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チームをけん引する「リーダー」は特定の人のみに与えられたポジションではありません。予測困難で不確実な時代では、すべての人がリーダーの素養を備えなければなりません。なぜか。現代に求められる「リーダー」の意味を考えます。【週刊SUZUKI #91】
チームの目標達成に向け、メンバーをけん引してゴールに導く人――。こうした先導者や指導者を一般的に「リーダー」と呼びます。部署や部門を統括するマネージャーやプロジェクトの責任者、もちろん会社の全責任を負う経営者には、リーダーとしての素養が求められるのは言うまでもありません。統率力や課題解決力、さらにはメンバーを鼓舞したり円滑なコミュニケーションを取ったりする力も含め、あらゆる能力を駆使してゴールに突き進む責務を負っているのがリーダーです。
そんなリーダーの定義が今、大きく変わろうとしています。リーダーの素養を持つべき対象が広がりつつあるのです。マネージャーや責任者、経営者だけが備えればいいわけではなく、企業に所属する全従業員がリーダーとしての素養を求められるようになっているのです。「リーダーの素養なんて一部の役職者が身に付けていれば十分」という考え方は、すでに通用しなくなっているのです。
ではなぜ、すべての従業員にリーダーとしての素養が必要なのでしょうか。背景には、企業を取り巻く環境の変化が挙げられます。
日本は今、衰退の一途をたどっています。2024年の世界GDPランキングは3位から4位に転落。5位のインドに今にも抜かれる状況です。私たちの暮らしに目を向けると、高止まりを見せない物価高の上昇、物価高に追随できない低い賃上げ率。企業では原材料費や資材調達費、人件費などのコスト増が収益を圧迫し続けています。
一部の業種の景況感は回復基調にあるものの、多くの業種の景況感は国内需要の伸び悩みなどを理由に悪化しています。為替相場の先行きは不透明感が強く、積極的な設備投資を打ちにくい状況も続きます。まさに、予測困難な「VUCA」時代に突入しているのです。
日本はもとより世界経済が好調なら、将来を予測しやすいでしょう。確かな予測のもと、設備投資にも踏み切れるでしょう。しかし、数ヵ月先の状況さえ読みにくくなった今、多くの企業が成長に向けた布石を打てずにいるのです。
このような状況で企業が成果を上げるには、組織やチームをけん引するリーダーが意思決定するだけでは不十分です。そもそも予測困難な状況下であらゆる事態を想定するのは難しく、リーダーが適切な解決策を導き出すには限界があります。社会や経済、世界情勢、顧客、競合企業、先端技術などが複雑に絡み合う中、一人のリーダーがすべての重責を負うのが難しくなりつつあるのです。
そこで求められるのが、各自の実行力です。リーダーからの指示で動くのではなく、各自の専門性を活かし、主体的に行動することが求められているのです。組織やチームが直面する課題は、より複雑で専門性も高まりつつあります。過去の経験や成功体験を駆使しても解消できません。専門外のスタッフが解決に乗り出しても適切な施策なんて導き出せません。どんなに優れたリーダーであっても、自身の専門外の課題に向き合うのは難しくなっているのです。こうした中、解決の切り札となるのが、専門領域に強みを持つスタッフ一人ひとりです。自身の専門性を駆使するほか、何をすべきかを自主的に考え、行動できるようにすることがチームの推進力を高めます。リーダーの指示を待つことなく、一人ひとりが積極的な実行力を示せば全体のモチベーションは高まるし、ゴールに向けた取り組みも加速させられます。一人ひとりがリーダーのように課題をとらえ、判断し、実行して事態を好転させることが、不確実で予測困難な時代を勝ち抜く術となるのです。
各自が実行力を発揮するには、各自が明確なビジョンや目標を持つことが大切です。チームのビジョンや目標を達成するため、各自が何をすべきか、何を求められているのかを考え、達成に向けて行動すべきです。先々のゴールをイメージし、辿り着くためのアクションプランを作り出せる素養が、全従業員に求められています。
不確実な時代だからこそ、成果につながるヒントを膨大な情報の中から探し出す力も求められます。自身の専門領域ではどんな動きがあるのか、どんな成功事例があるのか、どんな施策が有効なのかを調べ、現場のスタッフが課題解決に向けて主体的に行動できるようになるべきです。こうした情報収集力と実行力がチーム全体の課題解決に寄与し、ひいてはプロジェクトを加速させるのです。さらに、玉石混交な情報の中から価値ある情報を探す力も必要です。価値ある情報をもとに意思決定し、不確実な時代であっても確実性を高められるようにします。
各自が確固たる実行力を養うには、一人ひとりのスキルアップも不可欠です。予測困難な時代では、これまでの経験や勘はもちろん、過去に学んだスキルや知識は必ずしも活かせません。その時代に合うスキルや先端技術を習得し、絶対的な自信を持って行動できるようにすることが大切です。強みをさらに磨くリスキリングに取り組む一方、過去の考え方や知識を捨て去るアンラーニングも、実行力を発揮するには必要です。
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。他に、日本オムニチャネル協会 会長、SBIホールディングス社外役員、東京都市大学特任教授を兼任。