- 週間ランキング
しかし平時には災害からの避難行動について正しく学習していたとしても、果たしてそれを非常時下で適切に実践できるか……多くの人が不安に思ったことがあるのではないだろうか。
たとえば燃え盛る火に囲まれながらも、パニックにならずに落ち着いて避難できるだろうか……あるいは本震が収まった後、余震の危険性に十分警戒するほどに心の余裕があるだろうか……など。
不安を払拭し、緊急事態下でも冷静に対処できるようにするためにも、防災訓練には一定の「リアリティ」が求められる。
そしてこうした「リアリティ」のニーズに応えられるのは、VR技術をおいて他にない!
現段階で既に、防災VRコンテンツは多数リリースされている。
本記事では災害の種別毎に、それらのラインアップをご紹介していこう。
平時から火災発生時の避難経路を確認しておくことはもちろん大切だ。しかし実際に火災が発生した際には立ち込める煙に視界が遮られ、スムーズに避難出来ないかもしれない。
アイデアクラウドの提供する『防災VR/火災編』では、そのような煙で見通しの悪い状況下でも安全に部屋を脱出する方法を学べる。
体験者は火災の発生した部屋からスタートし、ランダムで現れる扉を時間内にタッチすればクリアとなる。
しかし動画で紹介されている通り、体験者が立っている状態では視界は煙で覆われてしまっていて何も見えない。そのため体験者は視界を確保するためにしゃがみ込んで進まなければならない。
このように非常時の対応方法を、VR体験を通じて効果的に学ぶことが出来るのだ。
『Escape My House』はニュージーランドの消防隊が公開した360°動画だ。
火災の危険性を市民に広く伝えるために制作されたというこの動画だが、特徴として動画内に度々テロップが登場する。
テロップは避難時のポイントや、災害時に危険性の高い場所を視聴者に伝えるレクチャーの役目を果たしている。これによって体験者は、炎の燃え盛る映像と併せて避難時に意識するべき重要なポイントを学ぶことが出来るのだ。
ちなみに安価に購入が可能なVRヘッドセット、Google Cardboardに対応している。こうした工夫でコンテンツに対する市民のアクセスビリティを高めているようだ。
『防災VR/火災編』を提供するアイデアクラウドが開発したコンテンツ。
地震が発生した際の初期行動と、揺れが収まった後の余震への備えと避難方法を学ぶことが出来る。
揺れはもちろん、家具が倒れてくる様子も再現されている。動画中では部屋の中だけしか映されていないが、実際には家の外にまで出ることが可能で、街が倒壊した様子なども再現されているようだ。
こちらはKDDIが提供している運転士を対象とした地震対策用VR。JR西日本和歌山が、南海トラフ巨大地震やそれに伴う津波の発生を想定し、訓練のために導入することを発表した。
紀勢線の区間を実際に走行した運転士の視点が360°動画で撮影されている。見慣れた光景を元にした映像を使用することで、運転士の訓練効果を高めることを狙っているという。
アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)がHTC Vive向けに開発したアプリだ。
ユーザーは90センチほど水没した家の周りを歩くことが可能で、アプリを通じて体験者は洪水発生時の対策などを学べる。
ただし『Immersed』は個人の防災に主眼を置いたものというよりは、主に地域社会ぐるみで洪水対策を考えるという機会を創出するためのアプリとして制作されたようだ。
つまり『Immersed』の体験がきっかけで、地域の排水システム改善が議論されたり……といった効果をねらった様子だ。
当然ながら、VR防災コンテンツが既存の防災訓練を一新する……というわけではない。
自宅や学校、職場での避難経路を平時に確認する、などといった基本的な防災対策と組み合わせて使用されるのがベストだ。
だが冒頭で述べたように、訓練プログラムに上手くVR技術を取り入れられたならば、十分な訓練効果の向上が期待できるだろう。
残念ながら少なくとも国内を見る限り、現段階でVR防災コンテンツの認知度はさほど高くない。
しかし個人的には、内容の重大性から言っても行政主導での開発プロジェクトなどが存在してもよいのではないだろうかと思う。
たとえば上記で紹介したように『Immersed』はFEMAによって開発されたコンテンツだ。
一方、日本の行政が同種の防災VRコンテンツを開発したという報告はまだ存在しない。
もっとも、そもそも防災VRを体験することで十分な訓練効果が得られたというエビデンスが確認されなければ、公的機関も手を出しにくいということは事実だ。
単にVRを使った「実験的試み」というだけで終わらぬよう願いつつ、今後の展開に期待したい。
Copyright ©2017 VR Inside All Rights Reserved.