日本オムニチャネル協会の取り組みやビジョンを深く知る連載企画第3弾。今回はロジスティクス分科会のリーダーを務める小橋重信氏に話を聞きました。同氏はなぜ、ロジスティクスの必要性を説くのか。企業が理想的なロジスティクスを描くために乗り越えなければならない壁とは。さらに、この業界で求められる人材像とは。同氏がロジスティクスにかける熱い思いに迫ります。

写真:小橋 重信 株式会社リンクス 代表取締役

1992年にアパレル会社でブランド事業を運営し、上場から倒産までを経験。その後、SONY通信サービ事業部でIT関連に関わり、2005年に物流会社OTSで、EC物流などの新規事業の立ち上げに携わる。現在は、物流コンサルティング会社リンクスを立ち上げ、「物流から日本の企業を元気にする」をミッションに、物流の現場改善から物流戦略の見直しなどを支援する。ビジネススクールなどでロジスティクスについて講演するほか、日本オムニチャネル協会の物流ボードメンバーとして活動し、2021年にはダイヤモンド社より「メーカーの仕事」を共著で出版。物流系YouTube「ロジカイギ」配信中。

在庫の適正化こそ企業存続の生命線

――ロジスティクスとは何を指すのか。改めて教えてください。

ロジスティクスとは「モノの流れ(物流)を一元管理すること」を指します。もともとは軍事用語で、戦争の際に軍事物資や生活物資を前線へ計画的に補給するという意味で使われていました。これをビジネスに置き換えたのがビジネスロジスティクスで、ビジネスロジスティクスには活動し続けるために必要なリソースを補給するという意味があります。物流は「モノの流れそのもの」を表し、物流はロジスティクスの一部という考え方が一般的です。

――小橋リーダーはなぜロジスティクスに注力するようになったのでしょうか。

私が以前勤めていた会社が、物流をきっかけに倒産したのが理由です。
私は約10年間、アパレル会社に勤務していました。そこではブランドマネージャーも経験しました。当時は成長フェーズで、上場を果たして売上も右肩上がりのときでした。しかし、そんな会社が倒産してしまったのです。

倒産の原因は「在庫」でした。売上至上主義で衣類などを次々生産したものの、大量に売れ残って在庫が膨らんだのです。その結果、資金繰りが急激に悪化し、倒産に追い込まれました。どこにどんな商品がどれだけ残っているのかを把握できなかったのが、倒産の決め手となったのです。

その後、アパレル企業の物流業務を受託する会社で、ECサイトの商品を管理する新規事業立ち上げなどに参画しました。ここで多くの企業の「物流」の実態を目の当たりにすると、ロジスティクスに課題を抱える企業は少なくないと気づいたのです。在庫の適正化こそ企業存続の生命線であると強く感じ、在庫管理や輸配送管理、さらには生産や調達計画も含めてロジスティクス事業を成功に導く取り組みに注力するようになりました。

ロジスティクスが抱える課題

――企業のロジスティクス部門が抱える主な課題を教えてください。

ロジスティクス領域で最優先に議論すべきテーマは「在庫」です。在庫にまつわる課題を解消しない限り、企業の成長は見込めません。とりわけ在庫過多や在庫不足といった倉庫内の課題は、会社の収益化や販売戦略など、部署ごとの施策や目標などが複雑に影響し合っている状況に帰着します。

例えば、一度に大量の資材を仕入れて調達コストを削減する企業は少なくありません。しかし調達した資材分の製品を生産しても、それらがすべて売れるわけではありません。つまり、部分的な視点で調達部門が自部門のコスト削減目標を果たそうと取り組んだ結果が、生産部門や販売部門に影響し、ひいては在庫過多といった形で倉庫内の問題を引き起こすことになります。縦割りの組織体制が部分最適化を招いている状況が、在庫問題の根底にはあるのです。

――いわゆる「2024年問題」も喫緊で解決しなければならない課題ではないでしょうか。

その通りです。人材不足は物流業界に限った話ではありません。しかし、人材不足が他の業界より深刻な物流・運送業界では抜本的な施策や事業改革に踏み出さない限り、解決するのは難しいのではないでしょうか。

物流・運送業界は現在、働き方改革関連法の施行によりトラックドライバーの勤務時間が原則として月45時間以内、年360時間以内に制限されています(臨時的に超える場合があっても年960時間以内)。さらに、1日、1ヵ月、1年の拘束時間や1日の休息時間、運転時間も改善基準告知によって基準が設けられています。これらを前提とした、トラックドライバーの働き方に考慮した物流・配送網の構築が求められているのです。

写真:ロジスティクス分科会で全社一丸による取り組みの重要性を熱く語る小橋リーダー

取り払うべき2つの「壁」

――このような課題を解消するためにはどうすべきでしょうか。

課題を解消するためには、2つの「壁」を取り払うべきです。
1つは組織の壁です。企業は物流部門に集中した部分最適化した活動を行っています。しかし倉庫で起きている問題に対して、物流部門が対処できるのは2割程度と言われています。残りの8割は生産や販売部門の計画や施策、さらには会社の売上至上主義の戦略が原因となっています。つまり部門を横断した全社戦略を打ち出さない限り、ロジスティクスが抱える課題には踏み込めません。したがって会社の全体最適を考え、倉庫や物流部門といった組織の壁を超えるべきなのです。

もう1つが企業の壁です。人材不足といった課題を自社のみで解決しようと考えるのではなく、取引先や顧客、さらには競合他社も含めて解決策を模索できるようにすべきです。「企業」という枠を超え、企業同士が手を取り合う体制づくりこそ、喫緊の人材不足を解消する切り札となるのです。すでに「2024年問題」に対し、「企業」という枠を超えて課題解決に乗り出す動きが出始めています。食品業界やコンビニエンスストア業界の一部の企業は、競合他社と手を組んで共同配送を実施しています。トラックの積載効率を高められるほか、ドライバーの労働時間削減も見込めます。このように一社では解消するのが難しかった課題に対して、企業の壁を超えた解決策を実行していくべきです。

