税理士事務所の業務効率化は「資料回収」で決まる|会計事務所の証憑DX
クラウド会計を入れて、レシートの読み取りも仕訳の自動化も整えた。それなのに、月次決算は思ったほど早くならない。理由は、たいてい事務所の中にはありません。顧問先から資料が届かないからです。
領収書はまとめて紙で、通帳は写真で、請求書はメールに添付されて、しかも期日を過ぎてから届く。その催促に、スタッフが電話やメールで時間を取られている。税理士事務所・会計事務所の所長やスタッフから、こうした声をよく聞きます。
この記事では、顧問先からの資料待ちが事務所の繁忙期の偏りをつくる仕組みを整理したうえで、顧問先が資料を出す状態をつくった会計事務所の事例を紹介します。
【本記事の要点】
- 会計事務所のDXは、自所の入力を速くするだけでは頭打ちになる。仕事を止めているのは顧問先からの資料待ちであることが多い
- 資料が遅れると月次が後ろにずれ込み、申告期や年末調整に業務が集中して、残業の偏りと人材の定着難につながる
- 顧問先が資料を出すには、「送る理由」と「負担の少ない送る手段」の両方が要る
- 全顧問先に同じツールを求めず、段階的に導入し、紙や写真で送ってくる顧問先の経路も残す
会計事務所のボトルネックは、自所の入力ではなく顧問先の資料
会計事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)というと、クラウド会計の導入、自動仕訳、レシート読み取りといった「自所の作業を速くする」話が中心になりがちです。これらはもちろん効果があります。しかし、多くの事務所にとって、仕事が進まない一番の原因はその手前にあります。顧問先から資料が届かないことです。
仕訳をどれだけ速く打てるようになっても、その元になる領収書や通帳のコピー、請求書が手元になければ、月次の作業は始められません。つまりボトルネックは、事務所の中ではなく、顧問先の側にあるのです。
以前、社労士事務所について「顧問先が電子申請に対応できない前提で業務を設計する」という考え方を取り上げました。税理士・会計事務所の資料回収も、発想は同じです。顧問先が期日に、きれいに資料を出してくれることを前提にすると、仕組みは回りません。
顧問先が資料を出さないのには理由があります。
- 経理の担当者がいない
- 日々の業務に追われて後回しになる
- そもそも送る手段が面倒
この構造を変えないまま「早く出してください」と繰り返しても、状況は変わりません。
資料待ちが、繁忙期の偏りをつくる
顧問先からの資料が遅れることは、単に月次が1つ遅れるという話では終わりません。事務所全体の繁忙期の偏りをつくります。
資料が期日に届かないと、その顧問先の月次決算は翌月、場合によっては翌々月に持ち越されます。しかし、持ち越された作業は消えるわけではなく、次の月の作業に上乗せされるのです。これが積み重なると、年末調整のある12月から確定申告の2月から3月、3月決算法人の申告がある5月にかけて、業務が一気に固まります。
繁忙期に仕事が集中すると、その時期のスタッフの残業が常態化します。長時間労働が特定の季節に偏る職場は、人を採用しても定着しにくくなります。税理士・会計事務所の人材確保が難しくなっているなかで、この繁忙期の偏りは、事務所の経営そのものに関わる問題です。
しかし、資料待ちを、スタッフの催促の頑張りでしのぐのには限界があります。顧問先から資料が届く時期が偏る、という仕組みのほうを変える必要があるのです。
「資料が集まる」状態をつくった会計事務所の実例
顧問先が資料を出す状態は、どうすればつくれるのか。税理士法人ウィズ総合事務所の事例が参考になります。
同法人は、顧問先の支払業務を請け負う「振込代行」に、証憑回収サービスのinvoxを使っています。そこで起きたことを、同法人はこう説明しています。「自動で振込データが作成されるので入力業務が効率化されたほか、支払を行う必要があるため顧問先が期日に必ず請求書を送ってくれるようになり、振込代行を請け負うと資料回収が徹底される副次的効果がありました」。
