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VRに興味があるヒトならば、Palmer Luckey(パルマ-・ラッキー)氏の名前を聞いたことはあるだろう。何を隠そう同氏はOculus Riftの生みの親である。もっとも、現在同氏はFacebookに買収されたOculus社をすでに退社し、より自由な立場からVRに関わっている。最近では、VRソーシャルアプリ「AltspaceVR」が資金難によりサービス停止する事態に陥った時、「私はAltspaceVRを救うために動くべきか(可能とは限らない)」とツイートしたことで耳目を集めた。
そんな同氏は先月開催された東京ゲームショーに合わせて来日し、2017年9月21日にAmebaTV FRESH!が配信した生放送番組「AVRS HentaiVR Pool Party with Palmer」に出演した。
同番組ではVRポルノの未来についてディスカッションがなされたのだが、番組の最後に行われた質疑応答において、会場から劇場版「ソードアート・オンライン」に登場する「オーグマー」は今世紀中に実現するのか、という質問があがった。その質問に答えるなかで、同氏は以下のように発言した。
わたしが現在実験していることのひとつに、VRインプラントがあります。それは神経系を刺激して、ユーザが現実に触ったり動いたりしなくても、そうした感覚を生み出すものです。
しかし、たとえVRインプラントが実現したとしても、VRヘッドセットを装着し続けるでしょう。
というのも、視神経とは眼球から脳への神経のつながりと考えることができますが、非常に情報量がおおく、広い帯域幅となっています。わたしが思うに、VRインプラントは高性能なVRヘッドセットに比べて(大容量のデータを送信できないので)いい方法とは言えません。
以上の発言で言及されている「VRインプラント」とは、ヒトの体内に直接埋め込むバーチャルな知覚を発生させるデバイス、と理解してよいだろう。こうしたVRインプラントを視覚的に表現したものと言えば、映画「マトリックス」シリーズにおける後頭部に接続するコードだろう。
VRインプラントとは、人工的な神経回路を構築してバーチャルな知覚を発生させるデバイスである、と解釈できる。このように解釈した場合、一見するとVRインプラントはVRヘッドセットより「リアルな」知覚を発生させることができるように思われる。
同氏が言わんとしていることは、少なくとも現在実現可能なVRインプラントが構築するバーチャルな神経回路は、リアルにヒトに備わった神経系よりは優れたものではない、というころだろう。そして、リアルな神経系を刺激するVRヘッドセットのほうがリアルな感覚をバーチャルに再現できる、というわけなのだ。
VRインプラントとVRヘッドセットを比較することで明らかになった神経系とVRに関する考察は、実のところ、視神経に限って見られるものではない。現在もっとも実用化が遅れている触覚再現デバイスあるいはハプティック・コントローラの構造にも、ふたつの異なったアプローチが存在しているのだ。
VRインプラントによるバーチャルな知覚の発生は、言わば人工的に神経系を再構築するアプローチと言える。このアプローチは「神経制御型」と呼ぶことができるだろう。
対して、VRヘッドセットが実現しているバーチャルな知覚の発生は、ヒトのリアルな神経系に対してリアルなモノと錯覚するような外的なオブジェクトを与えるアプローチである。つまり、ヒトをとりまく環境を制御してバーチャルな知覚を生み出しているので「環境制御型」と言うことができるだろう。
本メディアでは、すでに以上のふたつのアプローチを代表するようなハプティック・デバイスを紹介している。
以前に本メディアで紹介したドイツのポツダムにある研究施設Hasso Plattner Instituteが公開した触覚を再現する試みは、典型的な「神経制御型」のハプティック・デバイスである。
このシステムでは4種類の筋肉(両側なので最大8箇所)を同時に刺激することで、VR空間の状況に合わせた複数の力を再現することが可能になっている。手首や肘を曲げさせる、肘を伸ばさせる、腕を開かせるという動きの強弱と組み合わせにより、物体の抵抗や重力を再現する。
Palmer Luckey氏の指摘が正しいとするならば、同デバイスが生み出す触覚はリアルに手や腕を動かして得られる触覚より弱く、とても「リアル」とは言えない、ということになるだろう。
「環境制御型」のハプティック・デバイスでもっとも急進的なのが、MITが発表したReVealシステムだ。
本メディアでも度々紹介しているハプティック・デバイスはたいていはグローブ型をしており、そのグローブから何らかの刺激を与えてバーチャルな触覚を実現するのが主流だ。
ReVealシステムが急進的なのは、VRヘッドセットから見えているバーチャル・オブジェクトをリアルに実現しようとするところだ。つまり、バーチャル空間で丸いボールに触っているなら、実際に丸いボールを作ってしまおう、というわけなのだ。
同デバイスの設計には、実は元ネタがある。それは、同じくMITで研究開発を進めているTangible Media Groupの一連のデモだ。とくに「TRNSFORM」はReVealシステムの直接的な祖先である。ちなみに、Tangible Media Groupを率いているのは日本出身の石井裕氏である。
同デバイスは、リアルな触覚というPalmer Luckey氏が言うことろの「広い帯域幅」を活用しているので、もっとも急進的な「環境制御型」のハプティック・デバイスと言えるのである。
ハプティック・デバイスが実用化するならば、そのアプローチは「神経制御型」か「環境制御型」のどちらだろうか?Palmer Luckey氏の見識に従えば、おそらくは「環境制御型」の発展形のように思われる。その発展形には、もしかしたら「神経制御型」の機構も組み込まれるかも知れない。
いずれにしろ、今後ハプティック・デバイスのニュースに接する時に、デバイスのアプローチが「環境制御型」か「神経制御型」かを見分けることは、そのデバイスの価値を測るうえに有効であろう。
ソース:UplaodVR
https://uploadvr.com/palmer-luckey-experimenting-nerves/
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