――組織や企業といった壁を乗り越え、ロジスティクスが抱える課題解決に寄与する人材には、どんなスキルや経験、姿勢が求められるのでしょうか。

視座を高く上げ、多角的に物事を捉えることができる人だと思います。
前述したように、倉庫内で起きている問題は物流部門だけでなく、さまざまな要素が影響し合った結果です。したがって確実にお客様に商品を届けるためには、一連のフローを横断的に見ていかなければならないのです。

確かに、物流は言われたことだけをやっていれば何とかなるかもしれません。しかしそのままでは価値を生まず、物流部門が会社内でヒエラルキーが低いままです。そのため、組織や企業の壁を超えるためにも、視座を高くもつべきです。投じた費用に対して、どれだけの利益を上げられたかを示す指標であるROIや財政状態を示す貸借対照表(BS)を通じて、会社全体の課題に気づく多角的な捉え方が重要です。つまり壁を超えることができるのは、部門など部分最適だけでなく、「会社にとってどうあるべきか」と全体最適を考えられる人材です。

――言われたことをやるのではなく、全体最適を考え、多角的な視点から主体的に行動する人が必要とされるのですね。

はい。そうでないと物流は変わりません。高度経済成長期では作ったモノは売れたので部門として縦割りの組織でも対応できました。しかしモノが売れなくなった現在では需給調整に合わせてちゃんと必要なものだけ作っていかなければいけません。そのため需要を創造するマーケティング的な発想と、その需要に対する着実な遂行をするサプライチェーン的な発想での両輪が必要です。こうした発想を持つ人が必要なのです。

様々な視点を知るロジスティクス分科会

――ロジスティクス分科会はどのような場でしょうか。

業界や業種を問わず、さまざまな企業の参加者が集まることから、多角的な視点を養える場になっています。
一般的に物流といえば会社のバックヤード。営業のような顧客接点はなく、業務の取り組み方や考え方が閉鎖的になりがちです。そこで働くスタッフの業務も属人的です。他社の業務を参考にしたり、海外事例を取り入れたりといった姿勢に乏しく、自社固有の物流業務しか知らず何が正しいのかさえ分からない企業は決して珍しくありません。

こうした閉鎖的で属人的な業務に陥りやすい環境を改善するのがロジスティクス分科会の役割です。多くの参加者と議論を深めることで実際に改善できるのが強みです。物流や在庫、輸配送などの共通の課題を抱える企業の担当者同士が集まるからこそ、より良い方策を導出できるのではと考えます。さまざまな意見が新たな気づきを得るきっかけとなり、課題を多角的な視点で捉えることもできるようになります。こうした成長の機会を提供できるのがロジスティクス分科会なのです。

写真:ロジスティクス分科会で参加者の事例を発表し合う様子

――ロジスティクス分科会ではどのようなことを目指しているのでしょうか。

ロジスティクスが企業にとっての基幹業務だと認識してもらうことを目指します。物流業務に携わる関係者が、自分たちが会社の成長を根底から支えているんだとプライドを持てるような意識改革も目指せればと考えます。 ロジスティクス分野は領域が広いことから難しく感じる人は少なくありません。参加者の関心に答えながら学ぶ機会を用意するので主体的に参加していただきたいです。

参加者の声
『ロジスティクス分科会の活動を通して、自分とは異なる環境やさまざまな立場の人の考え方に触れることができ、多くの学びを得られました。分科会では倉庫見学も実施。普段の業務では知りえない現場の問題を目の当たりにし、考えさせられる面も多々ありました。分科会で学んだ知見やノウハウを自社に持ち帰り、実際に施策として改善に取り組めたのは大きな成果です。物流に興味を持ったおかげで、新たな商品企画の提案やコスト削減などにつながり、会社に貢献できたと感じています。』

『日本オムニチャネル協会は、業界や企業、事業領域などにとらわれることなく、興味を持ったことに自由に取り組める組織です。DXの実績が豊富なレジェンドから、これから現場改善に取り組もうとするチャレンジャーまで、さまざまな経験やスキル、課題を持つ人と意見交換できるのも魅力です。ロジスティクス分科会でも、いろいろな立場の人の意見や提言がどれも参考になります。分科会のあの場を体験すれば、自社のロジスティクスを改革できるのではないか。そんな期待しかありません。それだけの価値が、ロジスティクス分科会にはあると思います。』

編集後記
記事を読んでいただきありがとうございます。今回ロジスティクス分科会についてインタビューさせていただき、閉鎖的になりやすい物流について、表立ってこんなにも熱い思いを発信する方は他にいないと感じました。私は今まで「ロジスティクス」という言葉に難しいイメージを持っていました。しかし、小橋リーダーの思いを知ることで必要性を理解することができましたし、知れば非常に面白い世界だということが分かりました!(ロジスティクスに触れる場がなかっただけで、この面白さを知らなかった過去の自分が悔しいです…)また組織や企業の壁を超えるためには、「全体最適を考え、多角的に物事を捉える」ことが必要だと教わりました。自分からの視点ではなく、異なる立場の人や俯瞰した全体の視点を持つことが壁を超えることにつながります。様々な壁を超えることは他の場面でも必要で、共創していくことで課題が解決することは多いのではないかと思いました。

執筆:小松由奈


一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/


情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 【連載企画】第3弾:ロジスティクスは倉庫業務を改革するだけでは最適化しない!会社の土台作りに主眼を置くロジスティクス分科会リーダーの小橋重信氏に迫る