最近は「支給される手当が少ない!」「帝のやり方が気に入らない!」など何かにつけてあたり、ワガママな無理難題も言い出すので、息子の朱雀院もほとほとお手上げ状態です。年を取るごとに攻撃性が増す高齢者と、その家族の問題がすでにここにも出てきています。
朧月夜もそんな姉とともに暮らす日々を受け入れつつ、久々に見た源氏の姿を懐かしく思っていました。恋愛関係は解消したものの、友人としてたまに手紙のやり取りをする仲であると触れられています。
さて、夕霧にとっては辛いことが続きましたが、勉強の甲斐あって舟の上の詩作に合格し、無事進級することができました!(ちなみに合格者は10人中3人)。六位から従五位に位も上がり、いよいよ憎い浅葱色とも卒業です。
何とかして雲居雁に会いたいとは思うものの、頭の中将の警戒は依然として厳しいまま。少し希望は見えてきたものの、現段階ではなんとか手紙をやり取りするのが精一杯でした。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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