- 週間ランキング
「シミュレートされた世界」を題材に据えたSci-Fi作品が登場してきたのは1950年代初頭からだ。
たとえば1951年にレイ・ダグラス・ブラッドベリが発表した短編『The Veldt』(『The illustrated man』に収録、邦題『刺青の男』)では、2組の子供達とバーチャルな保育園が作品のテーマとなっている。
また1955年にフレデリック・ポールは『The Tunnel Under the World』(邦題『幻影の街』)を発表したが、このストーリーの中では同じ日を何度も何度も繰り返し追体験し続ける男が登場するのだ。
このようにVRはSci-Fi作者にとって、おおよそまだ他のフィクションジャンルによって開拓されたことがない、未知の領域が広がるテーマだった。
しかし「現実と虚構の区別がつかない世界」に対する想像力は、その世界の中で巧みに操られる登場人物を作者に描かせるに留まらなかった。
翻っては、より根本的な疑問……「現実とは何か?」という問いを作者、ひいては読者に喚起せしめるものでもあったのだ。
以下ではそうした「現実への問い」を読者に提示するようなSci-Fi小説を紹介していこう。
初めは1973年にジェイムズ・ティプトリー・Jrが発表し、1974年にはヒューゴー賞も受賞した『The Girl Who Was Plugged In』(邦題「接続された女」)。
この作品中には、VRそのものは直接として登場することはないのだが、後続のサイバーパンクジャンル小説の先駆者として多大な影響を与えた点は特筆されるべきだろう。
作中世界では遠隔操作で動かせる人工身体が広告産業で使用されている。そして世界を支配している企業は、この「完璧な」人工身体をメディアに登場させ、彼らに製品を使わせることで、消費者に商品を買うよう駆り立てていたのだ。
さて、この人工身体はこれを取り巻く人々にとってはシミュレーションされたボディとして存在している。
一方で人工身体に接続されている人間にとっても、人工身体をつうじて「仮想的な」経験を獲得することになるのだ。
主人公である、醜い外見の少女フィラデルフィア・バークも自殺を図った後、この人工身体のお陰で「仮想的な」第二の人生を得ることができたのだが……というのが話の主軸となっている
2番目はウィリアム・ギブソンの『Neuromancer』(邦題『ニューロマンサー』)。
インターネットの本格的な普及が始まる前に書かれたにも拘らず、サイバーパンクの古典中の古典として数多のSci-Fiファンを熱狂させてきた小説だ。
主人公ケイスはマトリックス空間から切断されたハッカー。彼は寿命と引き換えに、謎の男アーミテージから仕事を引き受けることになり、物語が展開していく。
ところで執筆に先立ってギブソンはバンクーバーのゲームアーケードで衝撃的な経験をしたのだという。
「こうした初歩的な形態のゲームにでさえ、これらで遊ぶ子供達は肉体的に巻き込まれている。つまり子供達はゲームの中、機械の記号的な空間の中に入りたがっているように私には見えた。現実世界は彼らから消え去っていたのだ」
もちろん『Neuromancer』は世界で初めてデジタル世界を描き出したフィクションというわけではない。たとえば既に1982年には映画「Tron」が公開されている。
しかし説得力ある文章で「現実世界」とゲームのような「バーチャル世界」を往来する人々の姿を描いた、その功績は色褪せることはないだろう。
最後は『Snow Crash』(邦題『スノウ・クラッシュ』)。1992年にニール・スティーヴンスンが発表した、本格的な(ポスト)サイバーパンク小説だ。
舞台は21世紀のロサンゼルス、サイバースペース「メタバース」のプレイヤーである主人公のヒロ・プロタゴニストは「スノウ・クラッシュ」と呼ばれる危険性の高い新しいドラッグをめぐる事件に巻き込まれていく……というのがおおよその筋書きだ。
『Snow Crash』はギブソンが作り上げたサイバーパンクの雛形を受け継いでいる。この世界においてサイバースペースは逃避のための場所であったり、コマースがおこなわれる場所でもあるし、また現実世界では得られないような代替物を提供してくれる場でもある。
つまり、ただ単にバーチャル世界を提示するだけでなく、そこが「現実世界の人々にとってどのような空間となるか」、「なぜ人々がバーチャル空間を使いたがるのか」についての基本的なアイデアが提示されているのだ。
上記の例示から分かる通り、現在のVR技術に対してどのような用途があり、また需要があるのかを考える上で示唆に富む小説であるといえるだろう。
参照URL:
UPLOAD VR
https://uploadvr.com/look-back-literature-predicted-rise-modern-virtual-reality/
Copyright ©2017 VR Inside All Rights Reserved.