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総務省の資料によれば、2019年時点における世界大手インターネット事業者の時価総額トップ5は、先にあげた5大ビックテックのGAFAM(Google*、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)です。
*上記の表中の「Alphabet」は元々はGoogleが設立した会社であるが、現在は組織上GoogleはAlphabetの子会社となっている。 |
しかし、2022年7~9月期の決算発表後、Appleを除くGAFAM4社の株価は急落し、そのシェアにも大きな陰りが見え始めています。
こうしたGAFAM神話の陰りを裏付けるように、米国のビックテックでは近年大幅なレイオフが進んでいるという報告がされています。
欧米のビジネスシーンで良く用いられる「レイオフ(一時解雇)」は、その名の通り企業の業績が悪化した時に従業員を一時的に解雇することを指しています。
そのため、原則としては業績が回復した際に再雇用するオプションがついているため、日本のビジネスでよく使われる「リストラ」とは異なりますが、その目的は人件費の削減であることに違いはありません。
では、ビックテックが大幅なレイオフを進めて人件費を削減しているのは、経営状況の悪化に原因があるのでしょうか。
The Vergeの記事によれば、大幅なレイオフの理由はビックテックの経営が傾いているからというわけではないそうです。
経営者たちは、利益よりもむしろ株価を気にしてレイオフを行っているといいます。
各企業はレイオフに関してコメントを発表していますが、その中では「コロナ禍の巣ごもり需要が終了したことにより、今後IT業界に流れるお金が少なくなることを見越して人件費を削減する」という理由を説明しています。
実際に、ビックテック4社が発表したコメントを見てみましょう。
こうしたコメントからも見て取れる通り、どの企業も現実問題として「減収・減益」が起こっているわけではなく、「今後に対する備え」としてレイオフを行ったということであり、決して経営危機にあるわけではないのです。
経営状態が傾いたわけでもないのに各企業が大幅なレイオフを進めているのは、成長期から停滞期に入った企業が、市場の投資家に対して成長期のような大きな収益拡大が見せられないことを補うための、一種のパフォーマンスであり、各企業が「右へならえ」のように揃ってレイオフしたのだという指摘もあります。
しかし、当然のことながらレイオフをすれば必ず上がるというほど単純な世の中ではありません。
逆に、レイオフはコスト削減には繋がらず、むしろ収益性を損なうという指摘もあります。
もし、収益性が損なわれるようなことがあれば、各企業のレイオフという「パフォーマンス」はむしろ企業にとって裏目になる可能性すらあるのです。
ビックテックのパフォーマンスが効を奏して、今後もGAFAMの時代が続くのか、もしくはこの判断が裏目に出て収益性を損ね、GAFAM没落のターニングポイントになってしまうのかは現時点ではどちらとも断定できません。
実際に市場がどのように変化していくかは、今後の動向を見守る必要があるでしょう。
しかし、その中でもただ1つ確かなことがあります。
それは、ビックテックが抱えていた優秀なエンジニアたちの多くが、今まさに野に放たれたということです。
レイオフとは一時解雇という名の通り、リストラなどと違って企業との雇用関係は解消されたものの、再雇用の可能性を残した契約解除の形態です。
とはいえ、レイオフされた側のエンジニアたちが、再び元の企業に戻れる日を夢見ながら、ただ手をこまねいて待っているわけではないのはおわかりでしょう。
特に、そのエンジニアが優秀であればなおさらです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中でもっとも大きな課題が「人材不足」であるのは世界各国共通の悩みですので、優秀なエンジニアがフリーになったとなれば、企業が放っておくはずがありません。
つまり、現在のIT業界の状況を整理すると、GAFAMで働いていた多数の優秀なエンジニアが野に放たれており、ある者は新たに仕える主(企業)を探し、またある者は自ら起業家やフリーランスとして一国一城の主になろうとしている。
そんな時代が今まさに訪れているのです。
このまたとない機会を利用して、GAFAMが手放したプレーヤーたちと連携して、ビックテックの牙城を崩そうと目論んでいるのが新興のスタートアップ企業です。
その存在感は日増しに大きくなっています。
そこで次章では、変わり続けるIT業界の勢力図について考察します。
