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DX時代になぜチャットボットが注目を集めているのか。
それを解説する前に、まずはチャットボットについてあまりよく知らないという読者のために、チャットボットとはどういうツールなのか、そしてビジネスにどのような成果をもたらすかについて、詳細に解説しておきます。
チャットボットとは、「チャット(Chat=1対1あるいは複数人でリアルタイムでやり取りするシステムの総称)」と「ボット(Bot=ロボット)」を組み合わせた造語です。
ユーザーからの問いかけなどに対して自動で回答して会話を行うシステムで、端的に言えば「自動で会話(チャット)するプログラム(ボット)」ということができます。
問い合わせ対応やマーケティング支援などでも利用されており、顧客からの問い合わせ対応をロボットが自動で行うことで、業務効率の向上が期待できるのです。
また、企業と従業員間のやり取りの一部を自動化するなど、顧客対応に留まらない幅広い用途で活用されています。
チャットボットとひとことで言っても、いくつかの種類に分けることができます。
ここでは、問いかけ方式と回答方式の違いによって分類して、解説します。
ユーザーの問いかけ方法によって、テキスト入力型と音声入力の2種類に大きく分けることができます。
テキスト入力型のチャットボットは、企業ホームページなどで見かけるようになりました。利用したことがある方も多いのではないでしょうか。
典型的な例は、ウェブサイトの画面上に小窓で問い合わせ欄を表示し、そこに入力されたユーザーからの問い合わせに回答する方法です。
それに対して、音声入力型チャットボットの代表格は、2011年にApple社から発売された「Siri」です。
Microsoft社やGoogle社などが発表するAIスピーカーなども、音声入力型チャットボットの仕組みを応用したツールと言えるでしょう。
チャットボットの質問に対する、回答方法の仕組みも大きく2つに分けられます。
1つ目は、シナリオ型またはルールベース型と呼ばれる方式です。
この方式は、チャットボットが提示する選択肢の中から、ユーザーが問い合わせしたい内容を選んでいくことによって、最終的にチャットボットが最適な回答を選んでユーザーに提示します。
シナリオ型は、あらかじめ質問と回答の流れを想定して、適切な回答が提示できるようにシナリオを作っておくため、求める質問に関して大きく外さない答えが返せるというメリットがあります。
その反面、あまり複雑な質問への回答はできません。
もう1つの方法は、自動学習機能型です。人工知能型と呼ばれることもあるこの方法の場合、AI(人工知能)が質問と回答を学習し、統計的に正解に最も近い回答を選び出すシステムです。
この方法を導入すれば、より複雑かつ広範囲な問い合わせに対応することが可能になりますが、その一方で正答率を上げるためには膨大なデータのインプットが必要となる点はデメリットと言えるでしょう。
チャットボットを導入する場合は、それぞれの方法のメリットとデメリットを総合的に評価した上で、自社に最適な方法を選択する必要があるでしょう。
それでは、チャットボットを導入すると企業コミュニケーションに対して、どのような成果をもたらすのでしょう。
その答えは利用方法によって多岐にわたりますが、ここでは、主な4つの成果に絞って解説します。
チャットボットの導入は、ユーザーにとっても、24時間体制で問い合わせ対応をしてもらえるというメリットがあります。
人が問い合わせ対応をする場合は、平日の日中など、限られた時間にしか問い合わせ対応ができないという制約がありました。
休日や夜間も問い合わせ対応ができるように人員を確保している企業でも、問い合わせ用の電話回線が込み合うと、顧客を長時間待たせることは避けられません。
いくら顧客の利便性を向上しようとしても、人が対応する従来の形式には、人的リソースによる限界があり、課題となってきました。
機械による自動対応であるチャットボットを導入すれば、企業の営業時間や休日に関わらず、いつでもユーザーからの問い合わせ対応が可能になります。
必要なタイミングでいつでもサポートを受けられる環境を整えられれば、ユーザーの利便性は格段に向上するでしょう。
また、そうした顧客利便性の向上は、問い合わせに対応できなかったことによる機会損失を防ぐこともできますので、企業にとっても大きなメリットとなります。
これまでの営業・マーケティング部門において、カスタマーサポートを始めとする顧客対応は、最も多くの人的リソースを割かなければならなかった業務といっても過言ではありません。
