VR技術が一般の消費者にとって手の届くものになったのはここ1年か2年のことであり、2016年はこの技術に対する期待が大いに高まった年だった。


比較的冷静だった一般の消費者以上にVR技術に期待していたのは、IT業界だ。VRが持つこれまでのメディアにはない没入感によって究極のメディアになると言われていた。


しかし、VRデバイスが普及するペースは調査会社やVR関連の企業によって当時予想されていたよりもかなり遅い。VRユーザの数は増えつつあるものの、ゲーマーに限ってさえVRを体験したことがないという消費者が多いのが実情だ。


悲観しすぎず、かつ過大評価することなくVR技術の現状を確認しておきたい。


VR技術の普及


VRデバイスは機能を考えればお買い得?


 


期待を集めたVRデバイス


消費者向けのVRデバイスが登場したばかりの頃、VRは夢を実現させる技術と考えられていた。


周囲の状況を気にせずにバーチャルな世界に入り込むことのできるデバイスはテレビゲームの業界を一変させるだけでなく、あらゆるものをデジタルで置き換えてしまう可能性がある。かつてはSFの世界にしか存在しなかったものがついに現実になったと思われたのだ。


現実のVRデバイス


だが、実際には現在の技術でVRを使って可能なことは限られている。


ハイエンドデバイスは有線接続が必要なのでVR体験中のユーザの動作を制限してしまうし、そもそもトラッキング技術が対応可能なプレイエリアはそこまで広くない。モバイルVRは手軽でケーブルに悩まされることもないが、自分の足でVR空間を歩き回ることができず、手でVRオブジェクトに触れることもできない。


加えて、VRコンテンツも不足していた。


現在では各メーカーのストアやSteamVRで多くのVRゲームが公開されるようになっており、YouTubeやFacebookでも多数の360度動画を視聴できる。しかし、VRデバイスが登場したばかりの頃にはユーザを満足させるようなコンテンツが少なかった。


単純に数が少なかったことに加えて未完成のものやボリューム不足のものも多く、コンテンツの乏しさがVRデバイスを普及を妨げる一つの要因になってしまっていたのだ。


VRデバイスの変化


ハードウェアについて言えば、VR業界に大きな変化は訪れていない。


Gear VRやDaydream Viewは2017年版を発売・発表しているが、旧モデルからの変化は小さい。Gear VRに新たに追加されたリモコンを使う操作はDaydreamで2016年から採用されている操作体系だし、それぞれの性能も第一世代と比べてあまり変化していない。


HTC ViveやOculus Riftはまだバージョン2を発表していない。代わりに値下げが行われており、Oculus Riftはセール時であれば当初の半額で買えることもある。10万円程度という価格はVRデバイスの購入を躊躇わせる大きな要因となっていたので、実際にOculus RiftのセールによってSteamユーザにはRift使用者が増えているようだ。


VRコンテンツの変化


値下げを除いて変化の小さかったVRハードウェアに比べると、VRのソフトウェアは変化している。


初期のVRゲームには特定のプラットフォームに独占されたものが多数存在していたが、オープンプラットフォーム化が進んでいる。ハイエンドVRを対象にするコンテンツはマルチプラットフォームに対応するものが多く、Reviveのようなツールを使わなくても好きなVRヘッドセットで好きなVRゲームを遊べるようになってきた。


また、人気シリーズのVR版やボリュームのあるVRゲームも増えてきた。その分VRゲーム1本の価格は高くなる傾向にあるが、ユーザの満足度を高めることに繋がっているようだ。


ゲーム以外では、360度映像を撮影できるVRカメラの低価格化や編集ソフトの増加によって個人や小規模な団体が360度動画を作成するのも容易になっている。これを受けて、VRデバイスで視聴できる映像コンテンツも充実してきた。


「まだVRデバイスでやりたいゲーム、見たい動画がないから購入を見送る」としていた消費者も惹かれるコンテンツが出てきているのではないだろうか。


現在のVR


一家に一台VRヘッドセットの時代が来る?


いくつかのデータは、現在のVR技術が初期に比べてユーザに利用されるようになっていることを示している。


セッションの継続時間


長く遊べるゲームが良いゲームとは限らないが、つまらないと感じればユーザはすぐにVRアプリを終了させてしまうだろう。ユーザがVRアプリを開いている平均時間は彼らがどのくらいVRにハマっているかを見る指標になりそうだ。


ここでデータとして挙げられているのは、2016年にスマートフォンアプリで行われた調査の結果だ。スマホアプリの場合、ユーザがアプリを開いてから閉じるまでの時間は平均して5分だという。


一方2017年にMega Particleが行った調査によると、同社のVRポーカーアプリを使うプレイヤーは1セッションで平均30分プレイしていた。平均すると30分だが、セッション全体の3分の1は60分かそれ以上継続している。同じユーザを対象にしたものではないので正確なデータとは言えないが、スマートフォンのアプリに比べてVRアプリのユーザの方が一度に長時間アプリを利用する傾向にあるようだ。


この差異をもたらした理由として考えられるのが、VR世界への没入だ。


スマートフォンアプリの場合、ユーザはアプリを利用していても常にメールやSNSの新着通知を見られる状態だ。ワンタップでアプリを切り替えることができるので、通知が来ればそのアプリを開いてしまうだろう。


一方、VRアプリの利用中にはスマートフォンをチェックできない。VRの持つこの性質がアプリへの集中を促したのだろう。


各ユーザのプレイ時間


セッションの継続時間はユーザがスマートフォンとVRデバイスを利用するスタイルの違いを示しているが、詳細は判断できない。スマートフォンでは電車移動など短時間の暇つぶしにニュースやSNSのアプリを開くユーザも多いと思われ、アプリの平均利用時間を引き下げている可能性がある。