これまではGAFAMに牛耳られてきたといっても過言ではないIT業界ですが、少しずつIT業界を取りまく勢力図は変わってきています。
それは、GAFAMの衰退を表しているのでしょうか。
確かに、ここ数年間でAlibabaやTencentなどの中国系IT企業が急速に台頭してきたように、GAFAMのシェアを脅かす企業が現れて、業界再編が起きていること自体は間違いありません。
しかし、だからといってGAFAMが最近になって大きく売上を落としているわけではないのです。
上記の表からわかる通り、時期により増減はあるものの、GAFAM各社は売上を落としているどころか、むしろ売り上げを伸ばしています。
それにもかかわらず、なぜGAFAM神話の崩壊といったような話が巷に流れているのでしょうか。
こちらは米国の調査会社Gartnerが発表した、世界のIT業界支出予測ですが、この表をみてもわかる通り、IT関連の市場規模は多くの分野において引き続き成長傾向にあります。
DXportal®でも再三にわたりお伝えしているように、世の中のデジタル化はますます進み、社会のDXは急速に進行しているのです。
この成長の速度は、GAFAMの成長の速度を完全に上回っています。
つまり、IT市場におけるGAFAMの支配体制が崩れつつある理由は、GAFAMの業績が悪化しているからではなく、成長を続けるIT市場の拡大によって急激に需要が膨らみ、他の企業の付け入る隙が生まれたということなのではないでしょうか。
今まではGAFAMだけで回収できていた様々なニーズを、ビックテックだけでは拾い上げることができない規模にまでIT業界が成長した結果、GAFAM以外の企業もシェアを広げるチャンスが巡ってきたのです。
その流れの一端を担うのが、近年注目を集めているIT系スタートアップなのです。
依然としてGAFAMの牙城は強固ですが、近年はNetflixなどが驚くべき成長速度でその後を追っていますし、中国系をはじめ様々な国の企業が、GAFAMに追いつけ追い越せとばかりに勢力を拡大中です。
この勢いには目を見張るものはありますが、それにも増して注目すべきなのはスタートアップの存在ではないでしょうか。
先日DXportar®でもご紹介した、あの「ChatGPT」を生み出したOpenAI(米)も、イーロン・マスク(現在は退任)らによってサンフランシスコで設立されたスタートアップ企業です。
ChatGPTがGoogleに火を点け、Google版ChatGPTともいえる「Bard」のリリースを早めたのは別の記事ですでにお伝えしたとおりです。
つまり、スタートアップがビックテックのビジネスに影響を及ぼす時代に突入しているのです。
その他にも、Zoom(ビデオ会議アプリ)、Stripe(オンライン決済サービス)、Robinhood(株式取引アプリ)なども、急速にその勢力を拡大しています。
もちろん、その1つひとつの勢力はまだまだGAFAMとは比べられるものではありません。
しかし、IT市場の中で大きな力を付けつつあるのは事実であり、その勢力の存在はGAFAMであっても決して侮ることはできないでしょう。
つまり、IT業界の勢力図は、GAFAMの独占状態から解き放たれ、今や大小の企業がうごめき、しのぎを削りあう時代が到来したのです。
GAFAM神話が揺らぎ始めた中、これからのIT業界はどうなっていくのでしょうか。
業界自体の市場規模は今後もますます広がり続けることは間違いありません。
その一方で、ビックテックの後を追う大手企業や新興勢力のスタートアップがまさに群雄割拠の状態であり、今後はますますパイの削り合いが激化する、厳しい競争原理が働くでしょう。
厳しい状況ではありますが、この状況はスタートアップ側にとってはむしろ歓迎すべきことです。
「優秀なエンジニアが野に放たれた」という状況と合わせて考えてみても、小国であるスタートアップとしては、動乱の時代である現在は一攫千金を狙えるチャンスともいえるでしょう。
今はまだ小さな一国一城の主(スタートアップ経営者)でもあっても、優秀な軍師(エンジニア)を得ることができれば、この群雄割拠の戦国時代において、一旗揚げられる可能性はあるはずです。
もちろん、GAFAMとてその状況を手をこまねいてみているはずもありません。
一見するとGAFAMの勢いが衰えたかのような雰囲気はありますが、業績を見ると決してそんなことはなく、市場規模が広がったことにより、競争が激化したということはしっかりと押さえておくべきでしょう。
IT企業は絶滅ではなく、進化する。
これは、これからDX推進をやり遂げ、大きく成長しようと考えている貴社にとっても大いに力となる朗報なのではないでしょうか。
The post GAFAM神話は終わったのか?IT業界は群雄割拠の戦国時代へ突入する first appeared on DXportal.