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世に出てる経営書の多くは、ビジョンを立てることの重要性やビジネスモデルの考え方、競争力のある組織づくりについてなど、いかに優れた経営して会社を成長させるかという(いわば前向きな)戦略論について語られるものがほとんどです。
しかし会社経営をする上で本当に難しいのは、社員を解雇せざるを得なくなったり、優秀な社員が不当な要求をし始めたりと、答えのない困難(ハード・シングス)に直面したときにどう立ち向かうかです。
今回紹介する『HARD THINGS』は、今シリコンバレーで最も注目されるベンチャーキャピタル(VC)であるアンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者、ベン・ホロウィッツが、起業家時代に直面した困難とそれを乗り越えた経験について語られています。
会社を立ち上げれば誰もが窮地に陥り、危機的状況に追い込まれるときが必ずあります。
だからこそ、バブル破裂、株価急落、最大顧客の倒産、売上9割を占める顧客の解約危機、3度のレイオフ、上場廃止の危機など、想像を絶する悪夢のような困難を切り抜け続け、最終的に1700億円超で会社を売却する大成功を収めたベンが得た教訓は、あらゆる経営者や起業をめざす人たちにとってこの上なく価値があります。
本当はベンが直面した困難を含めて紹介しないと本書の魅力は伝えきれないのですが、これらの危機の凄まじさは、実際に読んでいただいてこそわかるものなので、ここでは「偉大なCEOに求められるスキル」についてピックアップして紹介します。
組織を運営するには、2種類の本質的に重要なスキルが必要だとベンは言います。
ひとつは「何をすべきかを知ること」、もうひとつは「そのなすべきことを実際に会社に実行させること」。
そして「会社の向かうべき方針を決めるのを得意とするCEO」を「ワン」型、「決められた方針に沿って会社のパフォーマンスを最高にするのを得意とするCEO」を「ツー」型と呼んでいます。
以下に、それぞれの特徴をまとめてみます。
偉大にCEOとなるには、これら両方のスキルが必要ですが、大部分の創業CEOは「ワン」型であり、「ツー」型の任務を果たせるよう自己鍛錬する時間を十分に割かないために失敗するケースが多いとベンは指摘します。
ようは多くの創業CEOは、会社が「何をすべきか」を知るための情報収集や戦略の策定、決断をすることは好きだけど、そのなすべきことを実際に「会社に実行させること」が苦手だということです。
生まれつきの性格がワン型であれツー型であれ、自己鍛錬によってもう一方の能力を身につけることは可能であるにも関わらず、自分の苦手なタイプの業務を無視するCEOは失敗して当然と言えるでしょう。
これに加えて、偉大なCEOに共通して必要とされるのが「リーダーシップ」です。
リーダーシップとは生まれながらの資質なのか、努力によって後天的に身につけられるのか気になる方は多いでしょう。
人々がリーダーに従いたくなる要因として、ベンは次の3つの資質が重要だと説きます。
スティーブ・ジョブズが「ビジョンを語るリーダー」として優れていたことは誰もが知るところ。
ジョブズは、NeXTがビジネス上の失敗を長く続けたのにもかかわらず、優秀な社員たちを自分に従い続けさせることに成功し、また倒産まで数週間という危機に陥ったアップルでも、社員にビジョンを信じさせることに成功しました。
平常時はもちろん、会社が危機的状況に陥り、多くの社員が会社に留まる理由を見出だせなくなっているときにこそ、それを覆すようなダイナミックかつ説得力のビジョンを語れるかどうかが、リーダーの資質として決定的に重要です。
この能力は努力によって後天的に身につけられるものなのでしょうか。ベンはこう語ります。
ある人々は生まれながらに優れたストーリーテラーの能力を持つ。しかし同時に、誰でも努力を重ねることによって、この分野の能力を大きく伸ばせるのも事実だ。すべてのCEOはビジョンを語るというリーダーシップ能力を伸ばすために十分な時間を使う必要がある。(P.304)
CEOになるためには利己的、冷酷、非情な人間でなければならないと思い込んでいる人は多いと思います。
しかし実際はまったく逆だとベンは言います。なぜならCEOとして成功するには「第一に、人々がCEOのために働きたいと思うような人間でなければならない」からです。
その意味で、強烈な無私の精神をもつビル・キャンベルは、正しい野心を持つリーダーでした。
ビル・キャンベルは、元コロンビア大学アメリカンフットボール部コーチで、ジョブズやグーグルのラリーペイジ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグらのメンターとして知られた人物。
ビルは社員のために、自らに対する給与、名声、栄光、その他あらゆる報酬を犠牲にすることをためらわず、周囲に「この人は自分のことより部下のことを優先して考えている」と感じさせる雰囲気をつくり出すことに傑出していたといいます。
ビル・キャンベルのような偉大な無私の精神を得ることが努力によって後天的に可能なのかどうかはわからないが、そうした精神を持つように教えるのが不可避なのははっきりしている。おそらくこの属性は「生まれながらのもの」と考えてよいだろう。(P.304)
3つ目は、純然たる経営能力、つまりビジョンを実現する能力です。
アンディ・グローブは、CEOの経営能力という点でベンが常に理想とするモデルだといい、世界で最高の経営書と言われる一冊『インテル経営の秘密』を書いた人物です。
アンディはインテル時代、ほぼすべての報酬を投げ打ってメモリービジネスから撤退することを決断。マイクロプロセッサー・ビジネスへ転身するという戦略を掲げました。
巨大な上場企業が事業の内容を根本的に変えるという決断は、当然多くの批判や反対を呼び起こしました。しかしそれでも迅速かつ断固として実行に移し、成功させたアンディは、正に「ビジョンを現実化する能力」を有したリーダーといえます。
ベンはこの属性こそ「学んで得られる」ものだと言います。
アンディ・グローブの無能に対する苛酷さは伝説的だが、彼が無能を容赦しないのはこの能力が努力の賜物だからだ。ときによって、有能さに対する敵は根拠のない自信だ。CEOたるものは、自信過剰に陥って経営能力の改善の努力を止めるようなことがあっては絶対にならない。(P.305)
ここで紹介したポイントは本書のほんのわずかな一部分に過ぎません。本当の読みどころは、ベンが陥ったいくつもの窮地において、それをいかに乗り切ったのかというエピソードの部分です。
ビルがどんな過酷な困難に直面し、いかにしてそれを乗り越えたのか、そして壮絶すぎる実体験を通して得たマネジメントの教訓について気になる方は、ぜひ読んでみてください。
ハードカバーで読み切るのになかなか根気のいる一冊ですが、何度も読み直したくなる学びの多い名著です。
ライター:渡邊
カメラマン:こば犬
・名前 :吉田ももみ
・生年月日 :1995.09.21
・出身 :大阪府
・職業 :大学生
将来の夢 :IT×教育分野で起業、東南アジアでアパレルブランドを立ち上げる
・Twitter :@moo3oom_
・instagram :@moo3oom_
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