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現代社会は、高齢化が進む一方で、孤独やコミュニティの希薄化が深刻な問題となっています。これは日本に限らず、いわゆる先進諸国に共通する問題です。インターネットの発展に伴って、一人でも楽しめるコンテンツも充実してきているものの、こうした娯楽を消費するだけでは孤独は解消されません。
心理学者マズローが提唱した「欲求5段階説」によれば、「他者と関わりたい、集団に帰属したい」という「親和欲求」は、「生理的欲求」や「安全欲求」よりも高次の欲求と考えられています。
しかし、高齢者の多くは、身体機能の衰えとともに一人で外出してコミュニティに参加することが難しくなってしまう状況にあります。こうした中で、加齢とともに徐々に他者と関わる機会を失ってしまうケースは、残念ながら日本においても珍しいことではありません。
高齢者が心の拠り所を持ち続けながら充実した生活を送るためには、デジタル技術の活用が鍵です。本章では、現代社会で高齢者が抱える解決すべき課題について解説します。
現在の日本では、多くの高齢者が一人暮らしをしています。そのため、他者との日常的な交流が少なく、孤独を感じることが少なくありません。
孤独はメンタルヘルスや身体的健康に悪影響を及ぼすことが知られており、うつ病や心臓病のリスクを高める可能性があるとも言われています。
また、都市化や核家族化の進行により、伝統的な地域コミュニティが衰退しています。これにより、近隣住民との交流やサポートが減少しているのです。
地域コミュニティの希薄化は、高齢者の社会的孤立を加速させ、生活の質を低下させる要因となりかねません。
地域コミュニティが希薄化した背景には、デジタル社会の到来により、人と人の繋がりの一部がデジタルを使ったコミュニケーションに移行したことが挙げられます。
インターネットを使えば、距離的な制約を越えて、気軽に人とコミュニケーションがとれることはこれまでにない豊かさをもたらす一方で、デジタル技術に不慣れな高齢者をはじめ、デジタルを自由に使いこなせない人との間のデジタルデバイド(情報格差)を生み出しました。
これにより、デジタルサービスへのアクセスが困難である高齢者は情報やサービスを受ける機会が制限され、取り残されてしまうのです。
デジタルデバイドは、高齢者の孤立感をさらに深める要因であるため、高齢者のデジタルリテラシーを向上させるための取り組みが重要です。
最も根本的かつ実現可能な解決策は、高齢者自身が基本的なデジタルスキルを身につけることでしょう。例えば、地域のデジタルサポートセンターやオンライン講座を通じて、高齢者向けのデジタル教育プログラムを提供することなどにより、高齢者がデジタル技術の利便性を最大限に活用することができるようになるでしょう。
自分が帰属している感覚を持てるコミュニティがないことによる高齢者の孤独や生きがいの喪失は、現代社会における重要な課題です。その原因を作っている一因はデジタル化ですが、それに解決策を提供できるのもDXなのです。
本章では、現在実施されているコミュニティのデジタル化について、実例を取り上げながら高齢者の孤独を解消し生きがいを創出するための具体的な施策を考えます。
高齢者が興味を持つ趣味や関心事に基づき、オンラインコミュニティを構築します。これにより、共通の話題でつながることで、新しい友人関係を築くことができるでしょう。
例えば、趣味のクラブや地域の交流会をオンラインで開催し、デジタルプラットフォームを通じて簡単に参加できるようにするのです。
ここではすでに取り組みが始まっている具体的なデジタルプラットフォームの例を3つ紹介します。
地域の特産品をテーマにした交流会や、健康に関する情報共有の場を設けるなど、地域の高齢者が定期的に参加できるオンライン交流会を開催すれば、同じ地域に暮らす高齢者同士の交流が深まります。
例えば、富山県朝日町では、地域の高齢者向けに定期的にオンライン交流会を開催して、地域のコミュニティの絆を強化しています。この取り組みは、Zoomなどのビデオ通話アプリを活用して行われており、高齢者が自宅から簡単に参加できるようになっています。
参加者は、近況報告や趣味の話題を共有することで孤独感を軽減し、新たなつながりを築いており、高齢者のメンタルヘルスの改善が報告されています。
地域のニュースやイベント情報をデジタル掲示板で共有します。これにより、高齢者が最新の地域情報にアクセスしやすくなり、地域イベントへの参加が促進されます。生活に密接にかかわる地域の情報がわかりやすくまとまっていれば、デジタルツールに不慣れな高齢者であっても、簡単な操作で地域の情報にアクセスすることが可能になるでしょう。
