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近畿地方、関東地方でスーパーマーケットチェーン「ライフ」を展開する株式会社ライフコーポレーションは、店舗の在庫管理と人員確保という2つの点で大きな課題を抱えていました。
特に、時間と労力がかかる商品の発注作業は、深刻化する人手不足も相まって、大きな課題となっていたのです。
膨大な商品を扱うスーパーマーケットでは、特に日配品(毎日店舗に配達される日持ちのしない食品の総称)の発注作業に多くの時間と人手が必要とされます。
同社でも、1店舗・1日あたり平均4時間、グループ全店舗で見ると年間40万時間(参考:ダイアモンドチェーンストア)という膨大な時間がかかっていました。
発注業務は、取り扱う商品が多ければ多いほど複雑化します。そのため、発注業務に慣れるまでにはそれなりの時間がかかり、新しい従業員が1人で発注作業を行えるようになるまでには、約1年もの教育期間が必要でした。
つまり、慢性的な人手不足の中で、せっかく新人を採用しても、その教育のための時間と人手を割かなければならない状況だったのです。
この課題は、商品やニーズの多様化や人手不足の深刻化とともにさらに重要度を増しており、早急な解決が求められていました。
発注作業の効率化を目指して、同社は、過去の販売データからニーズを予測し、適切な量の商品を自動的に発注するAIシステムを外部ベンダーと共に開発しました。
AIによる自動化発注システムを開発・導入したことにより、発注作業の時間はこれまでの半分以下に短縮されたと言います。その結果、業務効率は格段に向上し、同時に人手不足の解消に繋がりました。
さらには、AIの正確な予測に基づく在庫の適正化により、売り切れや余剰在庫の発生を抑制できるようになったことで、売上向上だけではなく、利益の向上も達成しています。
同社は、AI技術を活用することで、在庫管理の効率化と人手不足の解消という課題を解決し、さらには利益の拡大というビジネス全体にも貢献する成果を上げることができたのです。
この事例は、AIがスーパーマーケットをはじめとするリテール業界(小売業界)における「オペレーションの効率化」に大きく貢献できることを示す好例だと考えられます。
店舗からサプライチェーン全体に至るまでの業務の効率化と、顧客満足度の向上を目指す意欲的なAI活用は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
国内外で広く名を知られる回転寿司チェーン「スシロー」を運営する株式会社あきんどスシローの平均原価率は、約50%という業界トップクラスの高さを誇っています。
しかし、当然ながら、原価率が高ければ、売り上げに占める利益は下がってしまいます。
スシローの高原価率は、同社の「高品質で美味しい商品を顧客に常に提供したい」という強い企業理念によるものですが、その一方で、この高品質の商品を低価格で提供する方針を維持しながら利益を上げていくことは容易なことではなく、大きな課題になっていました。
商品クオリティを下げず、利益率を上げるためには、それ以外のコストを削減する以外にほとんど方法がありません。
そこで、同社が採った戦略は、フードロスを徹底的に削減することにより、無駄なコストを減らして利益率を高めるという戦略でした。
AI導入前の同社では、店舗ごとに責任者が、「どの食材がどれだけ売れるか」という予測を立てて、発注をしていました。
つまり、同社は巨大なチェーン店舗であるにもかかわらず、各店舗の仕入れ・売上管理は、中小の個人店と同様にデータに基づくものではなく、「人間の経験や勘」に頼って行われていたのです。
当然ながら、経験や勘による予測は、必ずしも正確ではないため、予測が外れることもあり、結果的にロスが発生していました。
ロスは、売上に貢献しないにもかかわらず、原価率を高めてしまいます。
高品質・低価格を維持しつつ、利益を高めることを目指す同社にとっては、もっとも無駄なコストだと言えるでしょう。
加えて、レーンで流れる商品の廃棄も、店員の目で見て「このネタは乾燥している」と感じた皿を取り除くという方法で行われていました。
これでは、店舗によって原価率や利益率が異なり、安定して利益を上げることができませんし、レーンに流れる寿司の品質にもバラつきが出てしまいます。
「人による主観的であいまいな予測」と商品の量と品質に関する「商品管理」の課題に対処するため、同社は「回転すし総合管理システム」を導入し、ITを活用して販売動向の管理やニーズ予測を行うことで廃棄食材の削減を目指しました。
具体的には、各皿にICタグを取り付け、どのネタがいつレーンから取られたのかをリアルタイムに把握する仕組みを導入したのです。
これにより、ネタの人気などを正確に把握・分析することで、高い精度でニーズ予測を行うことが可能になりました。
人間の感覚に頼ることなく、客の需要を正確に予測ができるようになったことで、食材の無駄を大幅に削減することが可能となりました。
