AI編集部を作って見えた、AIに任せる仕事と人間の責任【編集部考察】
在宅ワークの日、私は散歩をしながらAIと音声で次の記事の企画を壁打ちすることがあります。その壁打ち散歩は、時に休憩を挟んで3~4時間に及ぶこともあります。この働き方は、私がAIを用いてDXportal®の記事作成を自動化する、「AI編集部」を作り上げることで実現しました。
私は、DX専門の情報サイトの編集長という立場にありながら、昔からITに詳しかったわけでもありませんし、AIを使いこなすスキルを持っていたわけでもありません。しかし、そんな非エンジニアの私でも、AIエージェントと格闘を続ける中で、徐々に効率的なAI編集部を作り上げてきたのです。
とはいえ、最初から素晴らしいAI編集部が作れたわけではありません。たくさん失敗もしましたし、AIの使い方への誤解もありました。本記事では、そんな私がAI編集部を構築する中で気づいたAIとの付き合い方について、実体験を交えながら考察します。それは、AIにまかせてよい仕事と、人間が最後まで手放してはいけない責任について考える機会にもなるはずです。どうぞご自身のAI活用、そして貴社のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の現状を思い浮かべながらお読みください。
【本記事の要点】
- AI編集部はV1.0の複数AI・手作業からV2.0の自動化、V3.0のAI自身への裁量付与へと、方法を変え続けてきた
- 効率化は時短だけでなく、散歩をしながら企画を考えるという働き方や、新しい連載企画を生んだ
- 規則を増やしすぎて記事の主張が弱まった反省と、AIが人間の言葉を整理し返してくれた経験がある
- AIに仕事を任せることは、人間が目的と自社固有の文脈を与え、成果の価値を判断して責任を負うことである
- 方法やツールは変わり続けても、企業が実現したい価値と、その結果への人間の責任は変わらない
1つずつ手作業でつないでいた、V1.0の日々
AIを使う以前、私はWEBライターとして、記事を1から10まで手作業で書いていました。取材や調査から構成、執筆、推敲まで、すべて自分の手を動かして進める仕事です。
はじめてAIを使い始め、AI編集部を意識しはじめたころ(仮にVer.1.0とします)は、記事制作の流れを11工程の細かなタスクへ分解し、4〜5種類のAIチャットを用途に応じて使い分けていました。
- リサーチが得意なAIで調べもの
- 別のAIと企画を壁打ちして企画を作る
- 企画に沿って構成を決める
- 文章が得意なAIに記事を書かせる
- 記事検収とハルシネーションチェックを行う
- 画像を作り章タイトルの下に設置する
- WordPressへ投稿して公開設定する
AIにはそれぞれ得意な分野があり、適材適所というものがありました。しかしその分、要所要所で各AIへの指示やその受け渡し、成果物のつなぎ込みは、すべて私が手作業で行う必要があったのです。
言ってみればこの頃のAI編集部は、とても「自動化」とは言えない代物でした。それでも、すべてを自分で書いていた時代と比べれば、大きく効率化できていたのは確かです。当時のAIの性能と私の利用環境を踏まえれば、タスクを細かく分け、複数のAIを使い分けるという方法は、その時点で間違った選択ではなかったとは、今でも思っています。
実際、AIでうまく記事を書けないと悩んでいたライターに、AIには得意不得意があり、複数のAIを使い分ける必要がある場合もあると説明していたこともありました。そして何より、AIを複数使いこなして1本の記事を書いている使い方に、どこか自己満足を覚えている自分がいたのも事実です。
ただし、この方法は個々の作業を速くする工夫ではあっても、1つの編集部を回すための仕組みにはなっていませんでした。次の記事を作るたびに、私自身がすべての接続点になる必要があったからです。
仕組みが仕事を変えた、V2.0のゲームチェンジ
そこで、次のAI編集部構想V2.0では、司令塔に「ClaudeCode」というAIエージェントを選びました。この構想では、企画を考えるところから記事を出力するまでの中間工程をある程度自動化することに成功。私の役割は、最後に出力された記事を確認することへと移り、記事1本あたりにかかる作業時間は大きく減りました。
