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大きな黒い犬リリーの飼い主のマージは、私たちが11年前にこの地に引っ越して来た時の一番最初の犬友達だ。
モコモコと大きなリリーを初めて見た時「スタンダードプードル?いや、それにしては太めかな?」と思い「何という犬種ですか?」と話しかけたのがきっかけだった。
「ブービエ・デ・フランダースと言うのよ。フランダースの犬って小説知ってる?あの犬はブービエらしいのよ。」という答えに「え!パトラッシュ!?パトラッシュがこんな黒くてモコモコって、イメージ違うんですけど!」と思いつつ「へ〜そうなんですか」とリリーをモフモフさせてもらった。
(余談ながら、小説出版当時の19世紀にはまだ固定された犬種ではなかったので、色もサイズも様々なタイプのブービエがいたそうだ。)
世話好きなマージは、お勧めの動物病院やお得なペット用品の店を教えてくれたりして、ずいぶんと助かった。
リリーは当時1歳。元気を持て余すお年頃に加えて、元々は牧畜犬という犬種ゆえ、それはそれはエネルギッシュな犬だった。
ちょうど同い年でドッグパーク1の走り屋だったうちの犬と意気投合して駆け回っていたものだ。
私の顔を見ると「バウッバウッ」と低く太い声で吠えながら駆け寄ってきて「撫でて撫でて〜」と言わんばかりに頭をグイグイ押し付けて来るリリーは、うちの犬だけでなく私にとってもだいじな友達だった。
しかし大型犬の宿命で、リリーはうちの犬よりも早いスピードで年を取っていった。7歳か8歳の頃には、他の犬の「走ろうよ」「おすもうしようよ」という誘いに応じることもなくなっていた。そんなリリーを見るのは少し心が痛んだ。
それでも散歩の時にリリーの姿を見かけてマージと立ち話をするのは相変わらず嬉しいひとときだった。年を取って落ち着いたリリーは、マージと同じ年頃の親友同士という風情だった。若い頃のリリーはそれなりにマージを悩ませ、レッスンやセミナーのハシゴをしたというのが笑い話になるくらいに。
2年前のある日、いつものように犬たちと散歩をしていると、コッカースパニエルを散歩させているマージに出会った。「あれ?どうして?」と少し混乱したけれど、マージに会うのはかなり久しぶりだったことに思い当たった。
「もしや…」と恐る恐る「リリーはどうしたの?」と尋ねると、2ヶ月ほど前に急性の病気で旅立ってしまったということだった。
言葉に詰まったけれど「でも長く苦しんだりはしなかったんだ?」と言うと「うん、前日まで普通に暮らしていたから、幸せだったと言えるかもしれない。」と応えるマージに「幸せだったと言えるかも?リリーが幸せじゃなかったら、どんな犬なら幸せだと言うのよ。」と二人して軽く泣き笑いをした。
その時マージが一緒にいたコッカースパニエルはシェルターの一時預かり犬だった。
「リリーがいなくなって1ヶ月ほどボーッとしていたんだけど、やっぱり犬のいない生活はダメなのよ。メリハリがなくてねえ。」と言うことだった。うん、それは良く分かる。
「でもまだ他の犬とリリーみたいな関係を作る気にはなれないの。だから一時預かりのボランティアを始めたのよ。普段は犬のいる生活を味わえるし、旅行の計画を立てることもできるし、悪くないわよ。」うん、その気持ちもわかる。
リリーが旅立って2年余り経つけれど、マージは今も一時預かりのボランティアを続けている。世話好きな彼女の気性に合ってもいるのだろうが、あのモコモコリリーの抜けた穴はきっと余りにも大きいのだと思う。
けれどマージがリリーの穴を埋める犬と出会っていないからこそ、2年の間に何匹もの犬がマージの元から新しい家族の所に迎えられていった。まるで旅立った後もマージの手を焼かせながら心のサポートもしているみたいだ。リリー、なかなかやるじゃないか。
(画像は著者撮影)
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