介護業界を変えるのは「埋蔵時間」―― カイテクが示すスポットワークの真価
「超高齢社会」を迎えたいま、介護ワーカー不足の深刻化は大きな社会的課題となっています。
経済産業省の試算では、2030年には仕事と介護の両立困難などに伴う経済損失が約9兆1,792億円に達するとされています。こうした採用強化だけでは埋まりにくい構造的な人材不足に対し、有資格者の「埋蔵時間」を活用する新たなアプローチが注目されています。
これを受け、先日都内で行われた「カイテク株式会社」主催のラウンドテーブルには、同社代表の武藤高史氏と「株式会社SOYOKAZE」人事部採用チーム部長の大橋邦彦氏が登壇。単発バイトにとどまらない「地域の専門職ネットワーク」構築の最前線と、現場で起きている具体的な変化について、意見が語られました。
課題の再設定と「埋蔵時間」への着目
介護業界における人手不足は、もはや単なる施設内の欠員にとどまる問題ではありません。
厚生労働省の推計によると、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされ、2022年度と比べて約57万人を新たに確保する必要があります。介護人材の不足はサービスの供給体制だけでなく、家族介護の負担増にもつながる社会的な課題です。仕事をしながら介護を担う「ビジネスケアラー」の増加は、離職や生産性低下などを通じて大きな経済損失をもたらす可能性も指摘されています。
「しかし実は、介護事業所が365日24時間ずっと人が足りないというわけではありません。早朝の起床・朝食介助や夕方、夜勤といった特定の時間帯に穴が空いているのが現実です」
日本における人材不足の実態についてこう指摘するのは、「カイテク株式会社」代表取締役社長の武藤高史氏。
そこで同社が従来の採用強化施策(外国人材やアクティブシニアの活用など)に加えて着目したのが、「潜在有資格者の埋蔵時間」です。武藤氏は続けます。
「これは、現場を離れた介護福祉士や看護師などの有資格者が持つ“月数回・1回数時間なら働ける”時間のこと。潜在有資格者の埋蔵時間は年間約16.6億時間と試算され、2040年に不足する57万人分の年間労働時間(約10.9億時間)を上回る規模となります」
同社では、不足する人数を採用だけで埋めるのではなく、すでに地域に存在する「時間」を現場へ戻す取り組みに挑んでいると明かしました。
業界特化型スポットワークの仕組みと現場の実効性
同社開発の「カイテク」は、登録者を介護福祉士や看護師などの有資格者に限定した、業界特化型のプラットフォームです。登録ワーカーの9割以上が1年以上の実務経験を持ち、約6割が介護福祉士の資格を保有しています。
「カイテク」では、事業所側が「入浴介助」「夜勤」など業務を細かく分解・定義して求人を作成することで、資格と経験を持つワーカーとの即時マッチングが可能。全国的なマッチング率は約90%に達しており、単なる一時的な補填ではなく、同じ事業所に繰り返し勤務するリピーター率(2回以上勤務)は90%、10回以上のヘビーリピーター率は70%を記録しています。
武藤氏はサービスの狙いについて、次のように述べます。
「私たちが目指しているのは、単発のアルバイトではなく、地域の専門職ネットワークを作っていくこと。事業所ごとに馴染みのワーカーが蓄積され、困ったときに打診できるワークシェアリングのインフラを目指しています」
さらに、勤務を通じて職場との相性を確認した上で、直接雇用へ移行するケースもあります。登録ワーカーの約3割が、将来的な転職の可能性を示しているといいます。
導入現場が語る変化と「副産物」としての質的向上
ここで、全国で介護事業を展開する「株式会社SOYOKAZE」の人事部採用チーム部長・大橋邦彦氏が登壇。現場での導入効果が語られました。
同社では従来、人手不足を補うために派遣人材を積極的に導入していましたが、コスト面が大きな課題となっていました。カイテクの導入後、派遣利用規模は従来の約3分の1にまで削減され、毎月の採用人数の約20%がカイテク経由の直接雇用へとつながっているといいます。
大橋氏は、現場の働きやすさに関する具体的な変化について次のように明かします。
「お盆期間など職員が休みを取りたいタイミングにスポット的にカイテクを活用することで、休みを確保できています。従来の派遣では2~3ヶ月単位の契約が必要となり余剰人件費が発生していましたが、このようにピンポイントで補填できるため、職員のエンゲージメント向上にもつながっています」
また、外部人材が現場に入ることによる影響として、導入当初の不安とそれを乗り越えた後の想定外の効果にも触れました。
「導入前は『どんな人が来るのか』という現場の不安が大きかったですが、相互評価の仕組みやカスタマーサクセス担当者の伴走支援により、安心して受け入れられる体制が整いました。第三者の目が入ることで、新たな気づきが生まれる。また、現場スタッフも背筋が伸び、ケアの質やホスピタリティが向上するという副産物も得られました」
武藤氏もこの指摘に対し、「外部からの評価や視点が持ち込まれることで、ブラックボックス化しやすい現場に新しい循環が生まれ、業界全体の質的向上に寄与できます」と頷きました。
今後の展望と持続可能な社会インフラへの道
カイテクは現在、登録ワーカー数約141万人、登録事業所数約3.2万カ所に達し、47都道府県すべてでマッチング実績を有しています。大阪府や神奈川県、豊田市、世田谷区など7つの自治体との連携協定も締結しており、地域ぐるみで潜在有資格者を掘り起こす取り組みが進行中です。
今後、同社は介護・看護領域にとどまらず、薬剤師や医師への領域拡大を進めるとともに、無料で提供しているシフト管理サービス「カイテクシフト」を通じて全国的な人員配置の最適化を推進する方針とのことです。
最後に、両氏は今後の介護業界のあり方と展望について以下のように締めくくりました。
「人口動態として働き手が減る中、正社員が担うべき専門的な業務と、一定の経験があれば対応できる業務の切り分けを事業者側が適切に設計していく必要があります」(大橋氏)
「埋蔵時間を掘り起こし、全国にサービスを届けることで『人手不足がない世界』を本気で作りに行きます。テクノロジーを掛け合わせ、日本だけでなく世界一幸せな超高齢社会を成功に導く立役者を目指します」(武藤氏)
人口減少が進むなか、介護現場の人材不足を採用だけで解決することは、さらに難しくなっていくと考えられます。地域に眠る有資格者の「埋蔵時間」を必要な現場へつなぐカイテクの取り組みが、これからの介護現場をどのように支えていくのか注目されます。
<取材・撮影・文/櫻井れき>