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法務部門では、これまで紙媒体で書類の確認や押印を行ってきました。また、対面で直接的なやりとりを重視する文化も根強く残っており、これらがデジタル化による業務フローの変更を困難にさせています。
つまり、意識改革の遅れが法務業務のDXを推進する障害となっているのです。
しかし、この問題は法務部門の意識改革だけで乗り越えることはできません。
ここでは、法務業務のDX推進を阻む、3つの課題について解説します。
会社にとって、管理部門はコンプライアンス(法令遵守)、ガバナンス(企業統治)の観点からも必要不可欠な部門であるのは間違いありません。
しかし、管理部門はその業務の特性上、直接利益を生むわけではないため、とかくコストセンター(会社にとっての利益を生まずコストのみかかる部門のこと)と揶揄(やゆ)されがちです。
多くの企業にとってDX予算配分の優先順位は、どうしても利益を直接生み出すプロフィットセンター(営業などの利益を生み出す部門)に集中しがちなため、コストセンターである法務部門は後回しにされる傾向にあります。
その結果、法務業務の効率化に繋がるシステムやサービスの導入を検討しても、現行の運用下での工夫を求められることが多く、新たに費用が発生する業務改善策の導入については会社から中々理解が得られないというのが実情です。
会社の仕組みや制度に関わる部分に対して、新たにシステムやサービスを導入するとなれば、管理部門だけでなく、社内のすべての部門・従業員に影響が出ます。
これまでの経験から、多くの社員はレガシーシステム(新時代に適合しない古いシステムの総称)の利用に慣れているため、いくら将来的に業務効率化に繋がるとはいえ、不慣れな新しいシステムへ移行するにあたってはそれ相応の労力をかける必要があります。
場合によっては、新しいシステムに慣れるまでの期間は、一時的に変更前より業務効率が悪くなり、生産性が落ちてしまうことも考えられます。
特に、これまで場当たり的にシステムを導入してきてしまった企業においては、既存の仕組みが合理性に乏しくレガシーシステム化しているケースが多いのです。
このような状況から新システムに乗り換える、あるいは一部を残して新しいシステムと連携させる場合などは、システムの構造上、移行期間の不便さはさらに高まってしまいます。
そのため、レガシーシステムから脱却できればIT技術の活用により一気に業務の効率化が進められる可能性が高いとはいえ、新システム導入のメリットと導入に伴うコストや労力など移行期間に発生する損失を天秤にかけた結果、経営者が「現状維持」の判断を下すのは、決して理解できない話ではありません。
また、経営者が新たなシステムの導入を決断したとしても、社内に技術面に詳しい人材がいなければなかなか改善策を進めることは容易ではありません。
中には、新システムを導入したいが、人材不足で進められないと頭を悩まされる企業も少なくないでしょう。
自社の業務効率化の観点からLegalTechを導入したとしても、取引先の企業に従来通りの紙ベースでのやり取りを求められることもあるでしょう。
例えば、電子契約サービス等を積極的に取り入れたとしても、取引先企業がそのシステムに対応していない場合や、CPなどの環境整備が追いついていない場合には、紙面による対応が必要となります。
実際に、権利書や契約書のやり取りを頻繁に行う不動産業界は、今でも書面のやり取りを郵送かFAXで行っている場合も少なくありません。
そんな中で、自社だけが電子契約を導入したとしても、一気に全ての契約を電子契約に移行することはできないため、当面の間は紙の契約書類のやりとりも継続しなければならないでしょう。
このように、自社の業務効率化のために先進的なシステムやサービス等を取り入れても、実際に活用できるかどうかは、取引先のシステム導入体制等に影響を受けてしまうのです。
従って、DXで改善を行う内容によっては、取引先企業において自社が導入するシステムやサービスに対応可能かといった見極めを行い、取引先企業の理解を得ることも重要な要素となるでしょう。
法務業務のDX推進を行うには、一足飛びに全ての業務をDXしようと考えるのではなく、1つひとつ手順に沿って着実に準備を進めていく必要があります。
ここでは、推進のための手順を次の大まかな5ステップで解説します。
まずは、法務業務全体の棚卸を行います。
業務の棚卸においては、業務内容とその流れ、現在のシステムやその問題点などだけでなく、各業務において要する作業時間なども整理します。
そのため棚卸にはある程度の時間がかかりますが、ここで関連する業務の全て書き出して一覧にまとめ、誰もが確認できる状態を作ることが重要です。
なお、棚卸の際は、法務部門内だけで業務が完結する項目と、全社的に関わる項目を分けて整理することで、ステップ2の作業が効率化できるでしょう。
ステップ1で整理した業務のうち、業務効率化に向けたシステムやサービス等を導入した場合に、特に大きな改善が見込まれる業務をピックアップします。
この時、単に労力削減が見込まれる業務だけでなく、法務部門のみならず全社的に影響を及ぼす業務の優先順位を上げることがポイントです。
業務の効率化を検討する際には、既存の慣習や考え方に縛られず、一旦全ての業務やシステムを議論の俎上(そじょう)に乗せて、一から丁寧に検討していくことが重要です。
