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急速にテクノロジーが進化し、新しいビジネスが次々と生まれている中、そこにはこれまでなかった新たな課題が同時に生じています。
だからと言ってこのテクノロジーを利用しないという選択肢はありません。
すでにAmazonのような巨大企業は、DXやAIを積極的に活用して革新的なサービスを展開していますが、このムーブメントは一部のグローバルな大企業にだけに留まってはならないのです。
むしろ、リソースが限られている中小企業こそ、DXに力を入れて、この波に乗り遅れないようにしなければならない状況があります。
AIの活用が、中長期的な視点でビジネスを考える上で避けて通れない状況になっている以上は、中小企業もこのテクノロジーの課題に向き合わなければならないでしょう。
AIを活用したDXを進める場合は、AI特有の課題が待ち構えています。
これらの課題について理解し、この課題を乗り越える形でAI活用を行わない限り、DXの成功はありえませんので、まずは順に解説してまいります。
そもそも倫理とは、「善悪を見分けるための基準となる一連の道徳的原則」のことを指します。
この定義に基づけば、AI倫理とは、AIを利用していくうえで、守らなければならない道徳的な基準と言い換えることができるでしょう。
つまり、AIがもたらし得る人々の生活や社会に及ぼす可能性のある影響を理解した上で、どのようにAIを活用すべきなのか、または利用してはいけないのかを判断するための道徳的な指標がAI倫理なのです。
社会のいたるところでデジタル化が進み、AIと人間が協働する現代では、このAI活用における倫理問題が大きな注目を集めています。
例えば、インターネット上の様々なテキストデータを学習して、文章を生成するAIを想定します。
もしこのAIが、ネットに溢れるヘイトや差別発言を蓄積した結果、特定の人・集団を攻撃するような文章やデマを生成してしまう場合は、人がこうした文章を拡散したときと同様の倫理的な課題が生じてしまうでしょう。
それどころか、こうした意見が「AIによる客観的な分析に基づく事実だ」として受け取られてしまった場合は、より大きな被害をもたらす可能性すらあり得るのです。
AIの開発者や利用者は、AI倫理を考慮に入れて、例えばAIが公平であること、プライバシーを尊重すること、透明性を持つことなど、社会的に受け入れられた倫理的な基準に基づいてAIを設計・運用しなければなりません。
適切なAI倫理に従って開発・利用されたAIは、個人のプライバシーを侵害することなく、不偏の情報を提供し、その判断基準が明確で理解可能なものでなければならず、それらはすべての関係者にとって公正であることが求められます。
例えばGoogleでは、AIアプリケーションの目的を次のように定めています。
引用:Google AI「Our Principles」
- 社会的に有益であること
- 不当な偏見を生み出したり強化したりしないようにします
- 安全性を確保するために製造され、テストされていること
- 人々に対して責任を持ちます
- プライバシー設計原則を組み込む
- 科学的卓越性の高い基準を維持する
- これらの原則に従った用途に利用できるようにすること
このGoogleの原則からもわかる通り、AIの活用にはこれまで以上に厳格なルールが必要なのであり、その基準となる基本的な考え方がAI倫理なのです。
改めて確認すると、そもそもDXとは「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことです。
DXは、企業の生産性向上やコスト削減をもたらす一方、繰り返し述べた通り、現代のデジタル活用の中核とも言えるAIの利用に伴って、倫理的な問題も生じてしまいます。
別の例を挙げれば、ECサイトにおけるAIの利用があります。
ECサイトにAIを導入し、これまでの顧客の購買履歴をもとに顧客ごとにおすすめの商品を提示することは、技術的に既に可能になっています。
これは、自分の好みの商品が見つけやすくなるという点で顧客体験の向上に繋がることが期待できるため、DXとして有効な施策です。
しかし、その一方で、その購買データの取り扱いがプライバシー侵害に当たる可能性も考えなければなりません。
顧客との間で合意形成が取れている範囲を越えて、広範なデータを利用してしまえば、いくら適切な商品がおすすめできたとしても、企業の評価は失墜し、ビジネスの継続さえ危ぶまれる事態に繋がってしまいます。
また、AIが便利なテクノロジーであることは間違いありませんが、その一方で、基本的には「データに基づく統計的な結果」を導き出すツールでしかないとも言えます。
