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パキスタンで生まれ育ったAsad J. Malik氏が生まれた病院は、2011年にビン・ラディンがアメリカ軍特殊部隊によって殺害された場所から5分と離れていない場所にあった。同氏の幼少期は、常に紛争による暴力にさらされていた。
成長した同氏は、アメリカに渡りHoloLensを用いた作品を発表するようになった。そんな作品のなかにはハリーポッターをテーマとしたものもある(下の動画を参照)。
ところで、いまだにテロとの戦いが続くなか、幼少期を紛争地域で過ごした同氏から見ると、アメリカで報道される紛争地域の光景や戦争が引き起こしている出来事は、実際に同氏が体験したものとは著しく異なっていると感じていた。そこで同氏は、HoloLensを使って戦争が引き起こした真実を伝えることを決意した。そのようにして制作されたコンテンツが「Holograms form Syria」である。
同コンテンツを紹介している同氏が制作したウェブサイトには、以下のようなメッセージが掲載されている。
私がアメリカに渡った後も、戦争のイメージが私につきまといました。
その一方で、アメリカではシリアで撮影された遺体が、猫の動画、トランプ大統領についてのパロディー動画、美しいカーペットの動画広告が次々とながれるニュースフィードのなかに現れています。アメリカはいまだに戦闘状態にあるのに、目にするものは戦争とは全く違うものなのです。
アメリカには、少なくとも本土には本当の戦争というものはありません。空にドローンは飛行していなく、街にはテロの恐怖がなく、暴力から身をひそめる必要もありません。
以上のように「本当の戦争」と「メディアが伝える戦争」が著しくかい離しているなか、同氏が制作したコンテンツは、既存メディアが報じた戦争に関する画像をHoloLensで投影する、というものであった(以下の動画参照)。
HoloLensで戦争に関する画像を見せる試みは、既存メディアによる報道では体験することができないふたつの効果があった。
ひとつは、画像を「等身大」で見せることが可能となったことだ。つまり、暴力に苦しむヒト、あるいはテロリストをちょうど目の前で見るかのように、実在しているのと同じサイズで見ることができるのだ。
もうひとつの効果は、戦争というアメリカ本土においては紛うことなき非日常的な光景を、ありふれた日常の光景のなかで再現できることだ。
以上のふたつの効果によって、「戦争」という非日常を日常の景色のなかでリアルに再現し、視聴者に体験させることに成功したのだ。
同作品がはじめて公開されたのは、アメリカ・バーモンド州のベニントン大学であった。同大学のロビーでHoloLensを装着して体験できるようにしたのだが、同コンテンツを体験した学生のなかには、「日常」のなかにリアルに再現された「戦争」にあまりにショックを受けて、しばらくロビーを見ることができなったヒトもいた。
HoloLensあるいはARテクノロジーを活用したジャーナリズムの事例は、本メディアでは本記事が伝えた「Holograms from Syria」がはじめてである。一方、VRを活用したジャーナリズムの事例は豊富にあり、こうしたジャンルは「イマーシブ・ジャーナリズム」と呼ばれている。
イマーシブ・ジャーナリズムの手法を使って、シリアの惨状を報じた事例として本メディアでも以前に紹介した「Nobel’s Nightmare」がある。
同動画は「SMART News Agency」という通信社が制作し、Youtubeで閲覧することが可能だ。
シリアの崩壊した建物の状況や、逃げ惑う人々の姿が撮影されており、スマホVRゴーグルで鑑賞すると、現地の悲壮感や無力感、不安感といったものをまざまざと実感させてくれる。
「戦争」という現在の日本においては想像することが難しい「非日常」でも、VRだと「これは間違いなく地球のどこかで起きている現実なのだ」と認識させるパワーを持っている。
ARより時系列的に早く誕生したVRは、以上のようにジャーナリズムにも応用されている。VRに対して後発のARによるジャーナリズムは、むしろこれから試みられるだろう。
「Holograms from Syria」公式サイト
https://1ric.com/work/holograms-from-syria/
HoloLensを使ったジャーナリズム「Holograms from Syria」を紹介したVRScoutの記事
https://vrscout.com/news/holograms-from-syria-hololens/#
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