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千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(歴博)では、2017年3月14日から5月7日まで企画展示『デジタルで楽しむ歴史資料』が開催されています。この展示では、歴博が所蔵している『洛中洛外図屏風』『正倉院古文書』などをはじめとする重要文化財について、さまざまなデジタル技術によってより理解が深まるような解説や、実際に来館者が触れることができるコンテンツなどを用意しています。
室町後期の16世紀の京都の様子が描かれた『洛中洛外図屏風』。これを複製してプロジェクションマッピングに。
画面の前には、ボタンが6つ配置されています。これを押すと屏風にも描かれている6人のキャラクターが登場し、京都の名所を説明してくれます。
また、そばに架けられているディスプレイでは、肉眼観察の難しいところを拡大表示することが可能。来館者も実際に触って、画面を拡大したり移動したり自在に動かすことができます。
屏風に描かれている無数の人々。『歴博甲本』の1426人と『歴博乙本』1172人の計2598人をデータベース化。屏風のどこにいて、どんな人なのか、その調査の結果を見ることができます。傘など持っている物のキーワードでも検索できるというあたりに、研究者の方々の労苦が偲ばれます。
『甲本』『乙本』でどのように描かれ方が違うのか、対照して見ることができるディスプレイも。これも実際に触って拡大・縮小や移動ができるようになっています。
『洛中洛外図屏風甲本』は、前期は現状複製、後期は本物の展示。さまざまなコンテンツに触れた後で登場人物たちを探してみると楽しいかもしれません。
歴博が所蔵する江戸の景観図。17世紀前記に描かれた『江戸図屏風』、1803年に描かれた鍬形蕙斎の『江戸名所之絵』、江戸末期の『再刻江戸名所之絵』『江戸景観図』。これらを「浅草寺」「日本橋」「愛宕山」など名所ごとに拡大。同時に表示するディスプレイが展示されています。これも来館者が場所ごとに表示させたり、任意の景観図を全画面表示させたりすることが可能になっています。
鎌倉時代に描かれたという『前九年合戦絵詞』と、17世紀の『太平記絵詞』、それに室町時代の『結城合戦絵詞』。それぞれ、11世紀の陸奥で起きた前九年合戦と、14世紀の南北朝内乱、15世紀半ばに下総国で幕府と結城氏の間で争われた戦いを描いたものですが、時代によって甲冑や武器が変化しています。この3つを比較して、戦闘の違いを理解できるように見比べるようにできているディスプレイも設置されています。平安期から鎌倉時代にかけては弓での戦いが主流ですが、室町時代になると「打物」と呼ばれた刀による戦いが多くなっていったことが絵から分かるようになっています。
今回、鎌倉時代の太刀「伝国行」、室町時代の黒漆弓、革包太刀が展示されています。刀剣好きの人はお見逃しなく。
歴博で所蔵している肖像画を、着物や持ち物などから描かれた対象の立場や地位、その時代特有の文化などを理解することができるディスプレイも設置されています。室町時代の連歌師・宗祇、室町幕府第13代将軍・足利義輝、江戸幕府初代将軍・徳川家康、同じく15代将軍・徳川慶喜の肖像画を呼び出し、持ち物の説明が表示されるようになっています。
歴博の重要文化財でもとりわけ貴重な奈良時代の『正倉院文書』。奈良時代の戸籍が含まれる貴重な資料ですが、裏紙にも書き込まれている個所があり、天保年間に一部の文書が抜出されて45巻の正集としてまとめられた後、明治時代以降も整理が続けられ、当初の形態とは違ったものになっていました。それを研究するためには復元をすることが不可欠ということで、1981年より宮内庁正倉院事務所と協力して精密な複製資料を作成しています。
もちろん、オリジナルは移動不可能なため、精巧なレプリカを活用するだけでなく、デジタルデータをバーチャルで切り貼りすることによって、奈良時代の状態を復元できるといいます。ただ、この研究には多大な費用がかかるため、現在歴博では寄付を募っています。
歴博では、2003年から2009年にかけて4258枚の錦絵をデジタルカメラで撮影。これにより錦絵の色の分析が行えるようになりました。
錦絵に使われている青色の着色料は、露草、天然藍、プルシアンブルーが知られています。1830年ごろより天然藍に代わってプルシアンブルーが使われるようになったことが分かったのには、マルチバンドデジタルカメラの赤外線や紫外線の情報の記録を分析することにより見分けることが可能になったからだといいます。
第二次世界大戦の戦災で失われた浦上天主堂『マリア十五玄義図』。1930~40年代に撮影された写真が歴博の所蔵となり、ガラス乾板をデジタル化して研究が行われてきました。