つまり、データに誤りや偏りがあれば、AIの導いた結果もまた誤ったものになってしまうのです。
データに紛れ込んでしまう嘘やバイアス(偏見)などは、日々AIエンジニアの手によって取り除かれつつありますが、それでもまだ完璧ではありません。
また、仮に適切な分析が可能だとしても、その結果をどのように使うべきかという判断はAIにはまだできないのです。
こうした状況を踏まえて、内閣府は2019年3月に「人間中心のAI社会原則」を発表し、AIを使う際の7原則を示しています。その筆頭に来るのが「人間中心の原則」です。
AIの利用にあたっては、人が自らどのように利用するかの判断と決定を行うことが求められる。AIの利用がもたらす結果については、問題の特性に応じて、関わった種々のステークホルダーが適切に分担して責任を負うべきである。
引用:「人間中心のAI社会原則」統合イノベーション戦略推進会議
この原則が示す通り、どれだけ自律的に学習し成長するAIが進化したとしても、そのコントロールはあくまで人間がするべきであり、むしろ人間がしなければならないものなのです。
IT網を通じて様々な情報をやり取りし、処理することができるようになったデジタル世界は便利ですが、その一方で、膨大な個人情報がデータとして蓄積・利用されていることを忘れることはできません。
AIの進化は、そのデータ活用をさらに加速させます。
ここでは、DX推進におけるAIとデータプライバシーの問題、そしてそれらに対する現実的な対策について考察していきます。
まず、AIがプライバシーに与える影響を具体的に考えてみましょう。
例えば、近年市場が拡大している「スマートスピーカー」は、対話型の音声操作ができるAIが内蔵されたスピーカーに話しかけるだけで、予め接続した家電の操作や、ネットでの調べものなどをAIが行ってくれます。
これは、ユーザーにとっては便利なサービスですが、その一方で、24時間常にAIによって行動や音声が監視され、情報を収集され続けているということでもあるのです。
スマートスピーカーの利用者のデータを収集・分析できれば、企業はさらに利便性の高いサービスを開発・提供することができるようになるでしょう。
しかし、そのデータの取り扱いを少しでも間違えれば、ユーザーのプライバシーを著しく侵害してしまう危険性のあるテクノロジーでもあります。
これらのプライバシー問題に対する解決策の1つは、個人を特定できる情報を「匿名化」することでしょう。
例えば、名前や住所など、個人を特定可能な情報を別の符号に置き換えて、個人が特定できないようにして管理・収集する方法が考えられます。
「いつ家電をオンにしたか」「何を調べたのか」などのデータが、名前や住所と紐づけられて管理されていたらそれだけで恐ろしいですが、個人と紐づけできない形であれば、ユーザーの抵抗感は一気に軽減されますし、プライバシーの観点からも問題は劇的に起こりづらくなります。
また、そもそもデータの利用にはユーザーの明確な同意が不可欠です。どのような情報を取得し、どのように活用するのかをユーザーにわかりやすく提示するなど、データ利用の透明性に関しても、今後さらなる徹底が求められるでしょう。
中小企業がDXを推進する中で、AIを活用したコンテンツ生成は、業務の効率化や新しいビジネスチャンスの創出に大いに貢献しています。
しかし、その一方で「AI著作権問題」という新たな課題が浮上してきました。
AIが生成したコンテンツの著作権は誰に帰属するのか、どのように管理すべきなのか。こうしたAI著作権に関する問題への取り組みは、企業がDXを成功させるために避けては通れない重要な課題となっています。
この章では、こうした著作権問題について具体的な事例を挙げて解説し、中小企業が取るべき対策を考察します。
まず重要なポイントとなるのが、AIが生成する著作物については、国や業界、利用目的によって扱いが異なるケースが多く、一概に定義するのが難しいということです。
これはまさに、AIが著作物を生み出すという新しいテクノロジーに、法制度が追いついていないことに起因しています。
例えば、現在の日本の法律上において著作権が生じるモノとは、基本的に「人間の創造性に基づくもの」として定義されており、AIが生成した画像、音楽、文章などにおける「AIの創造性」をどう評価するかは未解決の問題です。
AIが著作物を生み出した場合、その著作権はAI自体に帰属するのか、AIを開発・操作した企業や個人に帰属するのか、という問題は、インターネット上でもしばしば議論の的になります。