もちろん、こうしたデジタル掲示場の整備は高齢者の心の拠り所を創出するために生まれたわけではありません。ただし、地域によってはデジタル掲示板を用いて、地域住民の声をリアルタイムで集めることも可能です。これにより、高齢者のコミュニティスペース創出にも期待を寄せることができるのです。
こうした取り組み例としては、例えばShopifyが運営する公式のデジタルプラットフォーム「Shopifyコミュニティ」では、利用者が交流できる場を提供しています。
Shopifyコミュニティのプラットフォームでは、地域のニュースやイベント情報を共有することで、参加者が最新の情報を簡単に入手できるため、地域の活動への参加意欲が高まり、コミュニティ全体の活性化に繋がっているのです。
誰しも経験があるように、人は他者と繋がるだけでなく、「他者や社会に対して貢献できている」という実感を求めています。先ほど紹介したマズローの5大欲求においては、「親和欲求」よりもさらに高次な「他者から価値ある存在と認められたい」という欲求、つまり「承認欲求」と定義されています。この欲求は高齢者であっても当然のように持っているものです。
一般的には「サポートされる側」と思われがちな高齢者自身が、ボランティアとして活躍できる場を作ることは、高齢者の大きな心の拠り所となるはずです。
とはいえ、加齢とともに体の自由が利きづらくなる高齢者にとっては、ボランティアに出かけることが難しい場合も少なくありません。そのため、高齢者のボランティア活動を後押しするには、オンラインプラットフォームを整えることが大きな施策となるでしょう。
すでに、ヨーロッパではいくつかのプロジェクトが始まっており、高齢者向けにデジタルスキルの向上を目的としたオンラインプラットフォームが提供されています。ここで身につけたスキルを活かして、高齢者が積極的に社会貢献活動に参加できる環境を整え、高齢者の「他者から価値ある存在と認められたい」という気持ちに応えているのです。
もちろん、高齢者のために無理やり役割を与えているわけではなく、デジタルスキルを有する高齢者のボランティア活動は実際に社会に裨益するため、こうしたプロジェクトを通じて、高齢者の「承認欲求」を満たすことは社会にとっても有益な結果をもたらすことが期待できます。
すでに少し触れた通り、こうしたデジタル技術の活用による高齢者の居場所づくりの基礎となるのは、高齢者自身が一定のデジタルスキルを身につけることにあります。
そのためには、高齢者向けにデジタルスキルの教育プログラムを提供することが欠かせません。デジタルデバイドを緩和して、高齢者にもデジタル社会へのアクセスを可能にすることが重要です。これには、スマートフォンやタブレットの基本的な使い方から、オンラインコミュニケーションツールの利用方法までを含みます。
デジタルデバイドの解消のためには、地域のボランティアや若者との交流を設けるなど、地域的なサポート体制を整える施策が効果的でしょう。
こうしたデジタルにアクセスするための基礎を構築しつつ、高齢者が同じ趣味や興味を持つ仲間とつながることを支援するプラットフォームやSNSを提供するなど、高齢者がデジタル技術に親しむ環境を整えていくにより、誰もが孤独を感じることなく、年を重ねても社会的なつながりを維持できる社会を実現出来るのです。
高齢者の心の拠り所を守るためには、デジタル技術の活用は大きな鍵となります。
現代社会における孤独やコミュニティの希薄化といった課題に対して、オンライン交流会やデジタル掲示板、あるいはバーチャル・ボランティア活動を通じて社会との関わりを持つことは、高齢者の生きがいを生み出すことに繋がっていくでしょう。
そのためにはデジタルデバイドの解消が必要であるため、高齢者がデジタル技術を使いこなせるよう教育プログラムやサポート体制の整備が求められます。今後ますます「超」高齢化社会を迎える日本においても、地域が高齢者のニーズを把握し、デジタル技術を積極的に導入・活用することができれば、豊かで充実した生活を支える環境を作ることができるはずです。
高齢者本人の努力も必要ですが、自治体を中心に、企業や民間ボランティアなどが一体になり、進化を続けるデジタル技術を用いて、高齢者が安心して暮らせる社会の実現を目指しましょう。
The post 高齢者の心の拠り所を守るコミュニティとデジタル技術の役割 first appeared on DXportal.