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2017年5月30〜31日の期間、名古屋にてJapan VR Summit 2017が開催された。
日本のVRシーンの最先端を走る企業経営者や、長きにわたってVRの研究に携わってきた研究者などの講演会などが催される一方、VRをビジネスに活用すべく開発、研究に励む数多くの企業が出展された。
当記事では、5月30日に行われたセッション「これが世界だ!VR/AR × 製造業の最新事例」の内容をもとに、現在のAR市場の動向や、これからARが職場やモノづくりのプロセスにどのような影響を与えるかについて考察する。
セッションは約40分間にわたり、GREE VR Capital, LLC.にてCEO兼取締役社長を務める筒井 鉄平氏によって行われた。
2016年は数多くのハイエンドVRヘッドセットが発売され、スマホVRもGear VRなどのメインプレイヤーの登場により一気に市場に広まったが、筒井氏によるとVRの普及は今まさに始まったばかりで、現時点で出荷されているHMDの総数は約700万台で、5年後の2022年には1億台に達するという予測を示した。
一方でARも様々なデバイスが開発、出荷されており、年末にはMicrosoftとAcerが共同開発したMRヘッドセットが発売され、今年夏にはZenfone ARが発売、またGoogleのAR技術Tango搭載のスマートフォン、Phab2Proは既に出荷が開始されており、2017年はARも大きな飛躍を見せることが予測される。
同時に、ARを製造業に取り入れようとする取り組みも積極的になされており、製造業に特化したMRデバイスも徐々にではあるが登場し始めている。
米DAQRI社が開発するARヘルメット、”Smart Helmet”は現場での製造業務に特化して作られたHUD搭載ヘルメットであり、従業員は作業の工程や設計図、指示などをARディスプレイによって確認することができ、途中で作業を中断することなくこれらのタスクを行うことができる。
筒井氏は一度DAQRI社にてSmart Helmetを体験したことがあるとのことで、「かなりの重量があり、一日中これを着けて動き回るのはきついと感じたが、既に100社を超える企業から注文が入っている」とのこと。
HoloLensを製造業に応用する取り組みは日本でも行われており、詳細は下記にて説明するが、現在市販されている開発者キットは約30〜50万円と高価格だが、筒井氏がMSの社員と語ったところによると、そう遠くないうちに次のバージョンが出る予定で、価格も下がるとのことであり、今後も注目に値する。
米Meta社が開発するARヘッドセット“Meta 2″は、HoloLensよりも広視野角の90度、2560 x 1440の解像度を持ち、インサイド・アウトのトラッキングとジェスチャー操作によってホログラムを掴んだり、動かしたり、ペンやブラシを使用することもできるが、使用にはケーブルをPCに差し込む必要がある。
Meta 2の価格は約15万円とHoloLensよりも安く、日本でも購入することができる。
ARは、ビジネスにおいてどういった役割を果たすのか、筒井氏は大きく4つに分けた。
遠隔地で作業する人間に指示やアドバイスを与える際、ARヘッドセットやスマホARを経由し伝えることが出来るリモートアシスタントとしての機能に、ARは大きな役割を果たす。
Scope ARなどの企業が現在開発を進めており、ビジュアル化された指示内容を直感的に理解することができ、作業工程の簡略化や正確な把握を期待することができる。
マニュアルを映像化してARグラス上に表示し、自分がいま行なっている作業をアシストする形でデータが表示されるバーチャルマニュアルとして、ARを活用する動きが進んでいる。
バージニア州のUpskillとSkylightという企業がGEで実験を行なったところ、ARグラスを用いた場合、取り付け作業で34%、倉庫内のピッキング作業で46%、作業時間を短縮することに成功している。
車やバイク、家の設計図を図面や2D映像で完全に把握することは難しく、VRやARを使って実物大のモデルを3Dで共有することによって、より正確で直感的に理解することができる。
JVRSでもブース出展していたユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが開発するAR CAD Cloudは、クラウドを介してCADデータをHoloLensでシェアリングするサービスであり、車やバイク、工作機械などのデータをAR空間上で確認することができる。
筆者も体験したが、車や機械をジェスチャー操作で動かしたり、顔を近づけるとモデルの内部が実物大で表示されて、製品の正確な姿を完成前に直感的に理解することができ、大きな可能性を感じた。
ARによって、店舗内での商品探しをよりスムーズにしたり、もしくは遠隔地から商品を実物大で3D表示することによって、たとえば服であれば違うサイズの服を買ってしまう、というリスクを避けることができる。
先日Psychic VR Labがchlomaと共同で発表したコレクション「chloma x STYLY HMD Collection (REAL⇄MR⇄VR)」では9月にアプリを配信する予定で、VR/AR空間内で商品を実物大でチェックすることができる。
5月31日にはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでエバンジェリストを務める伊藤 周氏によって、「HoloLensで広がるビジネスシーン」という題でセッションが行われ、HoloLensの特徴、課題、そしてHoloLensの国内活用例が提示された。
1:Mixed Realityー現実世界に3Dデータを重ね合せる技術を用いており、現実を拡張する。
2:単一デバイスーPCやスマホを必要とせず、スタンドアロンで動作する。
3:ジェスチャー、音声入力ーキーボードやタッチスクリーンを用いず、音声とジェスチャーによってデバイスの操作やアプリをコントロールできる。
4:シェアリングー一つのデータをHoloLens装着者やVRHMD装着者同士でシェアすることができる。
5:アプリの作りやすさーVRは周囲の風景すべてを作り込む必要があるのに対し、ARでは必要なデータのみを作れば良く、また開発ツールのHolo Tool Kitが非常に高性能である。
1:視野角の狭さーHoloLensを体験したことのある人なら誰もが感じることであるが、HoloLensの視野角は狭く、データの上部と下部が途切れてしまうことがよくある。
2:高価格ー開発者向けキットで33万円かかるが、やがて1000ドル以下のコンシューマー版が発売される可能性もある、とのこと。
3:スペックーHoloLensのストレージは64GBしかなく、スタンドアロンARコンピュータとしては高性能ではあるが、ビジネス活用のためにはよりハイスペック、高解像度、広視野角が求められる。
1:清水建設ー清水建設が取り組む海上都市計画”Green Float”の建築データの、外観から断面図までをホロレンズで見ることができる。
2:Yamagata Corpー整備士がHoloLensを被って必要な情報をAR表示することによって、必要なトルク数など、新人に分かりにくい要素をAR共有することによって、マニュアルを読まなくても作業しながらデータ参照ができる。
3:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンー上記でも説明したが、AR CAD Cloudによって、車や建築などの3Dデータを実物大でAR共有することによって、デザインチェックなどを簡単、スピーディに行うことができ、データはクラウド経由でやり取りするためデバイスの容量を食わずに済む。
ARは製造業をはじめ様々なサービスに活用する実験がされており、今後も注目すべき分野だ。
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