これまで主に製造業の生産管理で用いられてきたQCDという概念ですが、近年は製造業に限らず、あらゆる分野の業務マネジメントや生産性管理に応用されています。

DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)で新しいビジネスモデルを生み出す場合においても、QCDを指標として考えることは重要です。

そこで今回は、そもそもQCDとはなんなのか?という基本から、QCDを利用した業務改善の流れとポイントを解説します。

QCD指標を貴社のDX推進施策の基準として取り入れ、新規事業創出の一助としてください。

DX推進のカギを握るQCD指標

DXを推進する上で、QCDという概念、そしてQCD指標をしっかりと抑えておくことは欠かせません。

まずは、その基本を改めて整理しておきましょう。

QCDとQCD指標

QCDとは「Q: Quality(品質)」「C: Cost(費用)」「D: Delivery(納期)」という3つの単語の頭文字を取った言葉です。

もともとは英国の自動車産業で開発された生産管理アプローチの概念で、製造業を中心に指標(QCD指標)として用いられてきました。

品質・費用・納期の3要素は、基本的にはトレードオフの関係にあるため、適切なバランスでQCDを確保することは簡単ではありません。

しかし、。このバランスを上手く保つことで、より顧客満足度の高い製品やサービスが開発できるのです。

そのため、近年では製造業に限らず、ITやサービスなどあらゆる業種・業界でもQCD指標は重要となっています。

以下、本来トレードオフ関係にある3要素について、もう少し詳しく解説します。

Q(Quality:品質)

製品やサービスの「品質」を高めることは、もっとも顧客満足度の向上に直結します。

そのため、3要素の中で最も重視すべきが品質であるのは間違いありません。

とはいえ、品質を高めるためには費用がかさみ、より長い納期が必要となるでしょう。

C(Cost:費用)

製品やサービスを提供する場合、原価や人件費などの「費用(コスト)」を計算することは必須条件です。

しかし、コストを無視して開発を進めれば、プロジェクトが頓挫する危険すらありえます。

また、安易にコストを下げれば製品の品質が下がったり、人手不足で納期が延びてしまいます。

D(Delivery:納期)

新しく開発した製品やサービスが、開発や製造に着手してから顧客の手元に届くまでの期間を評価するのが「納期」という考え方です。

開発に人手を大量投入すれば納期は短縮されますが、その分コストは余計にかかります。また、無理に納期を短縮しようとすれば、品質の低下を招いてしまうでしょう。

QCD指標

QCDの3要素を定量的に数値化して評価する指標を「QCD指標」と呼びます。あらゆる業種・業界のプロジェクトはこのQCD指標を基に進めることで、効率的な開発が進められるでしょう。

目標のQCD指標があらかじめ定められていれば、誰もが同じようにそのプロジェクトが正常に進んでいるかを判断することができますし、定めたゴールに向かって進んでいるか客観視できるのです。

3要素の指標例には次のようなものがあります。

  • Q:検品時の不良品発生率、クレーム発生率、リリース後の高評価率、など
  • C:原材料比率、人的工数、設備投資額、など
  • D:業務開始から終了までの時間、顧客視点での受注から到着までの時間、納期内納入の達成率、など

QCDの優先順位

Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の3要素は、本来「こちらを立てればあちらが立たず」のトレードオフ関係にあることは既に述べた通りです。

どれか1つを優先すれば、他の2つが大きく悪化してしまう可能性もあるため、出来る限り最適なバランスでの開発が望まれます。

しかし、DX推進において最も重要な視点が「ユーザーファースト」であることを踏まえると、やはり最も優先するべきは「Q:品質」でしょう。

どれだけ安く、どれだけ早く提供したとしても、顧客が満足する品質の製品やサービスでなければ、そもそもビジネスとして成立しません。

製品やサービスの品質を保証することは、企業のブランド価値を確立する上でも重要な考え方です。

ファストフードなどでよくあるキャッチコピー「安い・早い・うまい」などは、そのバランスが適正であるが故に顧客に受け入れられるのです。

QCDの派生型

Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の3要素が基本となるQCDの考え方ですが、近年は顧客のニーズや行動指針も複雑・多様化してきたこともあり、3要素に他の要素を加えた派生型も登場しています。

ここでは、その代表例をご紹介します。

QCDS

QCDに、「S(Service:サービス・顧客対応)」を加えた指標です。

サービスであればその充実度、製品であれば顧客へのサポートなどの意味合いも含んでいます。

QCDのバランスが取れていても、顧客対応が不十分であれば顧客の満足度は上がらないため、ユーザーファーストの視点からも、品質と同様に自社のサービスについて明確な指標をもっていることが重要です。

SQCD

「S(Safety:安全性)」を加えた指標です。

主に工場や建築現場などで用いられ、製造工程における安全性を度合いで示しています。

不良品の発生、原価の増加、納期の遅延、労働災害の発生などを防止することは工場管理の基本であるため、安全性(S)を合わせて見える化することも重要です。

注)ServiceとSafetyはどちらも頭文字がSであるため、Sを付ける位置により区別をしています。ただし、必ずしも確立された区別の方法ではないため、混乱を避けるためにも、プロジェクトごとにしっかりと指標の意味を理解しておくことが求められます。

