フィルム・ノワールのような世界観、セリフがないのに没入してしまうストーリー性、日本の漫画のコマを入れ替えるゲーム性、ジャジーなBGMのバランスの良さが世界中で高い評価を受けたスマホゲーム『FRAMED(以下、前作)』。「2014年のマイベスト」と元コナミで『メタルギアシリーズ』を手掛けた小島秀夫監督(コジマプロダクション代表)の個人的ゲーム・オブ・ザ・イヤーに輝いた前作の登場からはや3年が経過しました。今月、満を持して前作のプリクエル(前日譚)となる『FRAMED 2(以下、本作)』がAppleのAppStoreにお目見えしています。



ひょんなことがきっかけで、『FRAMED』シリーズを開発したLoveshack Entertainment(ラブシャック・エンターテイメント、以下LE)のJoshua Boggs(ジョシュア・ボッグス、以下JB)氏の話が聞けるチャンスがあったので、本作開発に関しての裏話的なこととか小島監督との友情など、ちょっと角度の違う切り口で遠慮なく質問をぶつけてみました。


FRAMED 2 Official Trailer(YouTube)

https://youtu.be/M9isDV9XjkM


―ご自身やLEを創業した背景などをお聞かせ願えますか?


JB:ジョシュア・ボッグスです。ニュージーランド人で、年齢は30才です。LEではデザイナー及び開発者として仕事をしています。LEのメンバーは、元々オーストラリアのメルボルンにあったFiremint(『Real Racing』シリーズの開発会社)という会社で同僚だった人たちです。同社ではスマホ向けの『Spy Mouse』というゲームを担当していました。同社はビジネス的に成功したこともあり、最終的には2011年にElectronic Arts(以下、EA)に買収されました。EAによる買収は新しいゲームを開発するいい機会だととらえていましたが、2012年には多くのメンバーがEAを去っていきました。私も新しいオリジナルのチームを立ち上げることにしました。それが、LE誕生の瞬間です。


処女作となった前作はテスト版のゲームもない中、棒人間を描いた紙と白紙を使ったゲームコンセプトの説明だけでプレゼンしなければならなかったのですが、なんとかオーストラリア政府からの助成金を受けることができました。おかげ様で前作をこの世に送り出すことができました。



―ゲームコンセプトについてですが、漫画のコマを入れ替えるというアイデアはどのように思いついたのですか?


JB:映画と漫画の両方から少しずつインスピレーションを得ています。コンセプトは、「アクション(行動)そのものが持つ意味は、そのアクションを起こす前に何が起きていたかで変化する」というアイデアから産まれました。アクションが起きる背景のほうがアクションという動作そのものよりも面白いと思います。このアイデアを実現するにはどうすればいいのか、ずいぶんと長い間試行錯誤していましたが、スコット・マクラウドの著書『マンガ学(Understanding Comics)』を読んで全てがクリアになったのです。漫画のコマを利用すればその中にアクションを詰め込むことが可能になり、コマとコマの間の余白部分はプレイヤーの想像力を補足してくれるじゃないかと。


―前作のダウンロード数はどの位でしたか?


JB:AppleのFree App of the Weekで無料化した時の数字込みで400万ダウンロードといったところです。iOSのみの数字です。結構な数字ですよね。(日本語で)すごい!



―前作に寄せられたプレイヤーからの一番の不満は何だったのでしょうか? また、本作ではその不満をどう解消されましたか?


JB:一番多かったのはプレイ時間についての不満でした。そうは言っても、私達は映画1本と同程度の長さのゲームを作ることを常に目標としています。プレイヤーを悩ませるけれどエンディングまで辿り着けるように、あまりゴチャゴチャと詰め込み過ぎないゲームです。本作に関してはプレイ時間は増やしましたが、その分難易度も上げてより挑戦的なゲームに仕上げました。探索が必要なシーンもあれば、ロジカルに考えないと解けないパズルがあったりと新しい要素を追加した分、結果的にゲームボリュームは増えています。


―続編に対する期待は高かったと思いますが、本作をリリースするにあたり一番心配されたことは何でしたか?


JB:続編に対する期待はプレッシャーとしてかなり重かったですね。本作の開発過程ではゲーム関連のイベントや受賞式への参加を控えました。前作の開発途中で多くのイベントや受賞式へ参加したことが、個人的に非常に大きな問題へとつながることとなってしまいました。私達が愛する“ゲームを作る”という行為に影響が出てしまったのです。個人的に言わせてもらえば、私は自分自身の価値を自分が作ったゲームに見出します。前作での経験から精神的に成長したのか、ゲーム作りに深くのめり込むのと同時に客観的に自分のゲームを批判できること、この両方のバランスを保つことを学びました。不思議な感覚ですが、精神的に健康でいるためにはとても重要なことです。ギリシャ神話のイカロスの翼に似たようなものですね。


―前作と本作の最大の違いはどこでしょうか?


JB:前作では2枚のコマを入れ替えるだけというシーンが多くありました。個人的には映画的な演出で好きだったのですが、プレイヤーの間では意見が分かれていました。だまされたと感じたプレイヤーもいました。振り返ってみると、前作には根本的な欠陥があったと思っています。自分がいかにイケてる開発者か見せつけたかったのです。自意識過剰すぎましたね。本作では1歩下がって、全体的なバランスを見渡すように努めました。他のメンバーはゲーム内のパズルのレベルをステップアップしてくれました。結果的に前作より良いゲームになったと思います。セリフがないゲームですが、ストーリー性はより磨きをかけることができたと自負しています。


―本作でプレイヤーに一番楽しんで欲しい部分はどこでしょうか?


