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日本国内の少子高齢化などの社会問題は、農業にも大きな影響を及ぼしています。農業従事者の数は右肩下がりに減り続けており、同時に高齢化が進んでいるのです。
これらの問題に対する1つの解決策として、農業分野においてもDX推進への取り組みが求められています。
その中でも特に注目されているのが、「AI」と「ドローン」の活用です。
AIとドローンの技術は、作物の生育状況の把握、収穫の最適化、災害対策などに有効であり、労働力不足問題の解消など、農業の様々な課題解決に寄与することが期待されています。
本章では、AIとドローンの活用により、農業の課題をどのように解決していくのかについて、その可能性を解説します。
日本の農業は、担い手の減少と高齢化の進行により、深刻な労働力不足という問題に直面しています。
農林水産省が発表した上図にもみられるように、労働力不足の問題は、平均経営耕地面積(農家が経営する農作物の栽培が可能な面積)の増加を引き起こしているのです。
これは、農地面積の総量は近年減少傾向にあるものの、それを働き手の減少が上回っているため、1人あたりが負担しなければならない作業面積が年々増加しており、100ヘクタール以上の広さを管理する経営体の数は、2005年の864に対して、2015年には1,590近くと倍以上に増加しているという結果を引き起こしているのです。
こうした背景もあって、農作業を効率化する技術革新を求める声は年々大きくなっています。
このような課題に対して、総務省は2019年に農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会を設置しました。
官民協議会の目的は、マルチローター型を中心とする航行安定性の高いドローンの開発と普及を進め、これらの技術が農業分野で活用されることにあります。
特に平地の土地利用型農業だけでなく、作業が厳しい山間地域でのドローン活用による省力化は需要が高まっています。
農業の成長産業化に向けて、ドローン分野のイノベーションを取り込むことは極めて重要となっているのです。
農業用ドローンの技術開発と普及は、現在の日本の農業の急務であり、官民が連携し関係者のニーズをくみ取りながら、普及拡大に向けた取り組みを推進しています。
精密農業とは、作物の生育状況を詳細に把握し、肥料や水分を必要な分だけ適切に供給する農業の形態です。
AIとドローンを活用すれば、この精密農業を実現し、収穫量を最大化でき、また徹底的な作業とリソースの効率化も期待できます。
例えば、ドローンが撮影した広大な農地のデータをAIで解析すれば、作物の生育状態に合わせた無駄のない最低限の農薬散布で農業を行うことができます。
食への意識が高まる昨今、農薬の使用を最低限に抑え、人の健康に配慮した農作物は市場からも歓迎されるでしょう。
また、AIによって病害虫が検知された箇所のみにピンポイントで農薬を散布したり、作物の葉色を診断に基づき、追肥が必要な箇所にのみドローンを用いて、局所施肥を行ったりすることもできます。
AIにより作物の成熟度を判断し、最適な収穫時期を予測することで収穫のタイミングを見極め、品質の高い状態で作物を収穫することが可能になります。
さらに、ドローンを活用すれば、AIの分析情報をもとに、効率的に収穫を行うことができるでしょう。
従来の農業では、人が視覚や触覚を駆使して、経験に基づいて収穫作業を行っていました。
熟練した農家の経験や感覚は優れた農作物を生み出してきましたが、広大な土地を歩き渡りながらの収穫作業は大きな負担です。
豊富な経験を持つ農家の働き手は高齢化し、長時間の収穫作業を続けることが難しく、また農業に興味をもって新たに参入した若手にはまだ十分な知識と経験がないという事態が起きていたのです。
しかし、AIとドローンを活用することで収穫作業の多くの部分を自動化することができます。
これらの判別作業を、ドローンが撮影した映像データをもとに、AIが自動的に解析してくれる仕組みがすでに生み出されています。
その結果、広大な農地を人間が歩き回って判断する必要がなくなり、時間と労力を大幅に削減できるのです。
高齢化が進む農家にとっては、この収穫作業の効率化は非常に魅力的なものでしょう。
また、知識と経験が豊富な人材がいない場合でも、AI分析により商品価値が高い農作物を最適なタイミングで収穫できるようになるため、農家全体の利益向上にも寄与することが期待されています。
上記で紹介したような、農業におけるAIとドローンの活用は遠い未来の話ではありません。むしろ、既に実践的な取り組みがスタートしているのです。
本章では、その中でも実績をあげている3つの実例を紹介します。
産業ドローンの開発・販売を行い、社会問題の解決へ取り組む株式会社スカイシーカー(東京都)は、AIとドローンを活用したICT鳥獣被害対策を提供しています。