これまでの先入観に捉われない、冷静な判断が求められます。
ステップ2でピックアップした業務の改善に向けて、どのようなシステムやサービスを導入すれば課題が解決できるかを検討します。
システムやサービスを業務全体に導入する場合もあれば、部分的に導入することも考えられるため、導入の方法についても併せて検討すると良いでしょう。
例えば、全社的に導入する電子サインや契約書レビューなど電子契約に関わる仕組みは、特に業務効率化の成果が実感しやすい施策です。
その一方で、前述の通り移行期間においては全社的に不慣れなシステムの対応に時間を取られる可能性もあるため、導入までのプロセスの検討や導入のタイミングの調整が重要です。
また、社内にレガシーシステムが存在する場合には、レガシーシステムから乗り換えるのか、または連携させるのかについても検討項目となります。
導入するシステムやサービス等について、新たに発生するコストと削減できる費用を算出し、費用対効果を検証します。
金額上の費用対効果だけでなく、システムの導入によって法務業務のクオリティ向上や新たな業務支援が実施できるといった説得材料があれば、システム導入について経営陣からの理解も得やすいでしょう。
また、「いつまでに達成するか」というスケジュールをあらかじめ決定して置くことも重要です。
検討段階で、発生する費用と成果が出るまでのタイムラグによる利益率の低下なども加味できますので、より正確な費用対効果が算出できます。
実際にシステムやサービス等を試験的に使用するなどの取り組みを行い、運用上の問題の有無や、使い勝手などについて検証します。
新しいシステムやサービスの運用面での不都合、レガシーシステムとの連携における思わぬ不具合の発見にも繋がるため、検証の実施は非常に重要な工程です。
検証の結果、もし問題があれば計画を微調整して更に検証を行うなどした上で、課題がクリア出来た段階で本格的な導入を行います。
ここまで法務業務のDX推進を阻む課題と、推進への5ステップについて解説しました。しかし、なぜ法務業務はこれらの課題を乗り越えてまでDXを行わなければならないのでしょうか。
ここでは、改めてその理由を確認した上で、法務業務が導入すべきシステムやサービスの一例をご紹介します。
重要な業務を担っているにもかかわらず、コストセンターとして揶揄されることもある法務などの管理部門では、より積極的な経営戦略の策定に寄与できる部門となるために、「攻めのDX」の一環として業務効率化を行うという考え方が必要不可欠です。
すでに述べた通り、DX予算の配分を考えた場合、直接的に利益を生み出すことのないコストセンターよりも、直接的に利益を生み出す営業部門などのプロフィットセンターの方が優先されがちなのは、ある意味で当然でしょう。
しかし、一見すると優先度が低く見える法務部門のDXを進めて、コストセンターから脱却し、積極的に経営戦略に関わることができる新たな法務部門に生まれ変わらせることは、企業全体としても極めて重要なのです。
法務や経理などの管理部門が、文書のデジタル化や契約の電子化といったデジタイゼーション(DXの途中にあたる業務フローのデジタル化の段階)に留まらない、真のDXによってコストセンターからの脱却を果たせば、デジタル社会で戦い続けられる総合的な企業力を手に入れられるでしょう。
法務業務のDX推進例としては、多種多様なシステムやサービスが考えられます。
その中でも次に挙げるシステムやサービスは、いずれも企業全体の運用に関わるため、大きな業務効率化が期待できるでしょう。
こうしたシステムやサービスを優先的に導入することで、法務のDXは円滑に進められるはずです。
今回は、法務業務効率化に向けたDX推進における課題と、解決のための5ステップについて解説しました。
法務を取り巻く環境は、各種法改正やDXに関連した相談案件の増加等、日々変化しています。
このような変化に対応していくためには、法務業務に携わる従業員の業務を効率化して、目まぐるしく変わっていく時代の流れに対応する余力を生み出すことが不可欠です。
法務業務のDX推進により業務効率化が実現されれば、削減されたリソースをより価値創造に直結する「攻めのDX、攻めの法務」へと振り替えることも可能でしょう。
そうすることで法務部門は更に価値を増し、結果として企業全体で新しい価値を創出する組織作りに繋がるのです。
ただし、ここで紹介したのは全社的に関わりのあるシステムやサービスではありますが、あくまでも法務部門単体でのDX推進施策です。
本来であればDX推進は、部門・部署単独ではなく、全社的に予算配分やスケジュール、課題解決のバランスを考えるべきなのはいうまでもありません。
そうしたバランスの中で法務のDXを進めるのであれば、本記事で紹介した5ステップも参考となるはずです。
しっかりとしたゴールを見据えながら1つずつ整理して対応を進めれば、必ずしもDX推進は難しいことではありません。
コストセンターである法務業務のDXは、企業トップの理解を得ることも難しく、様々な課題もあるでしょう。
しかし、法務が攻めの姿勢へ変革することで、企業価値も大きく変わるはずです。
逆境に屈せず、法務業務の効率化と企業価値向上のために、ぜひともより良いDX推進施策を検討してください。
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