言語のQ&Aアプリ「HiNative」を運営する株式会社Lang-8代表取締役CEOでありエンジニアの喜洋洋さんに、起業のきっかけやサービス開発についてお伺いしました。「HiNative」は、ユーザーの96%が海外ユーザというグローバルなコミュニケーションサービスで、Google Play内でその年に話題となったアプリに贈られる「ベストオブ2017」にも選出されています。


 


起業後にエンジニアが不在。独学でプログラミングを習得。


――喜さんの起業のきっかけを教えていただけますか。


大学生の頃に、中国語の勉強をするために1年間上海に留学していました。そのときに、毎日中国語で日記を書いて中国人の友人に添削してもらい、お返しとして僕が日本語を教えるというランゲージエクスチェンジをしていて、中国語の上達にすごく役立ったんです。日本に帰国するとSNSが流行りだした頃で、「SNSで言語を教えあえたら面白そう」と思ったのがきっかけです。その後起業し、異なる言語のユーザーさんが文章を添削しあうプラットフォーム「Lang-8」を作りました。


 


――当時からプログラミングやデザインはできたのでしょうか。


いえ、全くできませんでした。よく起業したなと思うくらいです。起業して最初の1年はエンジニアはアルバイトの方だけでした。2年目にやっとエンジニアが1人入社し、彼が「Lang-8」の大半をつくってくれたのですが入社1年半後に喧嘩別れをし、僕一人だけになってしまいました。


当時は既にユーザーさんもいる状態だったので、会社にとって大変な危機でしたが起業家として自ら乗り越えなくては、と思いプログラミングを学びはじめました。当時は、エンジニアへ質問できるサービスやオンラインで学べる環境もなかったので、かなり非効率で2年ほど時間がかってしまいました。


 


――既にあるサービスを運営しながらの学習なので大変そうですね。


当時は、とにかくプレッシャーが凄かったです。いつサーバが落ちるか不安で、3時間以上寝られませんでした。当時は今みたいにクラウドではなく、物理的なサーバがオフィスにあったのですが、壊れてデータが飛んでしまうことがありました。エンジニアとは喧嘩別れでドキュメントなども何も残っていないので、まずは壊れても自分で再現できるようにサーバの構成を展開して全く同じものを作れるようにしなければなりませんでした。



 


プログラミングができたことで経営判断にも役立った。


――お一人の状態から今では人を増えていらっしゃると思うのですが、どのようにメンバーを増やしていったのでしょうか。


1年目にインフラ、2年目にRailsを学んで僕自身一通りできるようになり、会社としても人を増やそうという状態になったタイミングで京都から上京してきました。僕がプログラミングできるようになると採用の判断もしやすくなりますし、エンジニアの方からの信頼も得られるようになりますね。それで徐々に人を増やしてこれています。


 


――採用以外で、プログラミングを習得してよかったことはありますか。


たくさんあって、できて無かったらここまでこれていません。経営者としてはプログラミングができるようになってから、ビジネス的な優先順位と技術的な難易度を比較して、判断ができるようになりました。個人的には、非技術職の方も基礎を勉強して、感覚として「こうやって動いているんだ」と理解してもらった方がだいぶスムーズに仕事ができると思いますね。



 


「HiNateve」は、簡単なことを聞いても恥ずかしくない空気を重要視。


――2014年にリリースされた「HiNative」はどのように誕生したのでしょうか。


HiNative」も「Lang-8」とコンセプトは同じで、文章を書いてネイティブスピーカーに添削してもらうサービスです。やりたいことは同じなのですが、世の中がPCからスマホにシフトしていくなかで、スマホに最適化したサービスとして「HiNative」が生まれました。



 


――リリースしてみて、ユーザーさんの反応はいかがでしたか。


「Lang-8」は根強いユーザーさんがついて下さっているのですが、「HiNative」は気軽に使って下さる方が多いです。「Lang-8」は文章をしっかりと書く必要があるので、ストイックなユーザーさんが多いですが、「HiNative」は一言からでも質問できるので、スマホ時代に合っていると感じます。


