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VRはまだ一般に普及したとは言い難い状況ではあるものの、VRコンテンツの手法にはある程度の傾向が見え始めている。
そこでこの記事では、VRコンテンツの表現形態についてご紹介したい。
新しいコンシューマーゲーム機がリリースされた際には、そのゲーム機特有の機能を使ったコンテンツが多数リリースされる。
例えば、スーパーファミコンがリリースされた際には、画像の回転や拡大縮小といった機能を使ったコンテンツが多数リリースされたし、プレイステーションやセガサターンの時代には3Dポリゴンを使ったコンテンツが多数リリースされた。
この時、最初は「新機能を使うこと自体に意味がある」かのように「とにかく新機能を組み込む」というコンテンツが多い。
このため、体験してみると新機能の使い方がとってつけたように感じられてしまうことも多々ある。
VRもそうで、2016年にリリースされたVRコンテンツの多くは、VRであることを考慮に入れなければ、特に価値が見いだせないというものも少なからず存在した。
これはつまり、VRという新機能のインパクトに頼ったコンテンツが多かったということ。
しかし、2017年に入って、仮にVRでなくても十分価値があるが、VRによってその価値が増幅されている…つまり、VRのインパクトを利用したコンテンツが増えてきているということだ。
そこで、VRの表現形態ごとに、どのようなコンテンツの作り方がなされているか、事例を見て行きたい。
VRコンテンツの主流は、ゲームといっていいだろう。
中でも話題を集めているのが、プレイステーションVR(PSVR)で、2017年10月に発売されて以来、現在でも品薄状態が続いている。
PSVRの発売当初に注目を浴びたのは「サマーレッスン」。
宮本ひかりちゃんという女子高生の家庭教師として過ごす日々を描いたVRゲームで、ジャンル的には育成シミュレーションと言える。
単体の育成シミュレーションとして見た場合、ボリューム不足な面を持っているが、その場に本当に宮本ひかりちゃんがいるかのように感じられるVRならではの魅力によって根強いファンを獲得した。
ただ、PSVRの名声を大きく高めたのは、2017年1月に発売された「バイオハザード7」だろう。
「バイオハザード7」は人気サバイバルホラーゲーム「バイオハザード」シリーズの最新作で、これまでのシリーズとはテイストを変えた新鮮さと、新鮮さがもたらす新たな恐怖が話題となった。
「恐怖」とは、視覚・聴覚といった人間の感覚がもたらす感情の揺さぶり。
このため、これまでのデジタルエンターテインメントよりも強烈に人間の感覚へ訴えかけることが可能なVRモードでは、「プレイしたくなくなるほど怖い」と感じた人が続出。
口コミによって、さらに人気がアップしていくという好循環を生んだ。
エンターテインメントによって重要な「体験を通じて感情を揺さぶる」という部分が、VRのもたらす臨場感によって増幅されるため、インパクトあるVRコンテンツを作るためには、「いかに感情を揺さぶる体験を作り出すか?」が大切ということを思い知らせてくれるタイトルだ。
VRゲームは全般的に、既存のパッケージソフトの延長線上で売り切りのダウンロード課金形式が定着したため、マネタイズ方法も見えてきた。
今後も順調に伸びていく表現形態といえるだろう。
VRゲームと並んで体験ユーザーを増やしているのが、VR動画。
ここでは、360°カメラによって撮影された実写動画のことをVR動画と呼ぶことにする。
VR動画は当初、ジェットコースターやスカイダイビング、スキューバのように、現実ではなかなか体感できないけどできれば体感したい…という題材のものが多かった。
やがてDMMがVR動画の配信を開始すると、新しいデバイスの普及には無視できない存在である、アダルトVR動画が一気に普及。
DMMによって有料VR動画という形でマネタイズ手段が構築された点も見過ごせない。
現在では、新聞社がVRを使ってニュースやドキュメンタリーを流すなど、一般の映像コンテンツの新たな配信手段として見いだされ始めている状況だ。
VR動画は360°カメラがあれば撮影できるため、VRゲームを開発する場合と比較すると容易に制作が可能。
このため、レストランの店舗紹介映像や、求職者向けのオフィス紹介映像といったプロモーション映像にも活用がはじまっている。
こちらも、今後需要が伸びていくのは確実と思われる。
360°カメラがあれば、動画はもちろん、写真のような静止画像もVRに対応する形で撮影が可能だ。
VR静止画は既に様々なビジネスに活用されており、特に動画である必要の薄い、不動産のVR内覧サービスにおいてはいち早く普及が進んだ。
静止画は動画と比較して、画像の加工もプログラムによる実装も容易なので、ローコストで制作が可能だ。
一方、静止画では、コンテンツとしての魅力は薄いため、不動産の内覧サービスのようなプロモーション用途でなく、コンテンツそのものの価値でマネタイズする…というのは難しい状況といえる。
作品数は徐々に増えてきてはいるものの、まだマネタイズに成功しているとは言い難いのがVRアニメだ。
VRアニメは、VRに対応したアニメーション。
VR動画との違いは、VR動画が360°カメラによって現実世界を撮影しているのに対して、VRアニメは3DCGによって架空の世界を描いている点。
3DCGを使うため、制作はVRゲームと同様、モデリングした3DCGにアニメーションを設定し、声優による声の演技をあてる…という形で作っていく。
VRゲームとの違いは、プレイヤーが能動的に世界に影響を及ぼせるか?という点。
VRゲームであれば、目の前にいるキャラクターと会話したり、戦闘をしたりということが可能だが、VRアニメの場合は予め定まっている筋書きのもと進行していくため、プレイヤーはそもそも行動することができない。
「それならVRである意義が薄いのではないか…?」と思うかもしれない。
しかし、「INVASION! 360 VR Full Episode」などは、このプレイヤーが行動できないということを逆手に取った実にうまい演出をしており、VRアニメならではの表現がまだまだ存在しているのだ…と実感させてくれる。
これまでは動画コンテンツで収益を上げる方法が定着していなかったためVRアニメの数も少なかったが、この先DMMのようなVR動画でマネタイズ可能なプラットフォームが普及すれば、VRアニメの数も増えていくだろう。
最後に紹介したいのが、VRと小説を組み合わせたVRノベルだ。
7月にリリースされた「FullDive novel: Innocent Forest」は、VRとライトノベルを組み合わせたコンテンツ。
VRゲームやVR動画といったものがあるのに、わざわざVRで小説!?と思う人もいるかもしれない。
しかし、体験してみると、VRはこれほど読書と相性がよかったのかと思わせる、完成度の高い表現手法だ。
というのも、誰しも読書をする際、本の内容に相応しい環境を希望するハズ。
うるさい環境より静かな環境が望ましいのは当然として、ホラー小説であればちょっと薄暗い場所で読んだり、お洒落なバーが舞台の小説であればバーで読んでみたり…と、環境にこだわることで読書のおもしろさは何倍にも膨れ上がる。
「FullDive novel: Innocent Forest」は、VRを最高の読書環境に活かすことで、読書の楽しさを最大限増幅することに成功した事例だ。
今後もこの、VR×読書という事例は、増えていくんじゃないだろうかと感じさせてくれる。
VRの表現形態がいろいろ出現し、そろそろVRの表現が次の段階に進みそうな予感を覚える。
次の段階というのは、だれもがVRに慣れ、VRであることは当たり前、VRだからといって特に珍しくはない…という段階。
今からVRコンテンツを作るのであれば、この次の段階でどんなコンテンツが刺さるか?をイメージしておくのが重要ではないだろうか。
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