VRやARのような映像を使った技術と相性が良いのが、視線を追跡するアイトラッキング技術だ。ユーザが見ているものを判断することでデバイスへの入力として利用したり、視野の中心にあるものだけを高解像度でレンダリングしたりと、様々な利用法が期待される。


一方で、ほとんど無意識な行動からユーザの興味を収集できてしまう点に関してプライバシーのリスクも指摘されている。アイトラッキング技術は消費者にとって危険な存在なのだろうか?


アイトラッキングの効用


PCゲームをアイトラッキングで操作する


アイトラッキング技術は、もはやSFの世界だけのものではなくなっている。作業中に使用するゴーグル型の装置はもちろん、ディスプレイに取り付けてパソコンを視線で操作するための外付けセンサーまでも実用化されている。


PCゲームでの利用


既にいくつかのPCゲームではアイトラッカーを使った入力に対応しており、視線によってカメラを操作したり、敵に狙いをつけたりといった操作が可能だ。


HPや所持アイテムといったゲーム的な情報を表示するHUDを隠すことに対応したタイトルもある。プレイヤーが視線をやったときにのみそうした情報を表示するようにすることで、画面をより広く使える。キャラクターとの一体感も高まるはずだ。


もちろん、PCゲームに限らずVRゲームやARゲームでもアイトラッキングによる入力を利用することは考えられる。ヘッドセットを使うゲームでは頭の動きによってもキャラクターを操作できるため、あたりを見回すだけでも従来のゲームとは全く違う体験になるだろう。


Foveatedレンダリング


Foveatedレンダリングのイメージ


VRとアイトラッキングの組み合わせで特に期待されるのが、レンダリングの改善だ。VR映像の処理には、かなりのGPUパワーを必要とする。高性能なGPUを要求することで動作に必要なマシンの価格が上がってしまい、現実並の解像度を持つVRの実現には20年かかるとも言われている。


だが、ユーザが注目している部分のみを高解像度でレンダリングすることでGPUの負荷をかなり下げることができる。


「解像度を落とせば、ユーザは違和感を覚えるのでは?」と疑問に思ってしまうが、そもそも人間は視界の中心で捉えていないものをそこまではっきりと見ていないという。視野の端は解像度が低く、しかも白黒でしか見えてない。しかし、脳が処理することで情報を補っているのでそれに気づくことはない。


アイトラッキング技術によってユーザが見ている場所を判断できるようになれば、必要な場所だけを現実並の高解像度でレンダリングしたVRも夢ではなくなるはずだ。


ハンズフリーでの操作


アイトラッキング技術を使えば、一切手を使わずにデバイスを操作することもできるようになる。ユーザにとって楽なだけでなく、直接触れる必要がないので清潔なのもポイントだ。


家庭では、快適なソファに寝転んだままテレビの大画面でネットサーフィンといった利用法が考えられる。視線だけでページをスクロールし、リンクを選択できるのでマウスは不要だ。


業務用途では、工場で作業しながら視線での操作が可能なARヘルメットが既に開発されている。手術中や調理中など、手を汚せない場面でもデバイスを利用できるのはメリットとなる。


プライバシーの問題



アイトラッキング技術はこのように便利・快適にデバイスを使えるようにしてくれる反面、プライバシーの問題を孕んでいるのも事実だ。


視線が秘密を暴く


上記のようなユーザのための機能を実現するために、アイトラッカーはユーザが見ているものを常に追跡し続けている。この情報を端末が利用するだけならば良いが、ユーザの視線の動きはマーケティング担当者にとって非常に興味のある情報でもある。


アイトラッカーが普及すれば、少数のサンプルだけでなくあらゆる消費者の行動を収集できるようになる。どのような広告がより消費者の注意を惹き付けることができるのか、実際に購買に繋がりやすいのはどの広告なのかといった情報を簡単に集められるのだ。


インターネット上の広告には、ユーザの行動に基いて内容を変更するものがある。メールの内容やアクセスしたサイトに応じて、ユーザが利用する可能性の高い広告を表示するものだ。スマートフォンにインストールされているアプリケーションや、GPSによっても広告の内容は変更される。


これらと仕組みは似ているが、アイトラッカーが収集する情報となると少し事情が違うかもしれない。クリックするリンクは選ぶことができるし、GPSをオフにすることもできる。だが、視線の動きは無意識に近く、止めるのは難しい。アイトラッキングによってユーザが隠している(あるいは、本人さえも気づいていない)興味・関心を第三者に知られてしまう可能性がある。


広告の表示程度であれば大きな問題にはなりにくいが、個人を特定する形で企業がユーザの情報を収集できてしまうとトラブルに繋がることも考えられる。


業界の対応


TobiiやSMIといったアイトラッキング技術を開発する企業も、この問題について認識している。プライバシーの不安が解消されなければアイトラッキングを利用しないという消費者も多いはずなので、彼らにとってもこの問題への対処は大きな課題だ。


一つの解決策として考えられるのは、業界の標準化団体がアイトラッキングによって得た情報の利用に制限を設けることだ。まだ新しい技術であるアイトラッキングの標準化は行われていないが、将来的にはVRの標準化を目指すKhronos OpenXRがこの技術をも取り込むかもしれない。


トラッキング情報を研究・開発用途以外に利用しない、個人を特定できる形で保存しないといったルールが定められれば、消費者も安心してアイトラッキングを利用できるようになるだろう。


法的な制限


しかし、業界団体の定めるルールはあくまでも企業が自主的に守ることを期待したものだ。最終的には、この新しい技術が悪用されるのを防ぐための法的な制限が必要になるだろう。


多くの場合法律の制定には時間がかかり、ITの進化に遅れる形となる。ユーザを守るためにも、業界と技術が健全に進歩するためにも、アイトラッキングに対応できる枠組みの早い完成が望まれる。


 


正しく利用されれば、アイトラッキング技術はVR/ARの発展をさらに加速させてくれるかもしれない技術だ。確かにプライバシーの不安は存在するが、危険な技術として避けるにはあまりにももったいない。


既にアイトラッキング機能を持つVRヘッドセットも登場しているが、次世代のヘッドセットでは標準的な機能として搭載されるようになってもおかしくない存在だ。


 


参照元サイト名:Readwrite

URL:https://readwrite.com/2017/05/26/eye-tracking-in-vrar-promise-and-privacy-perils-dl1/


参照元サイト名:VR Room

URL:https://www.vrroom.buzz/vr-news/trends/eye-tracking-vrar-promise-and-perils


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 VR技術と結びつくアイトラッキング技術の魅力とリスク