ここで注目したいのは、効率化そのものより、「顧問先が期日に必ず請求書を送ってくれるようになった」という部分です。支払という顧問先にとって切実な用事が絡むことで、資料を送る動機が生まれているのです。
invoxのような証憑回収サービスは、次のような複数の方法で書類を取り込めます。
- 専用のメールアドレスへの送信
- 複合機からのスキャン
- PDFのアップロード
これにより、郵送で行っていた資料回収を電子化でき、郵便料金と郵送業務の負荷を減らせるとされました。また、会計事務所のスタッフが顧問先の環境に登録して勘定科目や仕訳辞書を事前に設定すると、AIがレイアウトを認識して明細までデータ化し、オペレータが確認することで99.9%以上の精度を保証するとされています。
顧問先が資料を送る手段の負担を下げることは、顧問先自身に入力の一部を担ってもらう「自計化」への入り口にもなります。証憑を送る流れが定着した顧問先には、次の段階として、日々の入力を顧問先側で行い、事務所はチェックと分析に回るという分担も検討できます。資料回収の仕組みは、単に事務所の手間を減らすだけでなく、顧問先との役割分担を組み替える土台にもなってくれるのです。
出典・参照:
顧問先に「送る理由」をつくる
資料が集まらないのは、顧問先にとって送る動機が弱いからです。ウィズ総合事務所の例のように「送らないと支払が止まる」仕組みは、動機が強い形の1つです。
同じように、資料を早く送ってくれた顧問先には月次の試算表を早く返す、資料が揃った時点で経営のワンポイントアドバイスを添える、といった「送ると顧問先にメリットがある」形をつくると、資料は動きやすくなります。催促の頻度を上げるより、送る理由をつくるほうが効果があるのです。
全顧問先に同じツールを求めない
顧問先のITへの慣れには、大きな差があります。そのため、すべての顧問先に同じアプリの利用を求めると、対応できない顧問先が負担を感じ、離れていく可能性も否定しきれません。
そこで現実的となるのは、段階的に導入することです。まず対応できる顧問先から電子的な受け渡しに切り替え、紙や写真で送ってくる顧問先には、事務所側でスキャンして取り込む経路を残します。顧問先を選別するのではなく、複数の入り口を用意して、事務所側で1つの形に揃えるという考え方です。
電子帳簿保存法が、顧問先対応の追い風になる
顧問先へ資料の電子的な受け渡しを提案するうえで、制度の変化が後押しになります。
電子帳簿保存法により、2024年1月以降、電子データで受け取った請求書や領収書は、電子データのまま保存することが原則になりました。メールに添付されたPDFの請求書や、WEBでダウンロードした領収書がこれにあたります。顧問先の側も、紙に印刷して保存するだけでは対応しきれなくなりつつあります。
この状況は、「制度対応のためにも、資料の受け渡し自体をこの機会に電子化しませんか」と顧問先へ切り出しやすい環境をつくっています。ただし、宥恕措置や猶予措置などの細かい扱いは変更されることもあるため、顧問先への説明では最新の内容を確認する必要があります。制度対応を口実に、顧問先へ一方的に負担を押し付ける形にならないよう、事務所側で取り込みを引き受ける姿勢を保つことが大切です。
出典・参照:
まとめ:会計事務所のDXは、顧問先を巻き込めるかで決まる
クラウド会計や自動仕訳で自所の作業を速くしても、顧問先から資料が届かなければ、月次は早くなりません。会計事務所のDXの成否は、自所の効率化ではなく、顧問先を資料提出の仕組みに巻き込めるかで決まります。税理士法人ウィズ総合事務所の事例が示しているのは、顧問先に「送る理由」をつくると資料が動く、ということです。
まずは、直近の1カ月を振り返ってみてください。顧問先からの資料が期日までに届かなかったのは何件あったか。その催促に、どれだけの時間を使ったか。そして、遅れがちな顧問先に共通点はあるか。ここが、資料回収の仕組みを考える出発点になります。
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