減った時間は、企画を考えることと、記事を確認することへ充てられるようになりました。これは、DXを進める企業で、単純作業から解放されたスタッフが、より価値を「生み出す」業務へと転換していくことと同じようなものです。
現状のDXportal®は、AI編集部V2.3によって、1日3本の刊行体制が実現しています。個々の作業をAI任せにしただけでなく、編集部としての生産の仕組みが変わったという意味で、V2.0シリーズは私にとってゲームチェンジと呼べる存在でした。
現在もCodexとClaude Codeという2つのAIエージェントを、それぞれの得意分野に応じて使い分けています。ただし、複数のAIを使うことや工程を分けること自体を目的にしているわけではありません。V1.0の頃との違いは、AIを何種類使うかではなく、何のためにどの範囲を任せるかを考えるようになった点にあります。
効率化の先で生まれた、生活と企画
V2.0で作業時間が減ったことは、時短それ自体よりも大きな変化を私にもたらしました。記事制作の作業時間は減った一方、企画について考える時間は、以前よりむしろ増えています。パソコンの前にいなくても企画を考えられるようになったことで、冒頭にも書いたように、散歩をしながらAIと音声で壁打ちをする習慣が生まれたのは、その象徴です。
この散歩習慣とAI壁打ちの中からは、【街で見つけたDX】というシリーズの発想が生まれました。このシリーズは、街を歩いていて気づいた光景を写真に撮り、AIとDXの文脈で壁打ちをする中から企画が立ち上がっていく「1枚の写真」をもとに記事を作り上げるシリーズです。
たとえば、シリーズ最初の1本は、「シェアサイクルに学ぶ顧客体験DX|「使いやすさ」が満足度を変える【街で見つけたDX】」という記事ですが、これは散歩の途中に、「やたらといろんなシェアサイクルをみかけるな」と漠然と思った経験から生まれています。
ここで大切にしたいのは、このシリーズがAIだけで生まれたわけではないという点です。その流れを整理するとこうです。
- AI編集部を作ることで時間の余裕ができる
- 街に出て改めて気づきがある
- 問いをAIへ投げる
- AIが別の文脈や整理を返す
- 私とAIが壁打ちして企画に仕上げる
- AIが記事を書く
- 私がチェックして仕上げる
つまり、きっかけはAIかもしれませんが、その要所要所は人間である私が押さえているのです。AIに任せたのは、思いつきを言葉や構成へ整理する部分であり、何を面白いと思うか、何を企画として成立させるかという判断は、依然として私の手元にあります。
V2.0 AI編集部で生まれた課題
V2.0を運用する中で、記事の品質を安定させるために、私は細かな規則を数多くAIへ与えました。
- 表記のルール
- WEB文章としての体裁
- 法務・権利上の注意
- 事実確認の手順
WEBサイトを運営するうえで、守らなければならないルールは確かに存在します。
ルールにしばられたAIは無難を選ぶ
しかし、ここで大きな問題が起きました。それは、規則が増えれば増えるほど、AIがその規則に抵触しないことを優先するようになり、記事が当たり障りのない内容へ寄っていき、間違ってはいないけど「おもしろくない」記事ばかりになってしまったのです。
同じ時期に、もう1つ気になる傾向がありました。二次資料の数字をそのまま鵜呑みにせず、一次資料を確認して掲載することは、WEBメディアとして当然必要な手順です。ところが、一次資料を確認し、編集部として掲載する意味があると判断した数字の直後に、AIが「これは1つの数字であり、鵜呑みにすべきではありません」といった一般的な予防線を書き加えることが多くなってきたのです。
AIの限界と編集長の責任
これでは、メディア自身が読者に対して「この数字を信用する必要はない」と言っているのと変わりません。そこまで価値を否定するのであれば、最初から掲載する意味がないのです。人間のライターであれば、間違ってもこんな書き方はしません。
- 不確かな数字であれば掲載しない
