観光協会は、施設ごとの空き状況を把握できていない|複数拠点DXの一元管理
公式サイトも代表窓口も1つしかないのに、実際の予約状況を尋ねられると「各施設に確認します」としか答えられない。
観光協会や観光連盟、地域連携DMOなど、地域の観光を束ねる組織の担当者であれば、一度はこの歯がゆさを味わったことがあるのではないでしょうか。単独の宿泊施設向けの予約管理ツールを紹介する記事は数多くありますが、域内の複数の拠点や提携事業者をまとめて預かる組織特有の悩みに答える情報は、驚くほど少ないのが実情です。
本記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を「個々の施設のデジタル化」ではなく「拠点をまたぐ情報の一元管理」としてとらえ直す視点を示し、実際にこの転換を進めた地域連携DMOの事例を紹介します。読み終える頃には、自組織のどの業務から手をつけるべきかが見えてきます。
【本記事の要点】
- 観光協会・観光連盟・地域連携DMOなど地域観光を束ねる組織では、予約・在庫・顧客情報が拠点や提携事業者ごとに分断されやすい
- 地域連携DMO「そらの郷」は電話予約・紙パンフレット中心の運営から、予約・在庫の一元管理と事業者間送客の仕組みへ転換した
- 複数の拠点や事業者を束ねる組織では、DXの起点は個々の施設のデジタル化ではなく、拠点・事業者をまたぐ情報統合にある
- 一元化は自組織単独のツール導入だけでは完結せず、事業者間の連携設計が必要になる
観光協会も観光連盟もDMOも、窓口はひとつではない
観光協会や観光連盟、地域連携DMOなど、地域の観光を束ねる組織の多くは、代表窓口や公式サイトを1つ持っています。しかし、その裏側にある予約や在庫の管理体制まで1つにまとまっているとは限りません。まずは、この「窓口は1つでも、実態は複数」という構造を確認します。
「予約や在庫を紙やExcelで管理している」という説明は、DX特集記事でよく見かける切り口です。しかし、域内の複数拠点・複数事業者を束ねる観光協会やDMOが直面している問題は、単に紙かデジタルかという道具の違いではありません。
加盟施設や提携事業者が1つ、また1つと増えるたびに、それぞれの現場が独自の予約受付・在庫管理・顧客対応のやり方を積み重ねていき、組織全体としてどの拠点にどれだけの空きがあり、どの顧客がどの施設を利用したのかを横断的に把握できなくなることが問題なのです。
窓口が少なかった頃は、担当者の頭のなかで全体の状況を追えていた組織もあるでしょう。しかし加盟施設や提携事業者が一定数を超えると、事務局の目が届く範囲を越え、情報は各現場に抱え込まれ、全体からは見えなくなります。これは、宿泊業(ホテル・旅館)における客室在庫の分断とは別の、地域観光を束ねる組織の運営構造そのものに関わる課題です。
そらの郷にみる、電話とパンフレットで運営してきた地域観光の限界
この構造的な課題を具体的にイメージするために、実際に複数拠点をまたぐ情報の一元化に取り組んだ地域連携DMOの事例を見ていきます。
一般社団法人そらの郷は、徳島県西部「にし阿波」地域の三好市・東みよし町・美馬市・つるぎ町という2市2町を対象エリアとする地域連携DMOです。そらの郷は、2011年2月2日に設立され、徳島県知事登録旅行業第2-148号の旅行業登録を持ちます。2017年2月には観光庁の地域連携DMOとして登録されました。また、2020年3月には地域振興の功績で内閣総理大臣賞を受賞するなど、地域の観光を束ねる組織として実績を重ねています。
そらの郷が長年抱えていた課題は、大きく分けて3つありました。
- 体験プログラムの予約受付が電話中心で、若い世代の利用者が増えるなかでもオンライン予約の環境を整えられていなかった
- 紙のパンフレットでは掲載できる情報量に限りがあり、人手不足の影響で掲載内容の更新も滞りがちだった
- 電話受付では事前決済ができず、当日キャンセルや無連絡キャンセルのリスクを抱えていた
これらは、そらの郷だけに固有の課題ではありません。観光協会やDMOのように、地域内の複数の体験事業者・提携先の窓口を担う組織では、予約チャネルの分断、情報発信の分断、決済の分断という3つの分断が積み重なりやすくなります。DMOの多くは地域の観光協会が中核となって設立・移行しており、そらの郷が直面した分断は、加盟施設や提携事業者を預かる観光協会にも当てはまる課題なのではないでしょうか。
出典・参照:
拠点・事業者をまたいで一元管理すべき情報
ここまで見てきた課題に対し、そらの郷はどのような仕組みで対応したのでしょうか。DXで具体的に何を一元化すべきかを、そらの郷が導入した仕組みから整理します。
予約と在庫を横断で見える化する