 


――辞書で調べるような単語も気軽に質問しあっている印象を持ちましたが、そのあたりはいかがでしょうか。


そこは強く意識していています。PCの場合、質問すると「ggrks(ググレカス)」の文化なんですけれど、「HiNative」の世界観はそうではないんですね。そのため、使い始めの段階で「簡単なことでも聞いていいんだ」や「こんなこと聞いても笑われないんだな」という質問に対する不安を取るような設計にしています。



 


人には自分の知識を共有したい欲求が備わっている。


――具体的には、どんなシチュエーションで使われていることが多いですか。


例えばLINEやMessengerなどで相手の文章の意味が分からないから教えて欲しいというのものや、写真を撮って意味を質問されていらっしゃる方もいます。あと、音声も投稿できるのでで、自分の発音自然ですかとか、「○○」って発音してくださいなどもありますね。


 


「ネイティブスピーカーに聞いたら解決するのに」という疑問をパッと解決できるように利用して下さっています。質問をしているうちに、教える面白さを感じて回答側に回る方もいます。



 


――教えることが面白くなる工夫ってされているのでしょうか。


実は、Q&Aサービスって回答してもらうことは簡単で質問する方が難しいんです。実際に「HiNative」でも質問に対し回答数の方が数倍多いです。本来、人間には自分の知識を共有したい欲求があると思っています。特に、海外の人は、自分にできることは助けてあげたいという思いが強い人が多いです。


こんなこと質問したら笑われるんじゃないかな、とか、ググった方が早いというような理由があり、質問のハードルが高いと思います。


 


――世界中で利用されていると時差もありますが、「HiNative」は回答のスピードは重視されていますか。


回答がつきやすい時間帯はありますがど、ユーザー数が増えているのでエリアや時間帯も網羅できはじめています。あと、回答スピードは重視していて、施策を行なっています。昨年よりも回答スピードは約2倍早くなりました。ただ、即レスとまではいかないので、目標は「ペコッター」のようなスピード感でできるといいなと思っています。


 


海外ユーザーが96%。絶対にグローバルなサービスにしたかった。


――海外のユーザーさんはどのように「HiNative」を知ってダウンロードされていらっしゃるのですか。


「HiNative」は、96%以上が海外ユーザーさんです。絶対にグローバルなサービスにしたいという想いがあったので、日本では全く広告を出さずに海外のユーザーさんを増やすことに注力していました。


「Lang-8」の経験から、アジア圏のユーザーさんは自然に増やしやすいと思っています。中国では口コミで1日3万登録増えたりしますし、韓国や日本、台湾も何かきっかけがあればガッと増えます。その辺は時間の問題なので、まずは難しい方から取り組んでいますね。英語学習のニーズが高いので、今は英語のネイティブスピーカーの方を意識的に増やしています。


 


――海外のユーザーさんに使いやすいようなUIなどで、気をつけているところはありますか。


できるだけシンプルなUIを心がけています。また、アイコンのマークも国によって意味が異なることがあるので、日本人の感覚で入れないようにしています。例えば、ビギナーを日本の初心者マークで表現すると海外のユーザーには通じません。


 


あとは、アプリ内での質問はWebにも表示されるのでWebの検索流入が増えています。将来的には「Stack Overflow」のように、言語について検索すると「HiNative」が出てくる状態にしていきたいと思っています。



 


クロスボーダーでユーザー同士がコミュニケーションをとるサービスは珍しい。


――「Lang-8」も「HiNative」もサービスの軸は異なる言語圏の方々のコミュニケーションですが、Lang-8としてサービスをつくるときに大事にしていることはありますか?


