- 週間ランキング
急速な高齢化の進行に伴い、日本社会には様々な課題が生じています。その中でも、シニアDXが特に解決すべき社会課題として、次の3つが挙げられます。
WHOが発表した「World health statistics 2023」によると、日本人の平均寿命は世界でも最高水準にありますが、それに伴って、健康上の問題で日常生活が制限されるいわゆる「不健康期間」も長くなっています。
2019年時点において、「平均寿命と健康寿命の差」は男性で約8.73年、女性で約12.07年にも上ると推計されています。健康寿命の延伸は大きな課題です。(参考:健康寿命の令和元年値について/厚生労働省)
また、高齢者人口の増加に伴い、介護を必要とする人の数も急増しています。2025年には、介護職員の需要が約253万人に達すると予測されており、介護現場の負担軽減も喫緊の課題です。(参考:2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について/厚生労働省)
シニアDXでは、遠隔医療や健康管理のためのウェアラブルデバイス、介護ロボットの活用など、様々な形で健康寿命の延伸と介護負担の軽減に寄与することが期待されます。
高齢期は退職や子育ての終了などを機に、社会とのつながりが希薄になりがちな時期です。内閣府の調査では、60歳以上の高齢者の約20%が「生きがいを感じない」と回答しています。
社会参加の機会の減少により、孤独感や生活の質の低下につながるおそれがあります。
シニアDXは、オンラインコミュニティの形成やマッチングサービスの提供などを通じて、高齢者の社会参加と生きがいづくりを支援することができるでしょう。
インターネットやスマートフォンの普及により、デジタル技術は私たちの生活に欠かせないものとなりました。しかし、高齢者の中には最新技術の利用に不安や困難を感じる人も少なくありません。
総務省の調査によると、2019年時点で69歳以下のインターネット利用率は90%と高水準になったものの、70歳以上では74.2%に留まっています。世代間で大きな格差が存在しているのです。
デジタルデバイドの解消は、情報へのアクセスや社会参加の機会を平等に保障する上で重要な課題です。シニアDXによって高齢者にとって使いやすく、安心・安全なデジタルサービスを提供することは、この課題の解決に貢献すると期待されています。
超高齢社会を迎えた日本では、シニアDXサービスへの注目が高まっています。すでに、様々な分野で高齢者の生活の質向上、介護負担の軽減や社会参加の促進などを目的とした革新的なサービスが登場しています。
本章では、シニアDXが生み出したサービスを紹介します。
Hubbit株式会社が提供する「Carebee(ケアビー)」は、高齢者自身が直接利用するサービスの代表例です。
CarebeeはITが苦手な高齢者でも、簡単にITを活用して家族との交流や買い物を楽しめるようにするサービスです。社会課題である「社会参加と生きがいの創出」を解決させることが期待されます。
Carebeeの中心は、コンシェルジュ付きのタブレット端末です。
利用者は、タブレット画面の「話しかける」ボタンを押すだけで、専門スタッフとテレビ電話で繋がることができます。このシンプルな操作で要望を伝えるだけで、スタッフが遠隔操作で必要なサポートを提供してくれます。
例えば、離れて暮らす家族とビデオ通話をしたい場合、利用者がスタッフにその旨を伝えるとスタッフがLINEを立ち上げ、ビデオ通話の設定を行ってくれます。オンラインショッピングも、欲しい商品を伝えればスタッフが代行で注文手続きを完了させてくれるのです。
活用方法は多岐に亘っており、コロナ禍で直接会えなかった孫の結婚式に、Carebeeを通してオンラインで参列できたという事例もあります。まさに、ITの力で「今までできなかったこと」が「できる」に変わった瞬間と言えるでしょう。
企業と行政(総務省)連携のもと、社会課題であるデジタルデバイドの解消に向けて、高齢者のデジタル活用を支援する「デジタル活用支援」の取り組みが進んでいます。
オンラインでのサービス利用の利便性はもはや誰もが知るところであり、行政手続きを含めてあらゆる分野での利用拡大が求められています。一方で、オンラインを使いこなせない高齢者が取り残されることは避けなければなりません。「デジタル活用支援」とは、まさにデジタル活用に不安のある高齢者等を対象に、オンラインによる行政手続やサービスの利用方法等に関する助言・相談等を行うものです。
主に高齢者の身近な場所で、行政手続きや利用ニーズの高い民間サービスの利用方法を教える講座等が開催されています。
