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新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は落ち着きを見せたものの、地政学的リスクの高まりや歴史的な円安、資源・エネルギー価格の高騰、そして深刻化する人手不足など、製造業を取り巻く環境は依然として厳しい状況にあります。
最新のデータから、その現状を詳しく見ていきましょう。
経済産業省のデータによれば、製造業の業況を示す指標(生産指数や業況判断DIなど)は、2023年度にはコロナ禍前の水準を回復、あるいは上回る動きも見られました。これは、国内需要の持ち直しや、一部産業における輸出の堅調さが背景にあると考えられます。
しかしながら、手放しで喜べる状況ではありません。営業利益を見ると、売上高の回復ほどには伸びていない、あるいは利益率が悪化している企業も少なくないのが実情です。
これは、ウクライナ情勢の長期化や円安進行に伴う原材料・エネルギー価格の高騰、さらには上昇する人件費などがコストを押し上げ、企業の収益を圧迫しているためです。今後の価格転嫁の進捗や、コスト削減努力が収益改善の鍵となるでしょう。
長らく続いた低金利政策は転換点を迎え、国内でも金利が上昇する局面に入りました。これまで低金利融資に依存してきた企業にとっては、借入金の返済負担増や、新たな資金調達コストの上昇が懸念されます。特に、コロナ禍で利用が拡大した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済本格化も重なり、中小企業を中心に資金繰りの厳しさが増す可能性が指摘されています。
一方で、新たな資金調達の潮流も生まれました。政府は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた大規模な補助金制度や、経済安全保障上重要な分野への投資支援策を打ち出しています。また、環境・社会課題解決に貢献する事業への投融資である「グリーンボンド」や「グリーンローン」といったESGファイナンス市場も拡大しており、企業の取り組み次第では、これらを有利な資金調達チャネルとして活用することが可能です。
設備投資については、回復の動きが見られます。特に注目されるのは、半導体や電気自動車(EV)用バッテリー、さらには次世代エネルギーとして期待される水素関連など、戦略的に重要な分野における国内での大型投資計画が相次いでいる点です。これは、サプライチェーンの強靭化や経済安全保障の観点からの国内生産体制強化、いわゆる「国内回帰」の動きを反映したものと言えるでしょう。
政府もこうした動きを後押ししており、「デジタル投資促進税制」や「グリーン投資促進税制(カーボンニュートラルに向けた投資促進税制)」など、DXやGXに資する設備投資に対する税制優遇措置を設けています。ものづくり白書でも、単なる更新投資にとどまらず、高付加価値化や生産性向上に繋がる戦略的な国内投資の重要性が強調されています。
少子高齢化に伴う構造的な人手不足は、製造業においても深刻な課題です。有効求人倍率は高水準で推移し、多くの中小企業が人材確保に苦慮しています。
こうした状況に加え、物価上昇に対応するための賃上げ圧力も強まっています。2024年および2025年の春季労使交渉(春闘)では、大企業を中心に過去数十年間で見られなかった高い賃上げ率(大手製造業で5%超)が実現しました。中小製造業においても3%台後半の賃上げが見られるなど、賃上げの流れは広がりを見せています。
人件費の増加は企業経営にとって負担となりますが、優秀な人材を確保・維持し、従業員のモチベーションを高めるためには不可欠な投資です。
2024年版ものづくり白書でも、待遇改善と並んで「デジタル人材育成」や「リスキリング(学び直し)」の重要性が指摘されており、人材への投資と生産性向上の両立が求められています。
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