ガラス乾板をデジタル化し、ネガをポジに反転させることで元の絵を拡大して見ることが可能に。
また『マリア十五玄義図』の15の絵のうち1枚がカラー写真で残されていたことから、画像ソフトで色をつける研究も行われています。作業の過程については、ディスプレイで見ることができるようになっています。
歴博では、京都の古美術商だった野村正治郎が所持していた中世末期~近代にかけての服飾資料をおよそ1000点所蔵しています。そんな小袖資料から収集した『鴛鴦梅樹模様振袖』の柄を、MMD(MikuMikuDance)で制作されたもみちゃんが着用。はっきり言って超カワイイので、ぜひデータを配布して欲しいところですね。
もちろん本物の小袖も展示。中国風の錦織や、京都の名所を刺繍した友禅織、ダイナミックな滝菊模様の小袖。どれも見事というほかないです。
また、小袖屏風を詳細に解析したデータベースも触ることができます。柄や模様などから検索することができ、画像の拡大して見ることができるこのシステムは、実際の研究でも使われています。
並木製作所(現パイロット)が蒔絵作家の松田権六を招き、芸術性に富んだ万年筆が作られるようになった明治末期。歴博では、44本の蒔絵万年筆を収蔵していますが、このうち20本を2016年に3D化。展開図画像と半径データを使い、クリップの形状に合わせて面を切り取っていく作業をすることで、様々な角度から自由に見ることができるようになりました。
今回の展示、土日には『Oculus(オキュラス)』とペン型デバイスを使った仮想空間(VR)で蒔絵万年筆を多方向から見ることができるようになっています。
1554年に築城された小諸城。現在では大手門・三之門・石垣のみが残されていますが、膨大な量の絵図録が残されていることもあり、それを手がかりにCGで復元するプロジェクトが行われました。
デジタルアーカイブとしてCGになった小諸城を体感できるように、錦絵万年筆同様に『Oculus(オキュラス)』とゲーム用コントローラーで城を散策できるシステムを体感できます。こちらも土日の展示となっています。
紀州藩第十代藩主徳川治宝によって収集されたという楽器コレクション。重要文化財なので、実際に触って音を体感するのは難しいのが実情ですが、それがどのような音なのか体感できるコンテンツが用意されています。
雅楽器を2012年3月に録音。その演奏音源によって、笙の和音を体感することが可能に。15の管の音を1音ずつ聞くことができるだけでなく、雅楽で用いられる11の合竹の響きを聴くことができるようになっています。
現在、京都にある町家は明治以降に建てられたものがほとんど。江戸時代以前の京町家は資料が少なかったのですが、2009年に幕末以前に描かれた下京四番組梅忠町の約30件の町家の図面が発見され、それに基づいて3Dで町並みを再現。このうち2件については室内も含めてどのようになっているのか詳らかにされています。
江戸後期の風俗を垣間見ることができる絵すごろく。これを実際に遊べるシステムを歴博が開発、実際に遊ぶことができます。
ディスプレイに従い、サイコロを振ると、すごろくが行き先まで光り教えてくれます。そのマスの意味や、次に進む際にどこへ行くのかといったことまで網羅しており、遊び方が分からなくても大丈夫なスグレモノ。特にサイコロが順番によって色が変わって光るので、子ども連れに喜ばれそうです。
普段は裏方といってもいい研究者が使うデジタルシステムを主役にした『デジタルで楽しむ歴史資料』。来館者にとっては、重要文化財を含む歴史資料を楽しむだけでなく、実際にどのような研究のプロセスを経ているのか理解できるようになっているということも興味深い内容になっているのではないでしょうか。
デジタルで楽しむ歴史資料開催期間:2017年3月14日~5月7日
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
料金:
一般 830(560)円 / 高校生・大学生:450(250)円 /小・中学生:無料
※()内は20名以上の団体※総合展示もあわせてご覧になれます。
※毎週土曜日は高校生は入館無料です。開館時間:9時30分~17時00分(入館は16時30分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。休館日:月曜日(休日の場合は翌日が休館日となります)
主催:大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
企画展示『デジタルで楽しむ歴史資料』(国立歴史民俗博物館)
https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/index.html