ロボットアームをVRで操作する


VR技術の分かりやすい利用法はVRゲームやVR映画といったエンターテイメントコンテンツの視聴だが、VRの用途はそれだけにとどまらない。


VRヘッドセットを付けてカメラの捉えた映像を見ながらであれば、自分から離れた場所にあるロボットアームを操作したり、ドローンを操縦したりするのも簡単になる。この方法を使えば、テレビゲームをするような感覚でロボットを操縦して仕事をすることもできるようになるかもしれない。


VR技術を遠隔操作に使う方法は、複数の企業や団体で研究されている。その中には、宇宙飛行士による船外ロボットアームの操作に利用したいNASAや製造業で使われるロボットの改善を考えるMITも含まれる。


MIT CSAILの研究



MITのCSAIL(マサチューセッツ工科大学のコンピュータサイエンス・AIラボ)では、VRヘッドセットにゲーム機以上の可能性を感じている。このデバイスを使うことで、製造業に使われるロボットのコントロールを容易にできるのではないかと考えているのだ。


ロボットのコントロールを簡単に


ハンドトラッキングコントローラーを使うVRゲームの操作は、ゲームパッドを使う従来のテレビゲームの操作に比べて直感的だ。


普段からゲームパッドを使い慣れたゲーマーにとっては息をするのと変わらないゲームパッドでの操作も、初めてゲーム機に触れる初心者にとっては違和感がある。しかし、VRヘッドセットとハンドトラッキングコントローラーを使う操作は自然であり、より馴染みやすい。


この特徴は、工業用ロボットの操作をマスターするためにかかる時間を短縮してくれる可能性がある。従来よりも従業員がロボットの遠隔操作を覚えるために要する時間が短くなれば、企業にとっては教育コストの削減となる。


2つの技術の融合


CSAILの研究するVRでロボットを操縦するアプローチは、既に製造業の現場で採用されている2つの技術を組み合わせたものだ。


一つは、遠隔操作が可能なロボットだ。人間がロボットの近くに行って直接操作するのではなく、離れた場所から制御することで危険な場所での作業を安全に進められるといったメリットがある。現場に人が入らなければ、万が一の事故の際にも従業員に危険が及ぶことはない。


もう一つは、VRだ。VRは既に製造業の世界で採用が始まっており、プロトタイプを製造するためのコストを節約したり、エンジニアのトレーニングに使われたりしている。既に有用な技術ではあるが、遠隔操作と組み合わせることで実在するものにVR空間からアプローチすることも可能となる。


システムの仕組み


CSAILのシステムで行われていることは、単純だ。


ロボットに搭載されたセンサーが2Dの映像を撮影し、オペレータの見ているVRヘッドセットのディスプレイに表示する。オペレータはVR映像でロボットの置かれた状況を把握し、ハンドトラッキングコントローラーを使ってロボットアームを操作する。


3D環境を再現しているわけではなく2Dで映像を撮影するが、オペレータのそれぞれの目に異なる映像を見せることで自然に奥行きが知覚される。これは人間の左右の目が少し異なる角度からものを見ることで立体感を得ているのと同じ状況であり、コンピュータによって作られた不自然な3Dシミュレーションに比べてVR酔いのような不快な症状が軽減されるという。


ロボットとVRを使う製造業


TelexistenceのTelesar VはVRによって遠隔操作できるロボットだ


VRコントロールの用途


Baxterと呼ばれるCSAILのロボットをこのVRシステムを使って操作するのは、Baxterの頭部に乗り込んでいるような感覚だという。実際には離れた場所から遠隔操作しているにも関わらず、VRを使うことでロボットと同じ視点で周囲を見ることが可能になる。


Baxterは移動するわけではなく腕でものを掴む・動かすといった動作のできるロボットだが、オペレータがその場に居ると感じられる特徴は無人飛行機や遠隔で運転できる自動車のコントロールにもVRが有効であることを示唆している。


「ゲームが得意」という長所


CSAILのアプローチはロボットをコントロールする方法としては独特なものだが、他のより複雑な方法に比べても有効性は高いようだ。実験の参加者は、指定された課題をより上手くこなすことができたという。


もともと持っている手先の器用さや空間認識力もロボットの操縦スキルを左右する要素だが、この試験ではゲーマーが特に上手くBaxterを扱うことができると判明している。普段から画面のキャラクターをコントローラーで動かすことに慣れている彼らにとって、VR映像を見ながらロボットを動かすのは簡単なことなのかもしれない。


この技術が採用されるようになれば、ゲーマーの就職口としてVRロボットのオペレーターという道が開けるかもしれない。CSAILも、その数が増えている若い失業者の新しい仕事になる可能性があると考えている。


 


ロボットには、生身の人間よりも力が強い、有毒なガスに晒される環境でも防護服無しで仕事ができるといった強みがある。しかし、効率よく働いてもらうためには高い操縦技術を持ったオペレーターが必要だ。


VRで操作する技術が実際に使われるようになれば、簡単な訓練でゲーマーを優秀なオペレーターへと育てることができるかもしれない。これまで業務で役に立つことが少なかった「ゲームが上手い」という個性が就職時の強みになる時代が来るのだろうか。


 


参照元サイト:Tech Crunch

参照元サイト:Uber Gizmo


Copyright ©2017 VR Inside All Rights Reserved.

情報提供元: VR Inside
記事名:「 ゲーム感覚で働ける時代が来る?ロボットの操縦にVRを使うアプローチ