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まずはTIS様(以下:TIS)の大まかな業務内容と、その中で鈴木様がご担当されているお仕事について教えてください。
鈴木氏
「私たちのお客様は金融・非金融と幅広く関わらせて頂いておりますが、一番のコアサービスは、金融機関向けに金融システムを裏から支えるプロセッシングの部分です。クレジットカードやブランドデビットカード、あるいはブランドプリベイトカードなどが該当します。
一般のユーザーからすると『なにそれ?』という部分にはなってしまうかもしれません。」
エンドユーザーが直接触れるところを手掛けている企業ではない、ということですね。
鈴木氏
「そうですね。目には見えない部分のサービスに強みがあります。
例えば、プロセッシングサービス、特に国内クレジットカード基幹システムのシェアやブランドデビットカードシステム開発実績・関連サービス提供のシェアは非常に高い状況です。」
まさに今の御社の広告コピーにある『ここにもいたのか』というお話になるというわけですね。御社の業務は裏方的な業務ということで、一般ユーザーにはあまり名前が知られることはないのかもしれませんが、その実、普段我々が触れているさまざまなサービスの裏側にはTIS製システムが使われている、というような。
鈴木氏
「一般的なTISのイメージと言えば、いわゆるSIer、システムを作って収めるシステムインテグレーションをやっている会社という認識かと思います。私も入社以前はそう思っていました。
しかし、最近は自分たちでプロダクトを作ってフロントに出ていったり、システムを開発したりするだけでなく、その前の業務課題を解決するコンサルティング部分からお客様にかかわるような業務にも進出しています。
その中で、私の役割は決済及び決済に関連する業界情報や各業界の有識者の方と会話し、こうした情報を集めて社内外に発信、共有していくことです。」
現在、決済システムが世の中に出回りはじめて20~30年ほどになるかと思うのですが、その後DXという言葉がビジネス界でも浸透しはじめました。
決済とDXの歩みや現状について、どのような印象をお持ちですか?
鈴木氏
「私がEC決済の代行会社に初めて携わったのが、2002年~2003年頃でした。それ以降、ネットの決済はどちらかというとベンチャー主導で進んできたと思っています。
最初はクレジットカード決済のみだったものに、コンビニ決済が加わり、その後いわゆる◯◯Payみたいなものが加わってきました。『1つの決済会社と契約しておけば、ある程度の決済方法は全て使えますし、入金も一本化できますよ』という流れが生まれてきた形ですね。
特に、ネット上の決済の場合はそんな世界観が比較的早く出来上がっており、少しずつ進化してきて今に至っています。
ところが、店頭などでの対面決済の場合は、多くの決済手段に対応できるシステムが広がっていないというのが現状です。
ようやく最近では、政府が進めたキャッシュレス施策もあったので少しは広がりましたが、2~3年前まではコンビニとかスーパー、あるいは飲食店などに行くとレジに決済用の端末がいくつもおいてある、なんていう情景が当たり前で、ネットに比べてすごく遅れていました。
お客様の決済方法に合わせて、それぞれの端末で決済し、売上も別々に入金されるという状態は、業務の効率化には程遠いです。また、店頭でいくつもの端末を扱うのは、UI的にもあまりよろしくないなと思っていました。
それがごく最近になって、ようやくオールインワンで処理できるサービスが対面決済でも提供されはじめ、ネットに追いついてき始めたとは思います。ですが、特に対面決済ではDXの余地は非常に多く残されていると思います。」
「日本はDX後進国だ」という指摘がしばしばありますが、日本のキャッシュレス決済の状況は、世界と比較してまだまだ遅れているのでしょうか。
鈴木氏
「そうですね。日本では政府が『2025年までにキャッシュレス決済比率を40%程度にする』と目標を掲げており、2022年の段階で36%といい感じに目標に近づいてきてはいます。
しかし、例えば韓国。おそらく韓国がキャッシュレス決済の普及では世界一だと思うのですが、その数値は90%を越えています。中国でも80%越えです。アメリカはグッと下がって50数%ですが、それでも日本よりはかなり高い数値なんですよ。
そのあたりから考えても、日本はまだまだキャッシュレス拡大の余地はあるのではないかと思っています。」
確かに個人営業の飲食店などでは、今でも現金しか使えないようなお店はたくさんありますよね。
鈴木氏
「その背景は色々あると思うのですが、やはり手数料がかかるという点は、粗利が高くない飲食店などにとっては負担になってしまうのだと思います。」
最近はクレジットカードの手数料なども少しは安くなりましたが、それでも飲食店にとっては負担が大きいですよね。
手数料以外に考えられる課題はありますか?
