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(Written by Publisher’s editor)
2016年、パリーグ歴代2位となる11.5ゲーム差を覆し、日本シリーズでは2度のサヨナラ勝ちを含む4連勝で優勝した北海道日本ハムファイターズ。
二刀流の大谷翔平選手、主砲の中田翔選手、栗山英樹監督のチームづくりに注目が集めるなかで、実は1990年代から1人のコーチが中心となって改革が進められていました。
それが白井一幸コーチ。プロ野球に詳しい人なら、誰もが名コーチとして名前を挙げる球界屈指の指導者です。
現役No.1の「チーム再生請負人」と言われるその手腕は、過去の実績が物語っています。1999年に日本ハムの改革に着手した白井コーチは、万年最下位だったチームを44年ぶりの日本一に導きます。
しかし白井コーチが抜けるとチームはふたたび最下位に転落。その後2014年にコーチ復帰して、またもV字回復で日本一を果たしました。
白井コーチはどのように日本ハムを変えたのかーーそこにはニューヨーク・ヤンキースを参考にしたチームづくりの秘訣がありました。
北海道日本ハムファイターズ流 一流の組織であり続ける3つの原則
ヤンキースは、ワールドシリーズ優勝27回(それに次ぐセントルイス・カージナルスは11回)という、メジャーリーグ30球団のなかでも突出した実績を誇る、まさに世界最強のチームです。
現役を引退後、指導者としての道を歩むためにヤンキースに留学した白井コーチは、そこで衝撃を受けます。
アメリカでも日本でも、ドラフト会議が終わると新人選手の入団発表会見が開かれ、プロとしての目標を聞かれます。
日本の選手の場合、こういった答えが多く出てきますが、ヤンキースだけは8軍の選手が「世界一になりたいです!」と公言していたのです。
そればかりか、清掃のスタッフもグラウンドを整備するスタッフも「われわれは世界一をめざすヤンキースの一員として、世界一の環境をつくるのだ」という誇りと自覚をもって働いていたのです。
日本のプロ野球界は育成選手・研修生まで含めても3階層です。一方、アメリカのプロ野球界はメジャーリーグからルーキーまで8階層(242チーム)で構成されており、日本と比較すると、頂点はさらに遥か高みに位置しています。
にもかかわらず、ヤンキースではチームに関わる人すべてが世界一という目標を共有し、責任と役割を果たそうとしていたのです。ここに最強のチームをつくる秘訣があると、白井コーチは考えました。
もちろんこれは、過去に何度もワールドシリーズを制覇してきたヤンキースだからこそ成せる業とも言えるでしょう。
果たして、日本ハムで同じことはできるのでしょうか?
白井コーチは2軍監督時代、選手たちに「みんな、日本一になりたいか?」と語りかけたといいます。
しかし誰も反応しません。当時40年近く優勝から遠ざかっていたチームの、さらに2軍選手にとっては、途方もない雲をつかむような話です。
そんな心の声が伝わってきます。日本一とは、1軍の選手になってからめざすもの。それが選手たちにとって当たり前の考えでした。
そこで白井コーチは、「日本一をめざすことができない人は、手を挙げてみてくれ」と続けます。
誰も手を挙げず、ミーティングルームは静まり返ったままです。
「そうだな、めざすことは誰でもできる。そして、頂点はめざすことでしかたどり着けないんじゃないのか? われわれはプロとしてどういう目標を掲げるのがふさわしいのか?
日本一というのは結果で、すぐにはなれないし時間もかかる。でも、どこのチームよりも日本一になるという強い気持ちをもった練習なら今日からできるんじゃないか?
今日の日本一なら今日なれるはずだ。今日からわれわれは日本一の練習をやっていくぞ!」
こうしてプロ野球界の常識を覆す大改革がスタートしたのです。
相手バッターの放ったゴロが勢いよく三遊間に飛んでいく。ショートは落ち着いて捕球できず、ボールはグラブを弾いてレフトに――。失策した選手は肩を落として、足を引きずりベンチに帰ってきます。
このとき、野球界ではお決まりの光景が見られます。まずは指導者によるベンチからのにらみつけ。選手は遠目からでもその視線を感じます。そして熱心なコーチは、選手がベンチに帰ってくるなり一生懸命活を入れようと指導します。
「バカヤロー、大事なところでミスしやがって! 1歩目のスタートが遅いんだ」
ミスをしていちばん自分を責めているのは選手自身です。そこに指導者は「怒る」ことで指導します。
プロ野球選手、指導者は「気合を入れる」という言葉が大好きです。そしてチェンジになって守りに行く選手に、さらに熱を込めて指導します。
「今度エラーしたら承知しないからな。気合を入れて守れよ」
脅されて守りに入った選手のメンタルは最悪です。
「今度エラーしたら、また怒られるし、チームに迷惑をかける…」
こんな気持ちで選手はよいスタートを切れるはずがありません。さらに1歩目が遅れて、失策する可能性が高くなります。指導者が熱心に活を入れるほど、選手は萎縮し、ミスを重ねてしまうのです。
弱いチームほど、次のような指導を繰り返しているといいます。
勝つチャンスを高めたければ、指導者は一度きりで伝えるという気持ちを持ちましょう。聞く側も「このコーチは1回しか教えてくれない。この1回ですべてを聞き取ろう」という気持ちになり、自発的に助言を吸収しようとするようになります。
教えたことができていないとき、指導者は「わかっていないんじゃないか?」と考え、すぐに「こうやれ」と答えを教えようとします。
しかし、こうした指導では選手は受け身になっていくばかりです。
むしろ答えを教えるのをやめて、選手自身が原因を見つけられるように接する方が、選手の上達につながります。
具体的には、次のように質問を重ねます。
「1歩目のスタートはどうだった?」
「…遅かったです」
「おれも1歩目が遅れたときよく同じミスをしたよ。体重はどこにかかっていた?」
「かかとでした」
「そうか、ではどこに(体重を)かけておけばよかった?」
「つま先です」
「それならスタートは早く切れそうだな。いいか、大事なのはミスしたあとだぞ。ミスした選手はプレーが消極的になってミスを重ねる。次の回こそ、元気を出して思いきってやってこい!」
白井コーチは最高のチームに必要な条件として、「選手の実力」「チームワーク」「運」の3つ挙げています。
そしてこれらは、すべて指導者の関わり方で育むことができるといいます。
本書を読めば、具体的な会話例を中心に、日本ハムが最高チームに必要な3つの条件をどう取り込んでいったかがわかります。
野球好きな方でなくても、強いチームや組織作りに役立つノウハウがたくさん詰まっているのでとても参考になります。ぜひ読んでみてください。
北海道日本ハムファイターズ流 一流の組織であり続ける3つの原則