JB:本作に登場する主人公2人の関係性でしょうか。これは前作でも試みたことですが、時間と資金が足らず実現できませんでした。本作は成長の物語です。純真さを失うこと、学ぶこと、人生がタフだと理解すること。いきなり難易度が高いステージが最初のほうにあるのもそのためです。






―小島監督がツイッターで前作をベタ褒めしてから日本での知名度が上がった印象を受けますが、実際彼のツイートの影響はいかがでした?


JB:小島さんの称賛は日本だけでなく、世界中で成功するための推進力となります。個人的には彼のツイートに一番影響を受けたのは私自身なのかも知れません。そもそもゲームを作りたいと思わせてくれたのが『メタルギアソリッド』ですから。前作をリリースした時、いろんな面で私は悩んでいました。小島さんは私が愛する“ゲーム作り”を思い出させてくれました。彼のツイートは、なぜゲームを作るのかを思い出させてくれたと同時に、うつ状態になりかけていた私を救ってくれた治療にもなりました。






―小島監督とはその後親睦を深めているようですが、一番最初に対面された時のお気持ちはいかがでした?


JB:初対面の際は、自分を自信満々でクールなヤツにみせようとしたのですが、照れてしまって上手く会話もできませんでしたよ(笑)。今は割と定期的にお会いしているので、よりカジュアルな感じで仲良くさせてもらっています(笑)。






―あなたのニックネームは「ジョッシュ」だと思うので、小島監督もそう呼んでいると推察できますが、逆にあなたは小島監督をどう呼んでいるのですか? 「Hideo」ですか、それとも「Kojima-san」でしょうか?


JB:その通りです。「Hideo」と呼ぶことも「Kojima-san」と呼ぶこともあります。状況にもよりけりですが、半々くらいじゃないでしょうか。(年下から)名前を呼び捨てにされて小島さんがムカついてなければいいですが(笑)。






―小島監督に「天才ゲームデザイナー」と称されましたが、このツイートを見た時の気持ちはいかがでしたか?


JB:私が15才の時には想像もできなかったことが起きたという感じですね。大変光栄で名誉なことだと思っています。今は小島さんと仲良くさせていただいているので、彼の褒め言葉には友情とか激励といった意味での暖かみを感じます(笑)。


―次回作は『FRAMED』シリーズの続編となるのでしょうか、それとも完全な新作を予定しているのでしょうか


JB:次回作に関しては様々なアイディアが出ています。本作に関してはなるべくしてこうなったというか。本作は前作の拡張版みたいな感じになる予定でしたが、自然に進化していって結果的には『FRAMED』シリーズの新作という形に変化していきました。『FRAMED』シリーズには勿論愛着がありますが、同じくらいクリエイティブな新しいゲームタイトルを手掛けることも楽しみにしています。



―「これにはハマってしまった」といった日本のポップカルチャーやサブカルチャーってありますか?


JB:ゲームとアニメですね。『FRAMED』シリーズですが、実は『カウボーイビバップ』からの影響が大きいんですよ。オープニングシーン、タバコのシーン、アクション、雰囲気とか。日本にはデカイ借りがあると言ってもいいでしょうね。日本は私にとって非常に大切な存在です。思春期に得たインスピレーションの源泉のほとんどは日本からのものでした。ビジネス目的で訪日したのは2013年の『東京ゲームショウ』が初めてで、『センス・オブ・ワンダーナイト』の壇上に立ってプレゼンしたのですが、その時も日本への思いを話したことがあります。


ゲーム開発のパーソナル化を象徴した「センス・オブ・ワンダーナイト」(GameWatch)

http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/616406.html[リンク]


―日本のゲームだとどういった作品にハマりました?


JB:『メタルギアソリッド』、『ファイナルファンタジー』、『マリオ』、『ゼルダ』ですね。


―あなたにとって日本とは?


JB:国境という概念を超えた存在です。言葉の壁も超えています。まるで親戚のような親近感を感じます。どんなものにでも長所と短所はありますが、日本、日本文化、そしてそれらが生み出してきた物語は、思春期の私にとても大きな影響を及ぼしました。日本文化に出会っていなければ、今日の私は存在していないと言っても過言ではありません。


―日本のファンに向けてメッセージはありますか?


JB:『FRAMED』シリーズを楽しんでいただいて感謝の気持ちでいっぱいです。私は日本をとてもリスペクトしています。これほど深く共感できる文化を持つ国は他にはありません。1年半前から日本語の勉強も始めました。そのせいか、日本の方々と交流する度に、日本文化をさらに深く理解できるようになってきています。それにつれて経験値も増えてきています。これからも皆さんの期待に応えていくつもりです。応援よろしくお願いします。


―長々とお付き合いいただきありがとうございました。


『FRAMED 2』公式サイト

http://framed-game.com/


『FRAMED 2』AppStore

https://itunes.apple.com/app/framed-2/id1163105252[リンク]


(C) 2012-2017 Loveshack Entertainment Pty Ltd


※画像とソース:

Loveshack Entertainment提供

https://twitter.com/Kojima_Hideo

『YouTube』


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(執筆者: 6PAC) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 小島監督に「天才ゲームデザイナー」と称された『FRAMED 2』開発者は超日本リスペクトな熱い男だった 『カウボーイビバップ』の影響など色々ぶっちゃけてくれた