鳥獣被害とは、農作物や農地における野生動物による被害のことを指し、具体的には猪や鹿、鳥類などの野生動物が農作物を食べたり、農地を荒らしたりすることによる被害のことです。
農林水産省によれば、2021年における野生鳥獣による農作物被害は全国で約155億円にも上っています。
深刻な被害が出れば、ビジネスの継続すら脅かしかねないほど重大な課題になっているのです。
ICT鳥獣被害対策では、AIの解析力とドローンによる空撮データの技術を組み合わせることで、まずは鳥獣の生息状況や行動パターンを把握します。
こうしたデータがあることで、被害を最小限に抑えるための最適な対策を立案することが可能になるのです。
スカイシーカーのサービスの基本的な機能は次の3つです。
こうした機能を用いて鳥獣被害対策を行うことにより、スカイシーカーは農作物被害の防止という重要な課題に対して、AIとドローンの技術を活用した効果的な解決策を提供しています。
さらに、地域の特性やニーズに応じてカスタマイズすることができるため、各地域の個別具体的な課題に応じたICT鳥獣被害対策が実施できます。
「リモートセンシングで、新しい社会を創る」をミッションとする株式会社スカイマティクス(東京都)は、AIとドローンを活用した農作物の収量予測を行うドローンセンシングサービス「いろは」を提供しています。
「いろは」は、ドローンで撮影した農地の画像データをAIが解析し、作物の生育状況や病害の有無など、農作物の管理をより効率的にする3つの診断機能を搭載しています。
さらに、同社はAIとドローンを活用した農作物の収量予測だけでなく、病害の早期発見や適切な農薬の使用量の推定など、農作物の管理をより効率的に行うことを可能にするサービスも提供しています。
これらの技術は、農業のDXを推進し、より効率的で持続可能な農業生産を実現する一助となるでしょう。
既に紹介した通り、農薬の散布においてもドローンを活用することで、より効率的かつ効果的な散布が可能となります。
農業DX事業を手掛ける株式会社オプティム(東京都)が提供する「ピンポイントタイム散布サービス」(以下:PTS)は、その一例です。
PTSは、生産者が求める最適なタイミングで農薬を散布する防除のデジタル化サービスです。
通常ドローンを購入して農家が単独で農薬散布を行おうと考えた場合、高額なドローン購入費用だけでなく、ドローンを扱う講習費用が必要になります。
さらに、国土交通省や都道府県への届出を提出する必要があるのですが、PTSではそれらの全てが必要ありません。
農薬散布を希望する農家が、PTSを申し込むことにより、農地面積あたりの費用を負担するだけで、対象圃場のデジタル地図の作成などは同社が請け負い、ドローンを用いて効果的に農薬を散布します。
このサービスを用いれば、農薬の使用頻度と使用量を抑えつつ防除の効果を高め、高品質で低コストな農業が実現できます。
実際に千葉県の大規模農業法人では、PTSを利用することで病害虫被害が10%削減されました。
ドローンによる散布は風による農薬の飛散(ドリフト)が少なく、さらに作業の進行状況もパソコンで確認できるため、人が散布に立ち会う必要がなくなるという利点もあります。
従来は散布作業のために人が広大な農地に現地に出向き、風向きや風速を確認しながら散布を行う必要がありましたが、ドローンを使用することで、そのような手間が省け、また、散布の精度も向上するのです。
さらに、PTSを活用することで、これまででは調整が難しかった細かい品種単位での適期防除もできるようになりました。
本記事では、AIとドローンが導く次世代アグリテックと進化について解説しました。
AIとドローンの技術進化は農業に関連して、主に3つの点で革新的な変化をもたらしています。
既に、多くの企業や農家がこれらの技術を活用し、効率的で持続可能な農業を実現しようとし始めています。その中心にあるのが、AIとドローンなのです。
しかし、こうした技術を最大限に活用するためには、技術の普及と理解、法規制の整備、データの管理と保護など、解決すべき課題が存在します。
これらの課題を克服することが、農業のさらなる発展に繋がり、新たな価値を創造するDXにおいても重要な要素となるでしょう。
こうした改革を国レベル、世界レベルで実現していくためには、農業関係者のみならず、農作物に関わる全ての関係者がこの技術の進歩を理解し、適切に活用していくことが不可欠です。
そうした取り組みの蓄積があってはじめて、持続可能な農業を実現できるのです。
本記事が、AIとドローン技術の進化を知り、「農業の未来を大きく変えるDX」について考えるきっかけになれば幸いです。
The post 【農業のDX】AIとドローンが導く次世代アグリテック!その進化とは first appeared on DXportal.