- 週間ランキング
厚生労働省が実施した「令和元年度能力開発基本調査」の結果が示す通り、人材育成を行う上で必要な指導者、資金、時間を備える余裕がなく、十分な指導を行うための環境が不足しているという問題が存在していました。
特に中小企業においては、こうしたリソース不足の問題が顕著に現れています。
また、従来の人材育成のアプローチは、主に人事部門や上司などの経験に依存していました。
その結果、属人的になりやすく、また指導担当者との相性などによっても育成結果が大きく左右されていたのです。
育成の対象となる社員の評価は、年次の業績評価や上司からのフィードバックなどに基づいて行われており、特定の評価者の主観が介入しやすい方法になっていました。
同僚や部下からの360度評価(複数人の評価者で従業員を評価する手法)の導入など、可能な限り、公平・公正な評価を実施しようとする取り組みも進められていますが、この方法も客観性を確実に担保できる仕組みとは言えないでしょう。
さらに、人材育成において提供される教育プログラムは一律のカリキュラムが主流でした。
そのため、従業員1人ひとりの特性や希望に合わせた育成を行うことは難しい状況にありました。
個別の特性や希望などに考慮できない画一的な人材育成プログラムの性質上、このアプローチが合わなかった従業員の育成は失敗に終わることが多く、離職率の上昇にも影響を及ぼしていたのです。
コストをかけて採用した従業員が、育成プログラムの失敗で離職するという事態は、企業にとって大きな課題です。
しかし、近年のAI技術の急速な発展によって生まれた技術は、カスタマイズされた教育プログラムの提供をはじめとする、新しいアプローチで従来の問題を解決しようとしています。
近年、企業の人材育成アプローチは大きな転換点を迎えています。この変革の主な要因としては、AIを活用したタレントマネジメントシステムの導入が挙げられます。
タレントマネジメントシステムとは、企業における人材の採用、選抜、適材適所な配置、リーダーの育成、評価、報酬の決定、後継者養成などの人材マネジメントのプロセスを総合的に支援するシステムを指します。
タレントマネジメントシステムを有効に活用すれば、社員1人ひとりの細かな情報を解析し、多様な個性を持った人材が最大限のパフォーマンスを発揮できるような人材育成を戦略的に進める事が可能です。
その主な機能は次のようなものです。
人材育成の第一歩は、社員のスキルや経験の現状、そして将来のポテンシャルを正確に理解することから始まります。
AI搭載のタレントマネジメントシステムは、各社員の現時点でのスキルや経験、過去の業績などのデータをもとに、最適な育成プランを自動的に提案してくれます。
このプランに従って育成計画を立て、各社員の特性に合わせた育成が可能となります。
社員の基本情報から異動履歴、研修履歴、資格情報、スキルレベルに至るまでの情報を一元的に管理・分析することにより、特定の人事担当者の主観ではなく、客観的な情報を総合的に判断するこの仕組みは、各社員の強みを活かした人事マネジメント体制の基礎となるでしょう。
具体的には、研修履歴と現状のスキルレベルをもとに、次のスキルアップの方向性を提示したり、これまでの経験や資格情報などをもとにバランスの取れたプロジェクトのメンバーを選定したりと、人材育成だけでなく、人事部門全体の具体的なアクションをサポートしてくれます。
AIの活用は、膨大なデータをもとに客観的な基準を策定し、それに基づく公平な評価を実現します。
また、それをもとにした適切なフィードバックが提供できるようになるという利点があります。
例えば、従来の評価システムでは、営業など結果が具体的な数字で現れやすい部門に比べて、目立ちにくいバックオフィスの仕事が評価されにくいなど、意図的ではなくとも、不公平な状況が生じている場合が少なくありませんでした。
こうした状況が改善され、公平な評価が可能となれば、社員のモチベーションの向上が期待できます。
また、評価指標が明確になることで、それぞれが評価を挙げるために必要なスキルの習得を後押しすることにも繋がるでしょう。
目立たない成果も含めて、それぞれの業績が適切に評価される状況が整えば、企業への信頼度や帰属意識も高まり勤続の安定度も高まるはずです。
こうした好循環は、多くの企業が抱える、「人材を育成しても辞めてしまう」という課題の解決にも繋がると期待されています。
さらに、AIは詳細な分析に基づく評価に加えて、個別具体的なフィードバックを行うことも可能です。
しかも、フィードバックの方法は従業員1人ひとりの特性や強みに合わせてカスタマイズすることができるのです。
フィードバックの方法としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
これら個別のアプローチにより、社員のモチベーションを高めるとともに持続的な成長とキャリアの発展をサポートし、より効果的な人材育成を実現することが期待されます。
AIの分析能力を活用することで、社員の適性や希望を考慮したキャリアパスの提案が実現します。
これにより、社員は自身の将来を明確にイメージし、目指すべき具体的な目標を持ちやすくなります。
大量の人材情報や客観的な評価をAIが高速に分析することで、各事業部や職種ごとの活躍モデルを定義し、各社員の適性や適職を明確に可視化することができるようになるのです。
適性を可視化することで、社員1人ひとりのキャリアパスを明確にし、成長とスキルアップの動機付けが可能になります。
さらに、社員が自分の適性や強みを理解することで、自己啓発やスキルアップへの意欲が向上します。
キャリアパスの情報をもとに人材の最適な配置や異動を行い、それぞれの社員が最も効果的に活躍できる環境を提供することは、真の人材育成に繋がるでしょう。
株式会社ニトリホールディングスは、2032年までという長期的なビジョンの実現に向けて、人材の育成と配置の最適化に注力しています。
その中心として取り入れられているのが、AI技術を駆使した「配転教育」です。
同社では、全社員約6,000名の研修履歴、適性、経験などのデータをAIで一元化し、分析することで、3年に1度という高ペースで配置換えを行っています。
この独自の教育プログラムは、AIのデータ分析能力を活用して、社員が自分のスキルを伸ばすために必要な部署や役職での経験を積むことを促進する仕組みです。
AI技術の導入により、従来の人間中心の直感や経験に頼っていた配置の判断が、より精度高く、迅速に行えるようになりました。
また、このデータベースを活用した配置換えは、経営戦略や目的に基づいて、最も適切な人材を適切な場所に配置することを可能にしています。
同社のこの取り組みは、単に効率化や業務の最適化を超え、社員1人ひとりのキャリアや夢を実現するためのものとして位置づけられており、その結果、組織全体が未来志向になり、持続的な成長を達成することを目指しています。
The post 【AI技術の活用と可能性】人材育成におけるAI×タレントマネジメントシステム first appeared on DXportal.