そらの郷は、電話中心だった予約受付をオンラインでも受けられるようにし、予約と在庫をまとめて管理するために、予約管理システムを導入しました。導入したのはJTB BÓKUNで、観光協会・DMO・体験アクティビティ事業者向けに提供されているシステムです。
JTB BÓKUNは、自社サイトや海外OTA(20社以上)など複数の販売チャネルの予約・在庫を一元管理するチャネルマネージャー機能を持ちます。あわせて、ガイド・教室・車両といった必要な人や設備をリソースとして登録し、空き状況に応じて予約枠を自動で設定できるリソース管理機能も備えていました。
体験プログラムにおける「在庫」とは、客室のような物理的な部屋数だけでなく、案内できるガイドの人数や使用できる車両の台数といった、人と設備のキャパシティそのものを指します。この考え方を一元管理の対象に含めることが、宿泊業とは異なる観光業ならではのポイントです。
出典・参照:
事業者間で商品を送客し合う仕組みをつくる
さらにそらの郷は、JTB BÓKUNのマーケットプレイス機能を活用し、地域内の事業者同士が互いの商品を売り合う仕組みを構築しました。加えて、地域の宿泊施設やDMOのサイトを通じて商品を販売できる体制も整えています。
これらは、単独の事業者が自社の予約をデジタル化するだけでは生まれない発想です。そらの郷が拠点や提携事業者をまたいで情報を一元管理する基盤を築いたことで、地域の各事業者は、自社の顧客に他社の体験プログラムを勧めたり、他社経由で自社の商品が売れたりする、地域全体での送客に踏み出せるようになりました。
ここで少し、DXという言葉の元々の意味に立ち返っておきます。DXとは、デジタル技術やデータを使って新しい価値を生み出し、事業のやり方そのものを変えていく取り組みです。日々の業務のなかでは、システムを導入すること自体が目的のように感じられがちですが、本来のねらいはその先にあります。
そらの郷がしたことは、予約受付のデジタル化だけではありませんでした。拠点や事業者をまたいで予約・在庫・顧客情報を共有できる基盤を築き、その上で「地域全体で送客し合う」という、単独の施設では成り立たない売り方をつくり出したのです。
個々の効率化にとどまらず稼ぎ方そのものを変えたことにこそ、デジタル化とDXの違いがあらわれています。観光協会やDMOがこの事例から学べるのは、「どのシステムを選ぶか」より前に、「その先でどんな価値を生み出したいのか」を描いておくことの大切さです。
一元化は「デジタル化」で終わらせない:組織としての意思決定
予約・在庫の一元管理や事業者間送客の仕組みは、単発のツール導入だけで実現するものではありません。最後に、地域観光を束ねる組織としてこの取り組みをどう位置づけるべきかを整理します。
そらの郷の事例が示すのは、電話予約・紙パンフレット中心の運営から、オンラインでの予約・決済と事業者間の相互送客へと、地域の観光情報の扱い方そのものを切り替えたという事実です。予約件数やキャンセル率がどう動いたかという成果指標ではなく、この切り替えを成立させた前提のほうに、組織運営としての示唆があります。
重要なのは、この切り替えが1つの施設の効率化の延長では成立しないという点です。事業者間で商品を売り合うマーケットプレイス型の仕組みは、参加する事業者同士が同じ基盤のうえで情報を共有することに合意して初めて機能します。自組織だけでツールを導入して終わりにするのではなく、拠点間・事業者間でどの情報をどこまで共有するのかという合意形成そのものが、地域観光を束ねる組織のDX推進の一部なのです。
観光庁も2024年3月に「観光分野のDX推進に向けた優良事例集~地域一体で進める観光DX~」を公表し、DMOや自治体、観光事業者向けに国内外の観光DX優良事例を紹介しています。予約・在庫・顧客情報を地域一体で扱うことは、一事業者の効率化にとどまらず、国が推進する政策課題としても位置づけられています。
出典・参照:
まとめ:束ねる拠点が増えるほど、情報の一元管理が組織の課題になる
地域の観光を束ねる組織にとって、加盟施設や提携事業者が増えるということは、単に窓口が増えるという出来事ではありません。そらの郷の事例が示すように、束ねる拠点が増えるたびに、予約・在庫・顧客情報はそれぞれの現場にとどまり、全体では見えにくくなります。こうした組織にとって、DXの出発点は、個々の施設をデジタル化することではなく、拠点や事業者をまたいで情報を共有できる仕組みをつくることです。
自組織が扱う予約状況・在庫・顧客情報のうち、加盟施設や提携事業者ごとに最も分断されている業務はどれか。まずはこの1点を洗い出し、一元管理の仕組み化を検討することから始めてみてください。
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