鈴木氏
「例えば、韓国がこの分野で世界トップである背景には、政府のリーダーシップで行われたキャッシュレス推進の企画が功を奏したというのはあるかと思います。
韓国では『キャッシュレス決済を導入したら所得控除する』という実利のある施策がありました。あるいは、台湾などではキャッシュレス決済のレシートに宝くじの番号が書いてあって、2ヶ月に1回宝くじに参加できる。その当選金額もかなりの高額だったので導入が進んだなど、国主導の多種多様な仕掛けがあったのだと思います。
あとは韓国の場合は、それこそ一定以上の売上規模の店舗には、クレジットカード決済端末を設置することを義務化したということも大きいですね。一方、日本ではこうした取り組みは行われてきませんでした」
キャッシュレス決済の進んでいる国が国主導のトップダウンで行われているのですね。それに対して、日本ではネット決済もベンチャー主導で、政府主導ではなく草の根から広まったということが、現在のキャッシュレス決済の普及率の差を生んでいるということですか?
鈴木氏
「そうですね。ここ2~3年の間で、日本でも政府主導の機運も上がってはきています。
ただ、日本はやはり紙幣など現金の信頼感が高いということもあります。手数料のことも踏まえて、そこまで現場が必要性を感じていないということもあるでしょう。そこを突破できればキャシュレス化がさらに進むと思います。」
最近では、かなりご高齢の方でもスマホが使える世の中が訪れていますよね。コンビニなどで『お財布が無くても買い物ができるのは便利だね』と言われるようになってきており、顧客のニーズはキャッシュレス決済に向かっているように思われます。
しかし、個人経営の飲食店などの方は導入に消極的な場合もあります。複数の決済システムと契約しなければならず、それぞれに縛りが発生したり手数料がかかったりして、収入が減ってしまうという声を聞きます。
消費者は求めているのに、事業者側は導入しにくいというジレンマがあると思います。もっとシステム面で解決できると良いのではと思うのですがいかがでしょう。
鈴木氏
「そこがまさにTISが考えている、単なる決済システムのDXではなく、決済×◯◯というシステムが生きてくるのではないかと思っています。
例えば、決済×予約システムであったり、そこに伴って(例えばコース料理などの予約の場合)来店前に決済を済ませるシステムであったりと、一気通貫したプラットフォームの実現は、決済システムの拡充の必須条件ではないかと思います。
すでに旅行関連のポータルサイトで採用されているような、事前決済が行えれば飲食店などにもメリットがあるはずです。」
キャッシュフロー+ビジネスモデル、いわゆるビジネスフローの効率化ができれば、共にWin-Winになるという感覚でしょうか。
実際に飲食店でも、予約をしたのに連絡もせず来店しないなど、顧客側のモラルも問題になっていますね。
鈴木氏
「そうですね。旅行サイトなどでも『いますぐ即時決済』を選べば、相場よりものすごく安い価格で予約ができることが多いです。これまでであれば、ネットで予約を受け付けても、実際に決済がされるのは宿泊当日というのが普通でした。つまり、予約を受けて枠を押さえた段階では、実売上は立たなかったのですが、今は予約の段階で売上まで立てる施策を取っていますよね。
早期予約はめちゃくちゃ安い。その代わり返金もしません、というようなシステムになっているわけです。事業者にも、そういったニーズはあると思っています。飛行機の早割りなども同じ理屈ですね。」
逆に言うと、日本のビジネス文化はその流れに追いついていないのでしょうか?