商品やサービスを提供する以上、ユーザーからの問い合わせに回答することは必要不可欠です。
疑問や不満を持ったユーザーからの問い合わせに迅速に対応することで、顧客満足度を下げることなく消費者・利用者を拡大することが可能だったのです。
その反面、問い合わせ用回線の拡充や対応時間の拡大など、顧客利便性の向上を図ろうとするほど、人的コストが膨れ上がることは避けられませんでした。
しかし、チャットボットで顧客からの問い合わせ対応の大部分を自動化できれば、人的コストの大幅な削減に繋がります。
チャットボットはシナリオ型、自動学習機能型のどちらを導入したとしても、ある程度会話形式でユーザーを求める回答を提供することが可能です。
ユーザーのニーズに応じた提案を行い、CVポイント(質問に対する答えやマネタイズポイントなどチャットボット提供側が誘導したいゴール)までの流れを的確に案内すれば、マーケティング効果は格段に向上するでしょう。
また、EFO*の施策の1つとして導入すれば、ユーザーが「何を質問すれば良いか分からない」という問題自体を回避する事もでき、より積極的な営業業務の生産性向上を目指すこともできます。
*EFO:エントリーフォーム最適化(Entry Form Optimization)の略。会員登録や資料請求フォームなどへのアクセス率や入力完遂率を高めるために様々な施策を行い、より使いやすいフォームへと最適化を施すこと。
チャットボットを導入すると、問い合わせ対応や見込み客へのアプローチといった、サポートやマーケティング業務の効率化を実現できます。
これまでは人が行っていた業務の一部を自動化することで、リソースを他の業務に振り替え、より重要性と生産性の高い業務、あるいは新規事業の開拓などに人員を割くことができるようになります。
つまり、新たな企業価値の創出など、「人にしかできない業務」に社内の人的リソースを集中投下することが可能になるのです。
加えて、チャットボットはネットワーク環境さえあれば利用できるため、社内のテレワーク体制整備にも役立ちます。
こういった観点からも、チャットボットの導入による業務体制や業務モデルそのものの変革が期待できるのです。
チャットボットとは何か、さらにどのような成果が期待できるツールなのかについてひと通り整理したところで、「なぜ今、特に注目を集めているのか」という問いへの答えとして、3つの要因をご紹介します。
新しい時代の潮流に乗ったチャットボットの活用方法を検討するためにも、これらのポイントはぜひとも押さえておいてください。
AI(Artificial Intelligence=人工知能)とは、端的に言えば、「人に代わって機械が自動的に判断・行動を行うもの」を指します。その概念自体は、1960年代からすでに存在していました。
しかし、その恩恵をビジネスで活用可能なレベルにまで落とし込むハードルは高く、これまでビジネスにおけるAIの活用は、一部のエキスパートシステムに限定されていました。
ところが、2006年にディープラーニング(深層学習:人の力なしに機械が自動的にデータから特徴を抽出するディープニュートラルネットワークを用いた学習方法)が生まれたことでこれまでの流れが一気に変化します。
DX推進における要となる「ビッグデータ」を活用し、AIが自ら学習する「機械学習」が実用化されたことで、近年になってAIの精度は急速に向上しました。
AIの急速な発展に加えて、導入にかかるコスト面でのハードルも下がってきた結果、ビジネスAIとしての活用が促進されました。
チャットボットが注目を集めている背景には、こうしたビジネスレベルで活用できるAIの進歩があるのです。
新型コロナウイルスのまん延は、企業活動だけでなく人々の生活そのものに大きな変化をもたらしました。
感染拡大を防ぐために極端に人との関わりを避けたり、商品を購入する場合でも、リアル店舗よりもECサイトを選ぶようになったりと、消費者の意識と行動にも大きな変化を起こしています。
コロナ禍が収束しても、一度変化した顧客行動は完全にコロナ前に戻るとは考えにくいでしょう。
顧客行動が変化すれば、それを受け止める企業側も、これまでのビジネスモデルを変えて顧客ニーズに対応せざるを得ません。
コロナ禍以降、多くの企業が、従来は直接対面で行ってきた様々な顧客対応を、インターネットや電話を活用して非対面型の顧客対応に切り替える必要に迫られたのです。
しかし、いくら非対面型の顧客サポートのニーズが高まっているとわかっていても、人的コストの観点から即座に対応することは容易ではありません。