そこで、次に示されるのは各ユーザがゲームをどれだけプレイしているのかが分かるプレイ時間のデータだ。今度はカジノアプリではなく、『Rec Room』のデータである。Rec RoomはHTC ViveとOculus Riftの両プラットフォームで利用でき、精力的にアップデートも続けられているソーシャル要素を重視したVRアプリだ。


このアプリをSteam Spyでチェックすると、プレイ時間やライブラリに所有するユーザの数を確認できる。それによれば過去2週間での平均プレイ時間は1時間40分だ。


プレイ時間の平均値ではなく中央値で見た場合、過去2週間だと1時間だが全期間で見ると40分となる。これは、プレイ時間だけでなくユーザの数も急速に増加していることを示すものだ。


ゲームが繰り返しアップデートされていることに加えて、Oculus Riftのサマーセールなども関係しているかもしれない。Rec Roomは無料なので、PCベースのVRデバイスを購入したユーザの多くが一度試してみるのではないだろうか。


社会性の強さ


VRを使ったコミュニケーションに可能でこれまでのITを使ったコミュニケーションに不可能だったこととして、言外のコミュニケーション要素の伝達が挙げられる。


メールで伝えられるのはテキストだけだが、電話ならば声である程度感情を伝えることもできる。テレビ電話ならば表情を見ることができ、VRならば限定的にではあるが全身を使った表現が可能だ。この特徴により、VRではテキストチャットよりもコミュニケーションしやすくなる。


VRポーカーゲームの場合、ゲーム内で他プレイヤーとのコミュニケーションに積極的なプレイヤーほど長時間ゲームをプレイする傾向にあるという。彼らは、VRゲームを通して友人を作っているのだ。共通の趣味であるポーカーをすることもVRゲームに接続する目的だが、単に友人と会うことも彼らがログインする目的になっていると考えられる。


こうした社会性の強さはVRが他のメディアに対して持つ強みだ。


VRを愛するファンの存在


現状のVRに欠点があることは事実だ。VRヘッドセットは重いし、解像度ももの足りない。コンテンツは増えてきたが、それでもPCゲームや非VRの家庭用ゲームに比べればまだまだ少ない。


だが、そうした欠点があってもVRを愛しているユーザもいる。9月の末にもアップデートが行われた『Bigscreen』を継続的に利用する複数のユーザが週に20時間以上もこのアプリを利用しており、中にはこれまでに合計1,000時間以上もVR空間で過ごしたパワーユーザも存在する。


こうしたユーザの存在はデベロッパーの後押しとなるはずだ。


幅広いユーザがVRを利用している


VRデバイスの普及が進まず「ゲーマーしか使わないデバイス」「ITオタクだけが購入している」と指摘されることも多いが、実際には多様なバックグラウンドのユーザがVRデバイスを利用している。


確かに偏りは存在するものの、老若男女あらゆる人がVRデバイスでポーカーアプリを利用しているのだ。しかも、彼らの多くはいわゆるハイテク愛好家ではないという。


彼らがVRを利用するようになったきっかけはギフトとして(無料で)VRデバイスを手に入れたためと答えている。「無料で」となると、おそらくGear VRがVRへの入り口となっているのだろう。


無料のヘッドセットをもらうまではVRなんて聞いたこともなかったというユーザも多いが、中には後にHTC ViveやOculus Riftを購入したユーザもいる。


モバイルVRもVR体験を提供できる


スマートフォンを使うモバイルVRのトラッキング性能には限界があり、PCベースのハイエンドVRデバイスのようにユーザ自身が前後左右へ移動することはできない。だが、だからといってモバイルVRが本当のVRでないわけではない。


もちろん常にハイエンドVRと同じ体験を提供することはできないが、コンテンツの種類によってはモバイルVRでもハイエンドVRでも変わらない体験が可能だ。例えばポーカーでは、ユーザがゲーム中に席を離れることがないので身体を前後に動かす必要はない。


Mega Particleのポーカーアプリの場合、Gear VRユーザとOculus Riftユーザで大きくプレイ時間が異なるということはないようだ。モバイルVRデバイスからでもハイエンドVRデバイスからでも、同じようにポーカーを楽しんでいる。


楽観的すぎた予測


VRに対して厳しい見方が広がっている理由がVRデバイスの販売台数であるなら、販売台数が予測よりも少ないことは否定できない。期待されていたほどVRデバイスを保有する家庭が増えていないのは事実だ。


だが、予測自体が急成長の願望を込められたものになってしまっていた。技術の発明から普及までの期間は年々短くなっているが、現在は当たり前に使われている携帯電話でさえ保有率が3割に達するまでに10年を費やしているのだ。その後、急速に保有者が増えた。


どんな技術も、初期採用はゆっくりと始まる。技術の採用は直線的にではなく指数関数的に進むため、ある程度まで普及すると一気に拡大するのだ。


現在のデバイス普及率が低いことを理由にVRは失敗だったと判断するのは早計だろう。


 


過去の予測はVRの爆発的な普及が早い時期に来ると見込んだものだったが、実際にはまだ少しずつ広まる段階を超えられていないVR技術。しかしアプリの利用時間は伸びており、モバイルVRデバイスはゲーマーに限らず幅広いユーザ層に受け入れられつつあるようだ。


ハイエンドVRデバイスの価格改定も続いており、2017年の後半にはさらにVRデバイスの普及が進んでいくだろう。携帯電話のように10年は待たなくても、2018年以降急速なVR技術の普及が始まるかもしれない。


 


参照元サイト:Upload VR


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 VR技術は本当に死んだ技術になってしまったのか?