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顧客に寄り添ったシステム開発に強みを持つSCSK。そんな同社がAIを駆使したアパレルEC事業者向けの支援サービス「MIM
鈴木:SCSKではECサイトを運営する事業者、さらにECサイトを利用する消費者向けにユニークなサービスを提供しています。それが「MIM(ミム)」です。具体的にどんなサービスなのかを教えてください。
末永:「MIM」はMy Image Model(マイ・イメージ・モデル)の略称で、当社では次世代型のパーソナライズドスタイリングツールと位置付けています。画像生成AI技術を活用し、デジタル空間で現実のように衣服を自由にスタイリングできる体験を提供します。
鈴木:MIMの特徴や強みを教えてください。
末永:特徴は3つあります。1つめは「パーソナライズ性」です。MIMを使ってスタイリングしたいユーザーは、自身の身長や体重といった体型情報だけでなく、髪型や髪色、肌色などを細かく設定し、自分の雰囲気に似たAIモデルを使ってデジタル空間上でスタイリングを楽しむことが可能です。さらに、自身の顔写真をアップロードすれば、より自分にそっくりなモデルが作成できます。こうしたAIモデルを使うことで、実際に店舗で試着するのと変わらない試着体験をデジタル上で体験できるようになります。
2つめは「カスタマイズ性」です。トップス、ボトムス、ワンピースといったさまざまなアイテムを自由に選び、それらを組み合わせて全身をコーディネートできます。これまでのECサイトでは難しかった複数アイテムを組み合わせたスタイリングを簡単に試すことができます。
3つめは「ビジュアライズ性」です。従来のフィッティングツールは、あくまでシルエットを確認するにとどまるものが少なくありませんでしたが、MIMは服の生地感や肩の落ち具合、体のラインに沿ったドレープ感など、リアルな着用感を忠実に再現できます。
こうした3つの特徴により、ユーザーの「私に似合うのか、似合わないのか」という不安を視覚的かつリアルに確認して解消することができます。また、それだけではなく、たとえば自分の理想の体型をイメージしてAIモデルを生成すれば、ダイエット成功までのストーリーを描きながらショッピング体験を楽しむことができるようになります。
鈴木:EC事業者はこうした新しい購買体験を自社のECサイトに実装できるわけですね。実装に手間はかかるのですか。
末永:MIMはSaaSサービスのため、ECサイトの商品詳細ページにMIMへのリンクを設置するだけで利用可能です。ユーザーが商品詳細ページに設置されたリンクを押すとMIMのサービスに遷移し、そこでAIモデルに服を試着させることができます。一度作成した自分のAIモデルは保存できるため、次回以降はワンクリックで呼び出して試着を楽しめます。
鈴木:MIMを導入したECサイトは競合との大きな差別化を見込めるようになりますね。さらに、ECサイト運営業務の負荷改善にも活用できそうです。
末永:はい。MIMを使ってスタイリング画像をクイックに生成することができるため、モデル撮影やコンテンツ制作の時間とコストを削減できます。これにより、新商品の発売からECサイトでの販売開始までのリードタイムを短縮し、機会損失を防ぐ効果も見込めます。多様なモデルとコーディネートのバリエーションを自由に作成できるため、商品訴求力も格段に向上します。
ほかにも、利用者の「この服は私に似合うのかな」という不安を解消することで、ECサイトの安心感や信頼感を醸成できるようになることも強みです。複数のアイテムを組み合わせた試着による「ついで買い」を促進し、顧客単価の向上も見込めます。さらに、アパレルECにとって課題となりがちな「返品率」も、MIMを使うことで低減できます。また、ECサイトでの活用にとどまらず、オンライン接客や店舗での接客時の補助ツールとしても活用できますし、どんな服が試着されているのか、どんな服が購入されているのかなどのデータを商品開発に役立てることもできると思います。このように、MIMはアパレル業界の幅広い業務に貢献できるサービスだと自負しています。
鈴木:なぜMIMというサービスを提供しようと考えたのでしょうか。開発までの経緯を教えてください。
末永:MIMを生み出すきっかけは、私のECサイトでの購買体験です。私は日用品などはECで購入していたものの、衣服などのアパレル製品はほとんどECを利用していませんでした。「なぜ買わないのか」を突き詰めた結果、ECサイトで気になる服を見つけても、モデルが着ているから格好良く見えるだけだと思い込み、「自分が着たら似合うのだろうか」という不安を拭えないことが理由だと気づきました。そこで、「この服が自分に似合っているのかをすぐに知りたい」と考えるようになり、MIMを開発する大きな動機となりました。
また、私たちSCSKは、これまで多くのアパレル企業様をご支援してきました。アパレル企業様が抱えるさまざまな課題を解決したいという思いを常に持っていたこともあり、その取り組みの一環としてMIMの構想が具体化していくことになったのです。
鈴木:画像生成AI技術の進化もMIMの構想を後押ししたと推察します。
末永:その通りです。MIMを開発し始めた当時は、ChatGPTやGeminiに代表される大規模言語モデル(LLM)の登場により、生成AI技術が話題になり始めた時期でした。近年、生成AI技術はさらに飛躍的に進化し、生成AIを活用したソリューションが増えてきていますが、当社では、こうしたトレンドが起こる1年以上前から画像生成AIの研究を続けており、この領域については他社より先行しているという自負があります。生成AIが関心を集める中、MIMを世に送り出すには絶好のタイミングだったと考えています。
鈴木:MIMを開発するにあたり、苦労した点や難しかった点があれば教えてください。