鈴木氏
「そうですね。その背景には、文化的側面があるかもしれませんね。飲食店などの場合は、まだ食べてもいない料理にお金を前払いするのは抵抗がある、という顧客の意識はあるのではないでしょうか。」
海外のビジネスパートナーと話をすると、しきりに『なぜ日本は1ヶ月まとめて請求をする仕組みがあるんだ』、『なぜわざわざ締め日なんてものを作るんだ。1件1件決済すればいいじゃないか』と言うんですよ。
『日本には長年掛け売りという文化があるんだ』と説明するのですが、どうも理解して貰えません。
鈴木氏
「そういうことはあるでしょうね。企業間の支払いにクレジットカードが使えれば、その都度支払いを行えばよく、月末に経理部の仕事が集中してしまうというような状況も緩和されるでしょう。あるいは、タイミングによって支払いにあてるお金が足りないといったようなキャッシュフローの問題も解決されるかもしれませんね。」
そのあたりをまとめて解決しないと、なかなか決済のDXが浸透したり、キャッシュレス決済が40%を超えていったりするのは難しいと思われますか?
鈴木氏
「消費者が行う決済もそうですが、これから伸びるであろうと考えられているのがB2B決済。いわゆる法人決済のDXだと思います。そこに今、いろんなベンチャーが立ち上がってきています。
当然、TISとしても強みとしているプロセッシングサービスの領域を拡大し、BtoB領域に力を入れていきます。
現金で支払ってきたものを、簡単に発行できる法人カードを従業員に渡して、企業間のお金の流れに現金を使わないように変えていこう、というようなB2B決済も進行しています。
これがうまく既存のシステムに組み合わされていけば、キャッシュフローのようなものも改善されていくのではないかと。個人が利用する◯◯PayのようなB2C決済とB2B決済の両方がDXされていけば、先ほどの『これは文化的に……』というようなものも、もしかしたら改善されていく可能性があるのではと想像しています。」
確かに個人レベルの◯◯Payの利用はかなり広がっていますが、法人対法人の決済は、まだまだ振込で行われていますよね。オンラインを使っているとはいっても、それはあくまでオンラインで振り込みしているだけで、決済方法そのものがプラットフォーム化されているわけではないですものね。
このあたり、ベンチャー主導ではなく、国主導で進めることで、もっと広がっていくとお考えですか?
鈴木氏
「例えばインボイス制度対応のために、今まで手作業だった経理や財務にシステムを初めて検討するという企業は多いと聞いています。
ただ、インボイスにしても、どうしても日本の場合ロードマップがはっきり見えないため、利用する側が戸惑ってしまうというのがあるのではないかと思います。
日本のキャッシュレス決済の推進にしても、韓国の『代わりに減税するよ』というような動きというか、導入を義務付ける一方で『こんないいこともあるよ』みたいなことがあれば、そこまでの抵抗感はないかと思うのですが。」
ただ、ベンチャー主導でもなんでもより良い世界を目指して個々に対応していくというのが現実問題になってくるかとは思います。
そんな中で、TISとしてはどちらかというと今後は少しB2Bの方に力を入れていきたいというところでしょうか。
鈴木氏
「『B2Bも』というところですね。当社は元々クレジットカード、ブランドデビットカード、そしてこれrに関連するサービス提供において強みがありますので、親和性が高いと認識しています。
システムの提供だけではなく、BtoBをビジネスモデルとした新規ビジネスのコンセプト検討から事業計画書策定までをサポートするサービスも始めています。
また、今後はB2Bの中でも、よりエンドユーザーにも近い部分のシステムも担当していきたいと考えています。」
>>後編へ続く
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