自社や製品の広告にVRを活用している企業は、全体の8%に過ぎないという調査結果がある。しかし、VRコンテンツでの広告に興味を持っている企業も増えてきているようだ。既にVRコンテンツに掲載することで報酬を得られる広告を提供する事業を行う広告会社も登場している。


この状況を考えれば、Adobeのような大企業がVR広告に手を出すのも自然な流れだ。同社は、今週バルセロナで開催されるモバイル・ワールド・コングレス(MWC)でVR広告プロジェクトのプロトタイプを公開している。


VarietyがAdobeのこの取り組みについて伝えた。


スポンサー広告付きVR映画館



そもそも、このプロジェクトの始まりはAdobeのエンジニア・マネージャーであるYS Shinのアイデアだった。社員が持つアイデアを活かすためのガレージウィークイベントを行っている中でプロジェクトが開始されたのである。


プロジェクトでは新しいVRコンテンツを1から作成するのではなく、VRで映画館を作ることになった。この方式であれば、従来の2D映像コンテンツをそのまま利用できるからだ。ちょうど、HuluやNetflixがSamsung Gear VRで使えるVRカタログアプリを作ったのと同じ理由である。


アプリ内では、劇場全体がスポンサーの広告で統一されている。そしてCM時には本編の映像が停止して商品に関する追加情報がカードによって表示される。アプリ内でクーポンを獲得したり、アプリ内からツイッターで情報をシェアしたりもできるという。


CMの時間が終われば、表示された情報は消えて映像の再生が再開される。


モバイルVRへの期待



Adobeは、当初からこのVR映画館の方式に注目していたという。360度映像や、VR専用に作られるコンテンツがこの先どうなっていくかが不透明だからだ。その点、VR映画館で提供できる2D映像は豊富にある。


ユーザも見放題の映像配信サービスに慣れているため、利用者も多いと予想できる。新技術を使ったビジネスモデルでありながら、ある程度先が見えているのだ。


AdobeがモバイルVRに注力しているのも、同様に未知の部分が少ないからと言えるかもしれない。同社は今後、ハイエンドVRヘッドセットやAR技術ではなくモバイルVRに力を入れていくという。これは、ユーザにとって利用しやすいことが理由だ。


モバイルVRは多くの人が持っているスマートフォンで利用できるため、専用のVRヘッドセットを必要とするコンテンツよりもユーザ数が多い。また、Adobeはエンターテインメント用途に関してVRがARよりも有望だと考えている。


今回MWCで紹介されたVR映画館はまだプロトタイプの段階だ。しかし、今後6ヶ月から12ヶ月以内に実用化してパブリッシャーに提供できるとしている。早ければ半年後には、モバイルVRヘッドセット用にバーチャル映画館を開館する企業が登場するかもしれない。


AdobeとVR


Adobeは、このVR映画館による広告プロジェクト以外でもVRに取り組んでいる。


同社の提供するビデオ編集ソフト「Premiere Pro」は、VRビデオの編集に対応している。クラウドによってビジネス書類の管理を行う「Document Cloud」のサービスでは、PDFをVRに取り込む作業が進んでいるという。


このプロジェクトについて、担当者はAdobeが従来のビデオ広告で行っているのと同じメリットを享受することができると述べている。表示する広告の内容を視聴者の属性を分析して変更できるため、「未成年に対してはアルコール飲料の広告を表示しない」といったターゲットに合わせた広告配信が可能となる。


スポンサーにとっては、商品・サービスを利用しない層に向けて広告費を使ってしまうことによる損失を小さくしてくれるシステムだ。ユーザにとっても、全く興味のない広告が表示される機会が減るのは嬉しい。


また、広告中の画面を映画館に限る必要はない。映画館の座席にポップコーンとコーラが置いてある様子を見せることもできれば、大画面テレビのあるリビングに洒落たインテリアが置かれている様子を見せることもできる。消費者に届けたいイメージをVRで見せられるのもこの広告形態のメリットだ。


 


VRで広告というと、インタラクティブなVRコンテンツ内に表示するものをイメージしてしまいがちだ。だが、少なくとも最初はこのような形で広告が普及していくのではないかと思われる。こういった形態であれば広告コンテンツを作成するコストも抑えられる。


ユーザ視点で気になるのは、動画の視聴時に入る広告に対してわずらわしさを感じないか、というところだ。CMだからとよそ見ができるテレビと異なり、VRではヘッドセットを外さない限り広告を見ているしかない。広告の内容や長さ・挿入頻度によってはブランドや商品のイメージを下げてしまうこともあり得る。


ユーザエクスペリエンスを損ねない形を実現できれば、モバイルVRにおける広告の方式として一般化しそうな気配を感じるプロジェクトだ。既に映像広告を扱っているAdobeだけに、上手く企業とユーザの満足できる落とし所を見つけてくれるのではないだろうか。


 


参照元サイト名:Variety

URL:http://variety.com/2017/digital/news/adobe-vr-video-advertising-1201996008/


参照元サイト名:Adobeサポート

URL:https://helpx.adobe.com/jp/premiere-pro/using/VRSupport.html


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 Adobeが研究しているVR広告のプロトタイプが公開される