ネイティブスピーカーの知識や経験を共有できるサービスにしていきたいというのが、一番大きなところです。例えば大航海時代に、インドでは香辛料は当たり前のものだけれど、ヨーロッパに持っていくと希少な価値がありましたが、それと同じです。ネイティブスピーカーにとっては当たり前にわかることでも、それを学んでいる人にとってはとても価値があります。自分とは違う言語圏の人とのコミュニケーションを通して、新しい知識が増えたり、地域や国への理解が進んでいくと思います。


グローバルなサービスでTwitterやFacebookにしても、実はやりとりは同じ言語圏の方々ということが多いです。「HiNative」のようにクロスオーバーで当たり前にやりとりしているサービスは珍しいので、そこは僕らの価値だと思っています。


 


――異なる言語のユーザー同士のコミュニケーションでどは、のような関係が生まれていますか。


「Lang-8」のお話ですが、ユーザー間でメッセージが送れる機能がありました。出会い目的の人は厳しく削除しているのですが、そうではなく半年間お互いに真面目に言語を教えあって国際結婚したという例が僕が聞いただけでもいくつかあります。以前、僕がフィリピンに英語留学に行った際に、偶然向こうで知り合った方が「Lang-8」のユーザーさん同士でご結婚された方でした。日本人の奥様とフィリピン人の旦那さんとお子さんもいらっしゃって。それは、とても感動しました。



ハイレベルに学習したいニーズに答えた「HiNative Trek」。


――「HiNative Trek」がリリースされて半年経っているのですが、いかがですか。


順調に増えています。「HiNative」はC to Cでユーザー同士が教え合うものですが、一方で「有料でも確実に先生に添削してほしい」「課題を出してほしい」というニーズもありました。


そのため、「HiNative Trek」は毎日、テキストや音声の課題とそれに対する模範解答を用意し、更に回答に個別にフィードバックするサービスを提供しています。英会話は予約が必要ですが、「HiNative Trek」の場合、自分の好きな時間に学習できるため時間効率がいいです。また、テキストも音声もデータとして残るので、復習もしやすいのは特長です。


 


――ITの専門コースがあるとお伺いしました。


IT業界に特化した内容を学べるコースを用意しています。例えば、「うちのアプリは、競合の2倍のMAUです。」等、実際に現場で使う表現が学べます。他にも、投資家とのやりとりを仮定した問題では質問文に対し、自分の考えを英語で述べてもらいます。ここまで振り切った英語学習教材は、なかなか無いと思います。シリコンバレーで働いている英語ネイティブスピーカーに監修してもらってて、実際に起業家の方に多く使っていただいています。



 


「HiNative」は、自動翻訳が進化するラストワンマイルのデータを持っている。


――今後「HiNative」をどのようにしていきたいかというところについてお願いします。


会社としてやりたいことは「Lang-8」時代からずっと変わっていなくて、1億人が使うサービスです。ユーザー数については手応えがありまして、最近の伸びを見ていると1億人は現実的になっています。サービスとしては、ネイティブスピーカーの知識や経験を通したコミュニケーションを増やしていきたいと思っています。


 


――今後AIや機能としての翻訳が進化していくと思うのですが、「HiNative」のネイティブスピーカーに質問できる価値はどうなっていくと思いますか。


自動翻訳が基本的になってら、外国語を勉強する人はほぼいなくなると思っています。そのときに「HiNative」は、単語や文法ではなく文化にシフトすると思っています。今でも、言語に関する質問以外に文化や細かいニュアンスに関する質問があるんですよ。これらも、ネイティブスピーカーやその国に住んでいる人だったら当たり前に分かることで、言語と同じようシェアできるものです。むしろ、言語にこだわっているつもりはありません。


また、翻訳も完璧になるにはまだまだデータが必要だと思っています。ラストワンマイル的なデータを「HiNative」は持っています。特に音声データ珍しいので、自動翻訳の発展にむしろデータ面で貢献できると思っていますね。


 



インタビュアー:新嘉喜りん(キラメックス株式会社)


 


情報提供元: TechAcademyマガジン
記事名:「 「ユーザー数1億人は見えてきた。」海外ユーザー96%の外国語Q&Aアプリ「HiNative」のこれまでとこれから。|株式会社 Lang-8喜洋洋