講座の内容は、例えば次のような日常生活に密着したサービスの利用方法が中心です。
この取り組みは、「誰1人取り残さない、人に優しいデジタル化」を目指す政府方針にも合致するもので、シニアDXを社会全体で後押しする重要な1歩と言えるでしょう。
高齢者の家族向けのサービスとして注目されているのが、ハローテクノロジーズ株式会社が提供するIoT電球「HelloLight」を活用した見守りサービスです。
HelloLightは、スマートフォンなどに、LED電球のON/OFFを通信で知らせることができる世界初のIoT電球です。今ある電球を1つ交換するだけで、高齢者の見守りや防犯対策を始められます。
例えば、トイレや廊下、階段などの電球をHelloLightに交換することで、離れた場所で暮らす家族の状況を把握することができるのです。具体的には、1日中点灯と消灯の動きがない場合にお知らせメールが届く「期間検知」機能や、電球が点灯した際に通知が届く「点灯検知」機能により、高齢者の異変を素早く察知することができます。
東京都日野市では、単身高齢者等の見守りのモデル事業としてHelloLightが採用されています。
一定時間にわたって、HelloLightの点灯や消灯の形跡がない場合、日野市都市計画課・日野市社会福祉協議会等のホームネットに異常検知のメールが届き、親族やケアマネジャー等の福祉関係者が連携して安否確認を行う取り組みが始まっているのです。
異変があればすぐに通知が届くので、家族は安心して高齢者を見守ることが可能となるでしょう。
IoTとクラウド技術を駆使し、導入しやすい価格と利便性を実現できれば、高齢者の見守りと家族の安心を両立する、これからの時代に不可欠なソリューションになるはずです。
介護現場のDXを推進するサービスとして注目されているのが、日本KAIGOソフト株式会社が提供するAI・介護記録ソフト「CareViewer(ケアビューア―)」です。
CareViewerは、介護記録の作成や情報共有を効率化するだけでなく、蓄積されたデータをAIで分析し、ケアプランの自動生成にも活用できる革新的なソリューションです。
これを使えば、介護スタッフは、スマホ・タブレット・PCを使って、利用者の健康状態や生活状況を簡単に記録・共有することができます。
自動通知機能やグラフ化機能、音声入力機能など、業務効率化につながる様々な機能も搭載されており、実際に導入施設では介護記録にかかる時間が大幅に削減された実績があります。
また、CareViewerは他社の介護系ソフトやウェアラブル端末とのデータ連携が容易であることも大きな特長です。
データ連携の例は、以下の通りです。
これら多岐にわたる情報を集約し、一元管理することができます。
何よりCareViewerは蓄積された膨大な介護データをAIが分析し、科学的根拠に基づいた質の高いケアプランを自動立案できる点が革新的なソフトです。
これにより、ケアマネジャーの作業時間短縮や、ケアプランのばらつき軽減、介護の質向上と負担・コスト削減を同時に実現できるでしょう。
CareViewerは、デジタル技術とAIの力を結集し、介護の質を高めつつ、介護負担の軽減を目指すサービスです。まさに社会課題である「健康寿命の延伸と介護負担の軽減」を解決させるDXソリューションの1つと言えるでしょう。
本記事では、シニアDXが解決すべき社会的課題を、具体的な事例をもとに解説しました。
これらは、シニアDXが超高齢社会における様々な課題にアプローチするための鍵となるでしょう。
高齢者がデジタル技術の恩恵を受けられる社会、年齢に関わらず活躍できる社会、質の高い介護が持続可能な社会の実現は、これからの日本を大きく変えるはずです。
しかし、シニアDXの推進には、デジタルリテラシーの向上、サービスの利便性と信頼性の確保、多様なステークホルダー間の連携など、乗り越えるべき課題が数多く残されています。これらに対応するには、官民が協力し、高齢者のニーズに寄り添いながら、課題を1つひとつ解決していく必要があるでしょう。
超高齢社会の未来を切り拓くシニアDX、その実現に向けて、私たち1人ひとりが関心を持ち、できる取り組みを進めていくことが求められています。
年齢に関わらず、誰もが幸せに暮らせる社会の構築。それこそが、シニアDXの究極的な目標なのです。
シニアDXの推進には、様々な企業や自治体の連携が不可欠です。オープンイノベーションの視点を持ち、異業種との協働にも積極的に取り組んでみてください。
The post 【シニアDXの最前線】4つの分野におけるエイジテック活用事例と展望 first appeared on DXportal.