- 確認できた数字であれば、出典と主語、対象範囲を正確に示して明快に書く
- 具体的に確認できていない点が重要であれば、その点だけを具体的に説明する
メディアとして慎重であることと、メディアとして明確な主張を示すことは対立しません。こうした過剰な免責を止め、確認できた内容をどこまで明快に書くかという最終的な媒体姿勢の判断は、AIに委ねるのではなく、編集長である私が引き受けるべき領域だと考えています。
属人化と共有
必要な規則と、方法まで固定する規則を混同する問題は、一般企業でも起きているのではないでしょうか。守るべき作業手順と、例外が起きたときに現場が考えるべき裁量は、本来分けて考える必要があります。
裁量を個人任せにして属人化させるのではなく、そこで得た暗黙知を可視化し、次の改善材料として共有する仕組みがうまく作れない。これは、DX推進を考える企業が、高確率で突き当たる課題と同じではないか。消極策を選ぶようになったAIを前にして、私は改めてこんなことを考えたのです。
AIが返す思いがけない気づき
規則を増やしすぎた反省がある一方で、AIとの協働が私1人では到底到達できなかった答えを返してくれた経験もありました。
DXportal®の記事投稿には、基本的に「朝は知る。昼は学ぶ。夕方は考える。」という中核となるテーマがあります。ただ、この言葉は、私が最初から完成形として思いついたものではありません。
AIとのブレストの中で、私自身が整理し切れていない複数の考えを投げかけたところ、AIがそれらをまとめ、3つの端的な言葉として返してきたのが始まりでした。私はその言葉を聞き、「なるほど」と納得し、編集部の刊行方針の軸として採用したのです。
この経験からも、私は、AIには人間が整理し切れていない思考をまとめ、人間が思いつかなかった端的な表現として返す力があると感じています。ただし、この言葉を企画として採用し、編集部の刊行思想として位置づけると判断したのは、AIではなく私自身です。人間が投げた材料をAIが整理し、その整理を人間が採用する。これも1つの協働の形だと思います。
規則を細かく固定しすぎて記事の主張を弱めてしまった経験と、AIの整理力を借りて自分たちの核となる言葉を見つけた経験。この2つが重なり合ったことが、AIに何を考えさせ、何を人間が判断するかという境界を、V3.0であらためて見直すきっかけになりました。
AI自身にも考えさせる、V3.0への転換
こうした成功と反省を踏まえ、次のAI編集部構想では大きな転換を試みています。V3.0は、V2.0で得た成果を認めながらも、細かな規則を増やし続けても、求める記事品質には近づかないという反省を出発点として開発をはじめました。
V3.0の核は、AI自身にも自主的に考えさせることです。人間があらゆるルールと手順を先に決めるのではなく、決めるべきところは人間が決めたうえで、仕事の進め方や内部の判断基準そのものをAIにも考えさせる。そして、AIには最初に大きな目標だけを与え、後のルールは自分で考えさせるのです。
私がAIへ与えた明確な目標は、たった1つ。それは、「読者にとって最大限価値のある記事を作る」ことです。その目標へ向かって、どのような制作体制や工程、判断基準が必要かを、人間とAIの協働で考え、実際の記事制作を通じて更新し続けているのです。
もちろん、これはAIを野放しにするという話ではありません。人間が目的と、越えてはいけない境界、確認の方法を示し、最後に成果物を判断するという構造は変えていないのです。むしろ、目的と責任によってAIの裁量を統制していると言った方が近い考え方でしょう。ただし、V3.0もまだ完成形ではなく、AIの性能や使い方が変われば、この方法もさらに更新していく必要があると考えています。
まだ実装には至っていないV3.0編集部ですが、今回の構想の背景には、もう1つの気づきを設計に組み込んだいます。それは、コンテキストの重要性です。コンテキストとは、物事が起きる「背景」「文脈」「状況」「前後関係」を意味する言葉ですが、記事を書く際には、このコンテキストをAIにどれだけ与えるかが問われているように思います。