特に、中小の企業や店舗の場合、新たに非対面型の顧客サポート専用の人員を確保することは難しいでしょう。
チャットボットは、コロナ禍による顧客行動の変化とそれに伴う新たな顧客ニーズが、企業に突きつけた課題を解決する手法の1つとして注目を集めているのです。
政府主導で取り組んだ影響もあり、日本企業のテレワーク導入率は大きく増加しました。それに伴い、従業員の働き方も大きく変化しています。
テレワーク導入は多様な働き方を実現するなどメリットもある反面、社内の日常的なコミュニケーションが取りにくくなるなどいくつかのデメリットもあります。
例えば、業務に関する細かな質問や悩みは、これまでは近くにいる上司や担当者に聞けばすぐに解決できました。
一方、相手が離れた場所にいるリモートワークの場合は、相手の状況がわかりにくいため気軽に質問することが難しい環境です。
しかも、多様な働き方を推奨する企業では、全員が決められた同じ時間に勤務しているとは限りません。そのため、質問したいと思った時にすぐに答えが得られるとは限らないのです。
このようなテレワーク導入に伴って生じる社内コミュニケーションの課題に対しても、チャットボットは有効です。
例えば、社内やプロジェクトの決まり事などをあらかじめプログラミングしておくことで、簡単な問い合わせであればチャットボットで解決できるようになります。
ここまで解説したように、チャットボットの導入は多くの成果をもたらすことが期待されます。
しかし、現状でDX推進施策の1つとしてチャットボットを導入しているのは、ほとんど大手企業だけなのではないでしょうか。
その理由は、小規模事業者がチャットボットを導入するには、解決しなければならない課題があるからです。そこで、導入における2つの最大の課題をご紹介します。
チャットボットを実際のビジネスに導入するにあたっては、それ相応のITに関する知識と経験が必要です。
あらかじめ設問を決めておけるシナリオ型であっても、適切な回答を提示できる仕組みを整えるためには、ある程度のITリテラシーは必須となります。
機械学習機能型であれば、プログラムを組むための知識が求められますし、通常の業務と並行して担当できるほど簡単な業務ではありません。
チャットボットに限らず、DXを推進する際に多くの小規模事業者が頭を悩ませるのは、やはりDX人材の欠如です。
特に、様々なITテクノロジーに精通し、マーケティングの視点も兼ね備えたDXの専門家となると国内の人材自体が限られており、大手企業でも常に探しているほど希少な人材です。
DX人材を確保することができない小規模事業者では、なかなかチャットボットの導入まで手が回らないというのが本音でしょう。
社内でDX推進を内製化できない多くの小規模事業者は、DX施策をベンダーやコンサルなど外部の企業に外注する必要性に迫られます。
しかし、外部に発注するためにはそれ相応の費用がかかりますので、限られたDX費用の中で、チャットボットの導入まで予算が回らない企業もあるでしょう。
企業の業務内容や形態によっては、チャットボット導入を優先的に行うべき場合もありますが、そういった場合であっても多くの小規模事業者は予算確保に苦労しているというのが現実です。
前述の通り、チャットボット導入は様々な成果が期待できるDX施策ですが、チャットボットに求める顧客対応の内容や実現したい成果によって、膨大なコストが必要となる場合もあります。
そのため、費用対効果を正確に予測した上で検討を進めることが求められます。
多くの企業がDX推進に向けた取り組みを始めている現代。今回は、その中でも特に注目を集めているチャットボットについて解説してまいりました。
改めて整理すると、チャットボットとは、簡単に言えば顧客対応などを自動化するツールの総称です。
その形式はいくつかの種類がありますが、どのツールを選んだとしても、業務の効率化や顧客利便性の向上、更にはより積極的なユーザーコミュニケーションを生み出すことが成果として期待できます。
更に、チャットボットの導入はそこから新たな企業価値を生み出すという、真のDX推進の実現にも繋がっていく可能性を秘めています。
後編では、各業界別のチャットボット活用シーンなどもご紹介しますので、合わせてご参考としていただき、自社への導入を検討する際の材料としてください。
>>後編へ続く
The post DX時代の今、注目を集めるチャットボット【前編/注目の理由と導入の課題】 first appeared on DXportal.