ヘルスケア業界のVR/AR/MRの導入は、昨今では既に珍しくなく、多数の導入事例が紹介されている。


手術の事前シミュレーションによる精度向上や、医学生の教育を目的にした手術現場のVRライブストリーミング配信、恐怖症やPTSDの治療、患者の直観的な理解を促す3DデータのAR表示など、その用途は様々だが子供向けにもこのテクノロジーは活用されている。


多くは子供の不安緩和を目的にしており、MRIの受診や予防接種など、今まで体験したことがない、または一度経験して痛みを感じ、怖いイメージを持ってしまった子供の恐怖感をVRを使って和らげるというものなのだが、既に海外では実施結果が報告されており、予防接種の事例をあげると、予防接種を行った子供の実に48%は痛みが和らいだと感じたようだ。


このように ”不安や痛みの緩和” にも一役買っているXRテクノロジーだが、日本でも同様の目的で小児歯科治療へのVR導入を進める企業がいるのをご存知だろうか?


本記事では、日本の小児歯科治療にVRを導入しようとしている株式会社BiPSEE 代表取締役 CEO 松村 雅代氏にお話を伺ってきたので紹介する。


PROFILE



松村 雅代氏


心療内科医。筑波大学卒業後、㈱リクルートを経て、1993年Case Western Reserve University(米国)でMBAを取得。米国医療系IT企業Skila日本支社代表等を経て、2002年岡山大学医学部に編入。2006年医師国家資格取得。岡山大学病院・横浜労災病院にて心療内科専門研修を修了(2011年)。㈱NTTデータ等で産業医を務める一方、2014年より都内医療機関にて成人発達障害専門外来を担当。2016年4月発達障害のためのプログラミングスクールGIFTED ACADEMY立ち上げに参画。2017年6月より現職。


 


5人がかりで対応しなければいけない小児歯科治療



松村氏曰く現在、小児歯科では子供の歯科治療を円滑に行うために、TSD法(※)という恐怖心を克服させる手法が用いられているが、コストとかなりの時間が取られてしまうため、診断数が限られてしまうという問題があるようだ。


また、実際の治療を始めると泣き喚き、暴れ出す子供も少なくはなく、その場合、大人3~5人がかりで子供を押さえつけながら治療する事になるため、自ずと治療の精度も落ち、また1人当たりに稼動する人件費が一気に増えてしまうという問題もある。


押さえつけること自体に不快感を感じる人も少なくないし、子供自身も取り押さえられながらの治療でトラウマになってしまうリスクもあったりと、意外にも小児歯科には問題が山積み状態のようだ。


※TSD法とは?

話す(Tell)、見せる(Show)、行う(Do)の頭文字を取ったもので、子供の恐怖や不安を段階的に見せたりた、体験させることで解消する方法。


話す(Tell):これから何を、どのような流れで行うかを説明

見せる(Show):用いる器具を見せ、試させる

行う(Do):鏡で見せながら、実際に治療する


 


視線誘導技術と歯科用HMDで安全な治療環境を作る



このような山積みの問題を解決するため、BiPSEEが開発しているのがVRにより円滑な治療を促す「バーチャル・プレパレーション」だ。


プレパレーションとは、小児科の治療に先立ち、患者である子供に画像や映像を使って説明し、安心して治療に臨める状態にすることを指しており、既にタブレットなどを用いたサービスを導入している歯科医院もあるようだが、やはり子供の顔が動いたり、関節視野に治療器具が見えてしまい、泣いてしまったりと、万全ではない。


そこで同社は歯科用HMDを開発し、子供にVRヘッドセットを装着させたまま、治療を行う新たなアプローチを考えた。


 


360°ではなく、ピンポイントに画像を投影する


頭を動かすと、画像が見切れてしまい、映像が見えなくなるため、子供は頭をなるべく動かさないように。


コントローラー側で映像の位置を変更できるので、安全に子供の頭の位置を変えられる


 


360°全方位に映像が見えるのが本来VRの特性であるが、この歯科用HMDでは映像をあえて、一部分のみ表示させるようにし、横を向くと映像が切れてしまう仕様にすることで、子供の視線を前方1点に集中させることができるため、歯科医は落ち着いて治療に集中することができるし、治療器具が見えることもないので、子供の不安を煽るようなこともない。


また、子供の顔が動いてしまった場合でも手元のタブレットで映像位置を変更できるため、安全に子供の視線移動ができ、歯科医も安心して治療に専念できる。


子供も、映像を追うだけで無理なく視線移動ができるので「自分でがんばれた」という自己効力感を得ることができる。治療や予防に対して積極的になるという効果も生んでいる。


実際に試した患者に話を聞いても、”映像に集中していて怖くなかった”などポジティブなコメントが多数あり、治療時間の短縮にも繋がっているらしく、既に大きな成果を感じているようだ。


 


コンテンツ面の課題




費用も3点セット(コントローラー用のタブレット、視聴用デバイス、歯科用HMD)で、20万程度を想定しているようで、比較的安価で導入が可能だ。


ただ、もちろん課題もある。HMDが治療中に外れる危険性や、消毒が出来ない点などは試行錯誤の末、歯科用HMDのバージョンアップで既に解消済みのようだが、HMDを装着することに慣れていない方が、装着すること自体に恐怖を覚えてしまう事がある点だ。


この辺はVRの普及に伴い、徐々に解決していくとは思うが、最も大きな課題はコンテンツ面だろう。


多くの子供は「ドラえもん」や「妖怪ウォッチ」など、有名IPを好んで見る傾向にあるらしいが、これらのIPは、大人の事情でスタートアップが利用するのには、なかなかハードルが高い。


その点をどう解消していくのか?が、この小児歯科治療向けVRサービスの先行きを左右するのではないだろうか。


松村氏と開発メンバー


 


日本の小児歯科マーケットは、少子化傾向もあるため規模感的には大きくないそうだが、グローバルで見た時にはかなりの規模になるため、松村氏としては今後、海外も視野に入れ、動いていくようだ。


日本から世界へ、VRサービスが広がるキッカケになるようコンテンツ制作で協力してくれる企業はいないだろうか?


興味がある方は以下より、ぜひ連絡してほしい。


 


BiPSEE公式サイト:http://www.bipsee.co.jp/


Contact:http://www.bipsee.co.jp/#_7


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 小児歯科医療現場の課題解決を図る「ヴァーチャル・プレパレーション」とは?