また、完成から一定時間を超えた皿は自動的に廃棄する仕組みを取り入れることで、レーンには常に新鮮な商品だけが流れるようになり、商品の品質を一貫して保つことも可能になったのです。
常に高品質な商品だけが流れている状態を維持することは、顧客満足度の向上にも寄与するため、リピーターの獲得にも繋がります。
AIを活用したニーズ予測の進化は、高品質な商品を低価格で提供する同社のビジネスモデルをさらに強化し、持続可能な経営を支える重要な要素となっています。
また、いつ、どこの店舗に行っても高品質で「おいしい寿司」が食べられるということは、ブランドイメージの向上にも繋がるはずです。
食材ロスを減らせば原価率を下げることはできますが、ロスを減らすために鮮度が落ちた食材を使っていれば商品の品質は低下します。
逆に、少しでも鮮度が落ちた食材は使用しない方針を採れば、品質は保たれる一方で、原価率は膨れ上がってしまいます。
つまり、原価率と品質維持は、ある意味で表裏一体の関係にあるのです。
この相反する問題を、AIによる正確なニーズ予測によって解決に導いた同社の取り組みは、生鮮品を扱う企業にとって大いに参考になるでしょう。
サッカーJ1リーグに加盟するプロチーム「横浜F・マリノス」を運営する横浜マリノス株式会社は、試合チケットの販売において、長年大きな課題を抱えていました。
それは、マッチメイクの人気度や天候などの変動要素により、チケットの売上が大きく左右されてしまい、安定した収益を得ることができないという問題です。
これは、同社に限らず、ほぼ全てのスポーツビジネスにおいて共通する課題でしょう。
従来の方法では、チケットの価格は固定的でした。そのため、試合の人気度や天候などの要素により、チケットの売上が大きく左右されていました。
固定価格制度では、需要と供給のバランスを最適に保つことは非常に難しく、試合ごとに大きな収益差が生じてしまっていては、企業として最も重要な収益の最大化を図ることが非常に困難となるのは当然だったのです。
同社では、こうした課題を解決するために、AIを活用した「ダイナミックプライシング」というシステムを導入しました。
ダイナミックプライシングとは、対戦相手や前売り券の販売状況、天候などのデータをもとに、AIが1日ごとにチケット価格を自動的に変動させるシステムです。
このシステムの導入により、同社はチケットの価格設定をより柔軟に行うことができ、試合の人気度や天候などの変動要素に対応した価格設定が可能となりました。
同じ価格であれば、天候に恵まれた日やビックマッチに観客が集中することは避けられませんが、雨の日やあまり人気のない対戦相手との試合であっても、いつもよりも割安で観ることができるのであれば、その機会を狙って訪れるファンも出てきます。
つまり、チケット単価と販売枚数をAIが柔軟に変化させることにより、収益が最大化する「落とし所」をその都度設定してくれるようになったのです。
ダイナミックプライシングの導入以来、チケットの売上が安定し、収益の最大化が期待できるようになりました。
顧客としても、日程や対戦相手だけでなく、価格も含めてチケットを選ぶことができるようになったことで、ニーズの拡大も含めて、顧客満足度の向上も実現したのです。
同社のシステムは、席の種類という要素だけでなく、対戦相手、日程、天候など複数の要素によって変化する顧客のニーズに応じてチケット価格を調整することで、顧客満足度の向上と売上最大化の両方を実現しました。
この事例は、AIの予測能力を活用することで、ビジネスの成果を最大化する可能性を示しています。
AIを活用し、需要と供給のバランスを最適に保つことで、収益の最大化を実現し、顧客の満足度向上にも寄与するという好例と言って良いでしょう。
AI技術の進化は、ビジネスの様々な領域でその効果を発揮しています。
特に、顧客ニーズの予測精度向上は、企業の売上最適化や業務効率化に大きく貢献しています。
本記事では3つのDX事例を通じて、AIによるニーズ予測効果がいかに企業が抱える課題を解決し、ビジネスの成長を支えているのかを詳しく解説しました。
AIの進化は止まらず、これからも新たなビジネスチャンスや課題解決の手段を提供し続けるでしょう。
とはいえ、ビジネスにAIを導入し、長年の課題を一気に解決するような革新的施策は一朝一夕には行えません。
まずは、小さな一歩から始めることが大切であり、その先に大きな成果を生む可能性があるのです。
中小企業がAIを活用するためには、様々な要素を考えなければなりません。
こうした要素を心掛けることで、AIを活用したDX推進はより強固なものとなり、企業の地盤を大きく支える成果となって花開くのです。
まずは、自社のビジネスにおける課題を明確にし、それを解決するためのAIの活用方法を探ることから始めてみてください。
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