この点については、法的な決着がついておらず、現時点も論争が続いているのです。
しかし、少なくとも現時点においては、一部の国や地域では、AIが生成したコンテンツは創作物とは見なされず、著作権保護の対象外となることがあります。
AIと著作権の関係に関する法規制は現在進行形であり、その基準も日々変化している分野です。
中小企業がAIを活用してコンテンツを生み出す、またはAIが生成したコンテンツを利用する際には、常に最新の法規制と判例に目を光らせ、適切なコンプライアンス体制を整備する必要があるでしょう。
では、実際に中小企業がAIを活用する場合には、どのような問題に気をつければ良いのでしょうか。
ここでは、具体的なシーンを想定した上で、AI制作物の著作権問題について考えてみます。
例えば、アパレル企業がAIで新しいデザインの洋服を生み出した場合を想定します。この場合、その洋服のデザインの著作権は誰に帰属するのか、という問題は実に複雑です。
もしも、利用するAIプログラムのライセンス契約において、生成されたコンテンツの著作権に関する条項がある場合は、基本的にその条項に従うことになります。
生成したデザインの著作権が企業に帰属するのか、AIプログラムの開発者に帰属するのかは、この条項に沿って判断することができるでしょう。
ただし、そのデザインを制作する際にデザイナーがAIにどれだけ具体的な指示を与えたかなども重要なポイントになる場合もあります。
言い換えれば、AIがどの程度自律的にデザインを生み出したかを評価することが必要なのです。
人間の関わり方の度合いによっては、著作権の帰属が変わる場合もありえるでしょう。
当然ながら、デザイナーの創造性がデザインに強く反映されていた場合、AIを使ってデザインをしたとしても、その洋服デザインの著作権は企業やデザイナーに帰属する可能性が高いと考えられます。
こうしたポイントを明確にしておかないと、アパレル企業とAIプログラム開発者の間で、著作権をめぐるトラブルに発展する危険性があるため、注意が必要です。
また、この点以外にも「デザインを生成するために使用したデータの権利」も意識する必要があります。
データベースに既存の著作物が含まれている場合は、それを下敷きにしたデザインが著作権に触れる可能性も否定できません。
違法なデータの使用は、後に法的な問題を引き起こす可能性があるため、特に慎重な検討が必要です。
こうした複雑な問題に対処するための、現状考えられる具体的な解決策は以下の通りです。
このようなポイントは、なにもアパレル企業に限った話ではありません。
何らかのデザイン作成などにおいて、AIを活用する場合の著作権問題は、様々な要素が複合的に絡むため、細心の注意を払い、事前に法的な確認と契約の整備を行う必要があるのです。
また、その際は最新の法律動向をチェックするとともに、専門家の法的助言を求めることも重要な戦略となります。
あらかじめしっかりとした対策を講じることで、企業はAIを効果的に活用し、新しいデザインの創造を促進することができるでしょう。
AI技術の進化により、生成されるデザインやコンテンツのクオリティは向上しています。
その結果、企業が競合他社のAIが生み出したコンテンツを、自社のプロジェクトに流用するケースも増えてきました。
また直接的に利用しなくとも、インスピレーションを受けてコンテンツを作成することも増加しています。
しかし、このプロセスには著作権に関連する法的な問題が発生する可能性があるため、以下のような注意点と解決策が必要です。
また、こうした複雑な著作権問題に対応するためには、次のような対策も有効です。
このようにAI生成物を流用する際には、他社のコンテンツとの類似性、ライセンス条件、原作者との交渉など、多岐にわたる要素に配慮が必要です。
これらの問題を適切に取り扱うことで、企業は創造性と法的安全性のバランスを保ち、より革新的なプロジェクトを推進することが可能になるでしょう。
DXとAI倫理、特にデータプライバシーと著作権の問題について解説しました。
DX推進の波が高まる中、企業はデータプライバシーとAI生成物の著作権という新たな課題に直面しています。
個人データの保護とAIによるコンテンツ生成の著作権管理は、企業の信頼と法的遵守に直結し、それを判断するAI倫理は、デジタル社会を歩む重要な道標です。
次回の後編では、AIの偏見問題や倫理的な側面に焦点を当て、これらのテーマを探求することで、デジタル社会における責任ある企業の実践を模索していきましょう。
The post 【DX推進とAI倫理】中小企業のためのデータプライバシーと著作権のガイドライン|前編 first appeared on DXportal.