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MedicalXpressが利他主義に関する研究にVRが利用された例を伝えた。
利己主義と言えば自分の得になることを優先する考え方だ。利他主義はその対義語であり、自分よりも他者を優先する考え方である。一般的には動物は利己的であり、人間が利他的な行動を取れるのは意思によるものと言われている。
宗教の教えや倫理観に基いて利他的な行動が行われることもあれば、気まぐれに人助けをすることもあるだろう。今回の研究では、そんな利他的な行動を取る傾向と脳の構造に見られる関係も明らかになった。利他的な行動をする人ほど「自分は他人の健康に健康に関心がある」と答え、実際に脳の右前頭葉(社会的行動を司る領域とされる)が大きい傾向にあるという。
脳に違いが見られるということは、人助けをするかどうかは遺伝子によって決まっているのだろうか。それとも、積極的に他人のためになることをしていると身体がそれに合わせて変化していくのだろうか。さらに進んだ研究のきっかけとなりそうな一歩である。
この分野の観察を行うのは難しい。イタリアのウーディネ大学と協力してこの研究を行ったトリエステSISSAの主任研究者であり、現在はウィーン大学の研究員となっているGiorgia Silaniは利他的行動を研究する意義とその困難さについて語っている。
「私たちが社会の役に立ちたい、人を助けたいと感じる衝動は、複雑な社会構造を維持する上で重要な働きをしています。しかし、実際に有害・危険な状況を再現して被験者の利他的行動を研究するのは不可能ではないにしても困難です。特に、実験の協力者に脅威を与えるような状況を作るわけにはいきません…」
この状況を改善するためにVRが使われたという。研究に参加した人々は、VRで建物の火災から逃れることになる。
映像と音声が不安を掻き立て、彼らのおかれている危険な状況を強調する。さらに画面にはゲームで言う「HPゲージ」が表示され、彼らのアバターがどれくらい健康な状態かを示す。
避難の最終局面、もうHPがほとんど残っていないときに彼らはとても難しい決断を強いられる。自分自身の命の危険を顧みずに重いキャビネットに挟まれ、怪我をして動けなくなった人を助けるか助けを求める声を無視して脱出するかを決めなくてはならない。
参加者がVRを「現実同様に」感じながらタスクを完了すると、彼らはMRIスキャンを受けた。これは研究者が彼らの行動と特定の脳領域との結びつきを調べるためである。
実験の結果、過半数の人々は利他的な選択をした。65%が(バーチャルな)自分の命を危険にさらしても立ち止まったのである。加えて、助けを求めていた人を助けたグループは、共感の強さを調べる質問でより高いスコアを獲得している。
研究者の一人は「自分を犠牲にしてでも他人を助けようという行動は、人をケアしようという気持ちによって引き起こされるもののようだ」と指摘する。Silaniはこの研究の成果について「他人を助ける行動と神経構造の繋がりを見つけ出せた。この結果はこれから検証すべき仮説を立てるのに利用できる」という。
VRならば実際には安全な状態で危険な状況を再現することができる。その体験は被験者の脳を十分に騙せるほどにリアルでありながら、実際に危害を加えてしまうことはない。この性質はいくつかの分野で行われる実験に役に立つ。
実験に協力してくれる参加者を火災現場に連れていくことはできないが、VRで火災からの避難を体験してもらうだけならば(恐ろしいと感じることを除けば)危険はない。極限状況で人が取る行動を観察する方法としてこれほど優れた手段も無いだろう。
この研究は直接何かの治療に応用できるようなものではない。しかし、Silaniが言うように今回見つかった神経構造の差異は今後の研究に影響を与えるだろう。この結果を受けて立てられた新たな仮説の検証にもVRが利用される可能性は高い。バーチャルな環境を作り出す技術がリアルな人間の思考を解き明かすのだろうか。
参照元サイト名:MedicalXpress
URL:https://medicalxpress.com/news/2017-03-altruism-virtual-reality.html
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