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こんな、街中にいる銅像やモニュメントから見える景色ばかり集めた写真集の著者、qbfox氏に話をきいた。
――そもそも、こんな写真を撮ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
「あるときふと、“渋谷駅のハチ公像って、どんな景色を見てるんだろう”と思ったんです。で、さっそくハチ公さんのとこにいって目線の先をたどってみました。何があったと思います?」
――えーと、ハチ公はたしか駅のほうを向いてたような……
「そうです。座ってる方向はまさに渋谷駅ハチ公口改札の方なんですが、ハチ公さんは飼い主を待ってるわけですから少し上向きですね。ちょうど改札の上のビルボードあたりを見てるんです。で、いまでもわりとそうですが、当時ここはソフトバンクがよく広告を出してたんですね。だから目線の先には……、ソフトバンクのキャラクターの、あの白い犬がいたんです」
――ふふ。面白いですね。
「ハチ公さんは、昨今の白い犬の人気をうらやんでるのかもな、なんて思いました。それから、じゃあ他の像は何を見てるのか、どう思ってるのか。気になってどんどん集めだして、いまに至ります。全国の銅像や遊具、大仏など、これまでに23人の“viewer”さんたちの景色を撮影してきました」
――でもハチ公は低いからいいですが、手が届かない高さのものもありますよね。どうやって撮ってるんですか?
「伸ばすと7.5mになる特殊な自撮り棒を使ってます。できるだけviewerさんに近づいて、角度を合わせてリモコンシャッターで撮影。あわせて、その人の全景と、顔のアップも撮ります。顔のアップもまた、普段なかなかみることがないので、発見があって面白いですよ」
――お気に入りの「景色」はありますか?
「やはり、たいして期待していなかったのに撮ってみると美しかった、というときはテンションがあがります。護国寺にいる大仏さんからの景色はいまひとつだったんですが、その隣にある五重塔の鬼瓦さんからの景色は、護国寺の観音堂を観るのにおそらくベストなアングルで、その発見含めて気に入ってます」
「考えたら当たり前なんですけど、viewerさんたちが設置されるときには、彼らの視界はあまり考慮されてないことが多いんです。だから、すぐ目の前に樹が茂ってたり、無機質なビルの壁が迫ってたりする。でもせっかくなんらかの思い入れがあってviewerさんをその場所に迎えるんでしょうから、どうせならいい景色を見せてあげてほしい。関係者のみなさんにお願いしたいです」
――正直、その視点は全くなかったです。
――撮影してて怒られたりしないのですか。
「怒られたり禁止されたことはまだないですね。警備員さんがいるところでも、ちゃんと許可をとりにいけば『へぇ、あとで見せてよ』なんて応援してくれます」
「あ、ただトラブルと言えば一度、タイヤでできた大きなゴジラさんがいる西六郷公園に行ったとき、カメラのリモコンを忘れちゃったんです。せっかく来たのにな、とがっかりしたんですが、公園の遊具なので、子どもたちが途中まで登って遊んでるんですね。なら上まで行けるんじゃないか、と思って。高さ8mあったんですが、カメラ持って頭まで登りきり、無事に手持ちで撮影しました。でもあとで、やっぱり顔のアップ写真も欲しくなってもう一度行ったんですけど」
――撮影は今後も続けられるんでしょうか。
「ええ、未踏のviewerさんはたくさんいますので。ゆくゆくは、世界中のviewerさんの景色も見てみたいですね。シンガポールのマーライオンさんとか、エジプトのスフィンクスさんとか、あ、Burning Manのザ・マンさんがどんな景色を見ているのかもみたい。そうなると自撮り棒じゃ届かないので、ドローン飛ばして撮影ですね」
あくまで「撮りたい」じゃなく「見てみたい」。qbfox氏は撮影の対象となる“viewer”たちを「さん」付けで呼び、その語り口には生身の人を扱うような敬意が感じられた。あなたの街の”viewer”にも、いずれqbfox氏がバカでかい自撮り棒を持って訪れるかもしれない。その時はぜひ不審に思わず、彼のコレクター行動をあたたかく見守ってあげてほしい。
(取材・文/鳩子)
写真集「あの人の景色がみたい」(税込900円)は現在ネットショップで販売中。
http://babar.theshop.jp/items/6888274
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