QCDE

「E(Environment:環境)」を加えた指標です。

主に製造現場などで、環境にかける負荷の度合いを示します。

近年、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする環境問題に留意することは企業ブランディング上も欠かせない施策ですし、よりサステナブルなDX推進を計画するためにも、この指標は重要です。

QCDSE

「S(Service:サービス・顧客対応)」と「E(Environment:環境)」の2つを加えた指標です。

より環境に配慮し、より顧客へのサポートが充実している製品やサービスであることが、これからのビジネスとしては重要となるでしょう。

QCDF

「F(Flexibility:柔軟性)」を加えた指標です。

多様化する顧客の要望やライフスタイルに合わせ、即座にプロジェクトの舵(かじ)を切ることは、現代ビジネスでは欠かせません。

そのためにはプロジェクトやビジネスの柔軟性は必須条件で、顧客からの変更要求にどれだけ素早く対応できるかなど、その改善率などを指標に組み込んでいきます。

QCDによる業務改善の流れ

それでは、実際にQCD指標に基づいて業務を改善していくには、どのような手順を踏めばよいのでしょう。

ここでは、QCDによる業務改善の流れを簡単にご紹介し、合わせてそれぞれのポイントについて解説します。

なお、本章では「業務改善の流れ」としていますが、新しいプロダクトを開発する場合でも基本的な流れは同様です。

現状を把握する

まずは、改善すべき業務の現状を把握します。

従業員や顧客からの意見を吸い上げ、課題をあぶり出していきます。

この時ポイントとなるのは、簡単な選択式アンケートなどではなく、できればモニター調査など丁寧なヒアリングを行うことです。

こうした調査を行うことで、定量的な数値であるQCD指標を参考にしつつ、数値に現れない不備や不満を徹底的に洗い出すことできるため、この先の方向性をより明確に設定できます。

独自のQCD評価表などを用意して、そうしてあぶり出した課題を数値で可視化することで、より効率的な改善に繋げられるでしょう。

ゴールを設定する

QCD指標を用いた業務改善に限らず、DX推進はゴールありきです。

あぶり出した課題を評価表によって可視化し、改善すべき課題を決定しそれを目標となるゴールとして設定します。

ゴールの設定の際は具体的に「どれだけの数値改善」を、「どれだけの期間」で達成するかを明確にすることで、誰が担当しても客観的な進捗判断ができるようになります。

施策を検討する

次は、設定したゴールへ到達するための具体的な施策を検討します。

そのアプローチはプロジェクトによって様々ですが、重要なのは「QCDのバランスを最大限に取る」という考え方です。

本来トレードオフにあるQCDの3要素をどれだけ高い水準で確保できるかどうかが、その改善策や開発が従業員や顧客の満足度を上げ、結果的に企業価値を高めるかという基準となります。

数値で表しにくい評価軸も、できるだけ付随する評価軸を数値化(効果の見える化)することが、結果的に成果をもたらしてくれるでしょう。

例えば、品質を数値化して「スペック」として管理するだけでは、企業側の「届けたい品質」を担保しているだけに過ぎません。

これだけでは、実際にそのスペックで顧客がどれだけ満足しているかなどの顧客側が「品質に対して感じていること」を知ることはできないのです。

しかし、先に挙げた検品時の不良品発生率、クレーム発生率、リリース後の高評価率などを数値化することで、商品やサービスの「企業の届けたい品質」と「顧客の求める品質」の相違を客観的に判断することができます。

施策を実施・検証する

ゴールに到達するために定めた施策を、実際にリリースやテストするフェーズです。

実施した施策が期待通りに進んでいるかを定期的に検証しつつ、どのような変化をしているかを数値として計測します。

施策が期待通りの結果を出していない場合は、その原因を検証し次の改善策を考えなければなりません。

1つひとつの施策の検証は1週間~1ヶ月といった短いスパン、プロジェクト単位の検証は半年~年単位の中長期スパンというように、検証の頻度を最適化することを意識するとより大規模なビジネスプランにも転用できるようになるでしょう。

いずれにしても、小さなトライ&エラーを繰り返し、少しずつ改善・開発を続ける(アジャイルなPDCAを回す)ことが、QCDを利用する考え方の基本です。

検証結果に基づきその都度軌道修正を行うことが、大局的なリスクを削減し、より効果的なプロジェクト推進へと繋がっていくのです。

まとめ

QCDという概念の基礎知識と、QCD指標による業務改善の流れを解説しました。

QCDは、DX推進に取り組むためにも欠かせない概念です。

より効率的に業務効率改善や新規プロダクトの開発を行うためには、QCD指標によって今ある課題や要望を数値として可視化することが最も重要です。

貴社が新しいビジネスチャンスを掴むためにも、QCD指標によって可視化したゴールに向かって、ぜひともムダのないDX推進に取り組んでください。

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情報提供元: DXportal
記事名:「 QCDの向上がDX推進のカギ!QCD指標とは?業務改善のポイント