これは、みなさんがAIを企業運営で使用するときにも同様のことが言えます。AIに与える中心的な材料が、外部の公開情報や事例といった借りてきた情報ばかりでは、その会社ならでは価値は生み出しにくいのです。
- 経営者が語る企業理念
- 従業員が自分の言葉で語った経験
- 企業が培った独自のノウハウ
- 長年書き換えられたマニュアル
- 失敗経験
- 判断基準
こうした暗黙知にこそ、その価値があります。自社固有の文脈を整理してAIへ渡し、AIの整理・推論する力と掛け合わせ、生まれた成果を人間が確かめる。これがAI編集部で目指している理想であり、一般の企業のAI活用にも通じる考え方だと思っています。
方法が変わっても、企業が変えてはいけないもの
ここまでは、私自身とDXportal®編集部の経験を振り返ってきました。ここからは、AIやDXを活用する中小企業の経営者・DX推進担当者に向けて、AI編集部を開発してきた経験から考えたことをお伝えします。
- 複数のAIを使うこと
- タスクを細かく分解すること
- 詳細なプロンプトを与えること
これらはどれも目的ではありません。その時点の目的に応じて選ぶべき手段です。AI編集部でも、当時のAIの性能や利用環境によって、有効な方法は変わってきました。今の自社にとって最適な方法も、テクノロジーの進化とともに変わっていく可能性があります。
実際、「去年のAIの使い方は、もう古い」という記事で扱ったように、細かく指示するほど良い成果が出るという前提自体、AIの推論力の向上によって崩れつつあります。同時に、「DXツールの無料トライアルを比較するほど、現場が疲れていく理由」という記事で指摘したように、複数のツールを並行して比較し続けること自体が、かえって現場を疲弊させる場合もあるのです。
手段を固定することも、比較や効率化そのものを目的化することも、どちらも危うさをはらんでいます。
だからこそ、企業がAI活用やDX推進を考えるときに変えてはいけないのは、方法そのものではなく、自社が何を解決したいのか、自社にしかない何を与えるのか、どこまでAIに任せるのか、そして誰が成果を確認し責任を持つのかという判断軸なのではないでしょうか。
会社として何を解決し、どこへ向かうかを決め、結果に最終責任を負うことは、人間がAIへ委ねてはいけない領域です。出てきた成果物や成果は人間が確認し、必要なら更新し、試行と改善を繰り返す。これは、PDCAやアジャイルといった言葉で呼ばれる考え方にも通じますが、本質は「試して、確かめて、直す」という、昔から変わらない仕事の基本です。
まとめ:AIに任せることは、考えることをやめることではない
AI編集部を作り、V1.0からV3.0まで方法を変え続けてきて、私がたどり着いた考えは1つです。それは、「AIに仕事を任せるとは、人間が考えることをやめることではない」ということです。
人間が目的と自社固有の文脈を与え、AIにはそこへ至る方法を考えさせる。
そして、最後の価値判断と責任は、人間が引き受ける。
改めて、問いかけてみてください。貴社がAIへ任せたい仕事は、何を実現するためのものでしょうか。AIへ渡せる、自社や自分にしかない経験・判断・知識は何でしょうか。そして、AIが出した成果を誰が確かめ、誰が最後の責任を負うのでしょうか。
AIの性能も、その使い方も、これからさらに変わっていくでしょう。今正しい方法が、半年後も正しいとは限りません。それでも、何のためにAIを使うのか、誰にどんな価値を届けるのか、そして生まれた成果に誰が責任を持つのかという問いは変わらないはずです。
DXportal®のAI編集部も、まだ完成形ではありません。私自身、AIと対話し、試し、結果を確かめながら、その協働のあり方をこれからも更新していきます。ただし、記事の入口で何を伝えるべきかを考え、出口で本当に読者の皆様へ届ける価値があるかを判断する責任は、編集長である私が手放しません。
DXportal®編集部はこれからも、AIとの協働を通じて、読者の皆様に最大限価値のある記事、情報、学びをお届けできるよう取り組んでまいります。
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