末永:特に問題だったのは、先行企業がいなかったことです。バーチャル試着という概念自体は昔から存在し、サイズフィッティングツールや、VRを使ったアバター形式の着せ替えサービスなどはすでにありました。しかし、そうしたツールでは「自分に似合う洋服を見つけたい」というユーザーのニーズに完全には応えられていないのではないかと思いました。自分自身に似たモデルに対し、現実と遜色ないリアルな着用画像を生成できるサービスはなかったのです。そのため、市場には「バーチャル試着」という文化が根付いてなく、どのように価値を訴求すべきか、文化をどう創造していくかに悩み、苦労しました。
一方、技術面では「リアリティの追及」に苦労しました。高品質な画像を生成するためには、360度で全体を撮影した服のデータやさまざまな人が着用した学習データが必要です。しかし実際には、こうしたデータは十分揃っていません。アパレル企業にこうした膨大なデータを用意してもらうのは現実的ではないし、負担にしかなりません。
そこで当社では、一般的なECサイトで使われている「置き画像」や「吊り画像」といった1枚の写真から、リアルな着用画像を生成する技術の開発に取り組みました。AIモデルも同様に、たった1枚の顔写真をもとに利用者そっくりなAIモデルを生成することに取り組みました。これらの技術を組み合わせてAIモデルに服を着させる技術も含め、リアリティを追及するために、多くの困難な技術開発が求められました。
鈴木:相当難度の高いプロジェクトだったと察します。
末永:リアリティを追求するため、アパレル企業から提供される商品データだけではなく、MIM独自に用意したデータも組み合わせてAIをチューニングしました。どのように生成AIに指示を出すべきなのかも試行錯誤しながら研究を進めていきました。こうした取り組みにより、服の質感や布のたるみ、影の表現などといった細かな部分まで再現した画像生成を実現したのです。なお、MIM独自のデータや開発で培ったナレッジによるチューニングは、他社にはないMIMの優位性だと考えます。他社が容易に追随できない参入障壁になると考えます。
構想からサービスインまでは、まさに「茨の道」を進むような感覚でした。先行企業がいないが故に、自分たちで道を作り、価値を証明していく必要がありました。ようやくMIMをお客様に提供するフェーズに至りましたが、これからも挑戦し続けなければならないと考えています。
鈴木:MIMを利用する消費者、ユーザーにどんな価値を提供していきたいと考えていますか。
末永:MIMは「自分を映す鏡」であると考えています。今のECサイトには、実店舗と違い、服を着たときの印象を確認する鏡がありません。鏡なしでは、服を着たときの印象をイメージできないし、似合うかどうかも分かりません。こうした状況を払しょくするのが「自分を映す鏡」となるMIMです。ECサイト上の「鏡の不在」を解消し、実店舗で鏡を見るように、服を着たときの印象を確認することができます。似合うのか、似合わないのかといったユーザーの心配を、「鏡」を用意することで解決できます。今も多くの人が「ECサイトでは服を買いにくい」と感じているかもしれませんが、こうした考えを根底から覆すのがMIMの価値です。
鈴木:MIMの今後の機能強化の予定などがあれば教えてください。
末永:現行は女性モデルの生成だけですが、今後はメンズモデルやキッズモデルも追加する予定です。身長や体重だけではなく、体型パターンをさらに拡充し、多様な体型のAIモデルを生成できるようにしたいと考えます。さらに、AIモデルのポーズも増やしていく予定です。背面や側面からのアングルの試着表示を可能にし、より多角的な着用イメージを提供していきます。もちろんAIの開発も継続します。生地の質感やドレープ感、シワなどをさらに精緻に表現できるようにしたいと考えます。現実と見分けのつかないレベルまでクオリティにこだわっていきます。さらに今後は洋服だけではなく、ファッション雑貨などのアイテムも試着対象と加えられるよう対象を増やしていきます。
一方、バックオフィス向けには、データ分析機能を実装する予定です。BIやダッシュボード、レポート機能などを実装し、EC事業者が試着状況や顧客データなどを商品開発やマーケティング戦略に活用できるよう支援していきます。さらにマーチャンダイザー(MD)向けに、デザイン開発段階で試着のシミュレーションを可能にする機能追加も視野に入れます。服の写真が1枚でもあれば、開発段階で試着イメージを確認できるようにしたいと考えています。その他、ユーザー同士がMIMを通じてつながり、スタイリングを共有したり、意見交換したりできるようなコミュニティ機能の検討も進めています。
鈴木:SCSKとして今後の目標やビジョンがあれば教えてください。
末永:MIMを通じて、「ファッションを自由に楽しめる世界」を創造したいと考えています。そのためにはバーチャル試着の文化を根付かせなければなりません。そこで、ECサイトが抱える「鏡の不在」という根本的な問題解決に注力したいと考えます。すぐに効果が表れるわけではありませんが、EC市場が抱える課題から目を背けず、愚直に向き合い続けていきます。この地道な取り組みが、ファッションを自由に楽しめる世界をもたらすのではと考えます。MIMが新たな世界を築くきっかけになればうれしいですね。
鈴木:MIMがもたらす効果と見据える世界観、とても興味深く聞かせていただきました。MIMの今後も展開とともに楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
末永:こちらこそ、小売に精通する鈴木さんとMIMについてお話する機会をいただき誠にありがとうございました。
SCSK株式会社
https://www.scsk.jp/index.html
次世代型パーソナライズドスタイリングツール MIM(ミム)
https://www.scsk.jp/sp/mim/
※MIMおよびMIMサービスロゴはSCSKにより商標登録出願中です。